第3話

その日から女の唯一の趣味であり、息抜きでもある

週末のスィーツショップ巡りは、これまで以上の楽しさを

与えてくれた。

自分のスィーツの他に、必ず彼用の土産も買い求めるよう

なったのだ。

彼の喜ぶ顔を思い浮かべるだけで、自然と口元がほころぶ。


それから2週間の後、女は彼から食事に誘われた。

いつも美味しいスィーツをもらっているお礼だと。

一度は恐縮し、丁重に断りを入れたが、結局彼の強引さに負け

承諾の意を示した。

顔には出さなかったが、内心は飛び上がるほど嬉しかった。

女はその日に備え、久しぶりに新しいワンピースを購入した。


彼が案内してくれたのは、こじんまりとした居酒屋だった。

洒落たレストランなどを想像していた故に、お世辞にもキレイとは

言い難い外観を見て失望した事を思い出す。

店に入ると威勢の良い大将の声がふたりを迎えてくれた。

一番奥まった席に向かい合わせで座ると、早速彼は手書きのメニューを広げ

「遠慮しないで、好きなもん頼んでね」

少し声を潜めると

「ここ、店は汚いけど味は絶品だから」

悪戯っぽく笑う。

「僕のおススメはね―――――」


テーブルの上に並んだ、彼お勧めの品々。

焼き鳥の盛り合わせ、皮付きのポテトフライ、鰹の三和土、揚げ出し豆腐。

そして女が頼んだ、鶏の唐揚げに、チーズ春巻き。

早速、小皿に取り分けた揚げ出し豆腐に箸をつけた。

カリカリに揚げられた豆腐を噛むと、中からじわっとだし汁がしみ出し

口内いっぱいに広がる。

「美味しい!」

思わず声を上げると、彼は自分の手料理を褒められたかように

嬉しそうな顔をした。

「でしょ?僕も初めて食べた時はあまりの旨さに、涙目になるくらい感動したよ。

 じゃあ、これも食べてみて―――――」

『味は絶品』その言葉に嘘はなかった。

何を食べても美味しい。女は夢中になって片っ端から料理を平らげていく。

女をじっと見つめる彼の目はとても優しく細められていた。

「あの…」

箸をおき、僅かに頬を染める女に向かって彼は言った。

「すごく…可愛いよ」


―――――その夜、上司は『恋人』へと変わった。





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