酔い方は人によって違う【前編】

 最後の授業が終わり、赤理は立ち上がって向かおうとした。


「おい、赤理・・」


 その時声を掛けたのはなんと遥河であった。


「・・・これ・・くれるの?」


 遥河が渡したのは、お守り、遥河にしては気が利いた事だった。

 赤理はちょこんと礼をし、受け取ると、すぐさま菓子折りを持って教室を出た。

(俺に迷惑を掛けたくないんだな。)

 だが、遥河は自分の席に腰をかけて自習。何も行動しない。


「なぁんだ、あんた結局何もしないじゃん。」


 柏木小百合が声を掛けた。


「高校生は勉強しないとだめなんだぞ?お前も俺なんかに声を掛けてないで、勉強したらどうだ?」


 柏木はそれを聞きため息を付いて帰る。


 勉強に集中していたら、夕方になっていた。

「あ、いけね。」

 遥河は立ち上がり、帰りの支度をする。


「本当になにもしなかったわね。」

「うわぁッ!びっくりしたッ!」


 赤理の席で本を読んでいる黒髪ロングの美少女


「…なんで後ろにいるんだ?」

「さぁ?なんででしょうね。」


 彼女は高円寺琴音こうえんじ ことね総理大臣 高円寺康介の孫娘。全校切っての美少女でお嬢様、だがいつも一人でいて、本を読んでいる。


「・・・学年で名高い高円寺様がこんなクズに何の用ですか。」

「あら、私の事知ってたのね。」

「まぁとある知人からかな。」

 それは、シュンが教えてくれた事だった。


「あなたのような評判が悪い人に知ってもらえても、私が困るわ。」

(そうですか。)

「長谷川赤理。彼はどう足掻いても助けられない・・それが現実。現実は理不尽なのよ、あなたもそう思って、ここにいたんでしょ?」


「・・・・」


 遥河はカバンを背負い立ち去る。


「やっぱり違うか・・」ボソ


 遥河は立ち止った。

「・・・無理とか理不尽とか、いつも決めつけんのは自分なんだよ。」


「全く、そうね。」


「だから、見せてやるよ。今までにない新たな光景をよ。」


 そのセリフを聞いた高円寺は驚いた表情で振り向いた。しかし、そこに遥河

 の姿はもうなかった。


(今までにない新たな光景・・・)「あの人と一緒だ。」


 1階特別教室にて、赤理が体罰を受ける時間になる。

 赤理は椅子に縛られ、半泣きになっていた。


「長谷川ぁ。かわいい顔して男、なんて罪な奴なんだ。そして御曹司に失礼を働いて、あぁ・・・これは罪だッ!」


 田代は罰を与える時快楽を得る変態だった。


(はるかには絶対迷惑を掛けないんだ。これは僕の戦いなんだ。)


 そう言い聞かせる赤理。しかし田代はこんなことでは満足しない。


「そういえばお前がかばった小芽川、次はあいつに菓子折り渡すかぁー!」

「は、はるかは許してもらったんじゃないんですか!?」

「んぅ~?わたしは転校初日は許すと思っていたのだが?明日はもう違うだろ?

 」

 赤理はこの理不尽さに思わず泣いてしまった。


「そうそう・・・そうやって罪を受け止め、わたしに罰を与えてもらえる事を幸福に感じるんだなッ!」


 そういって、田代は木製のバットを振り上げる。


「失礼しまーす。あ、取り込み中すみません、田代先生に用事があったもんで。」

 そこに現れたのは遥河だった。


「き、貴様、どうやってここを見つけた!?しかも鍵はどうやって開けた!?」

 遥河は赤理に近づき、縄をほどく。


「大丈夫かー?赤理、まぁ、まだなにもされてないよな。」


「は、はるかぁぁぁー!」赤理は遥河に抱き着いた。


「よせ!BLになっちまうだろッ!」しかし、赤理は離さない。


「わたしを無視するなぁぁぁぁぁッ‼‼‼」


 田代は大声で叫ぶ。


「うるせぇな、動物園でも行ってろよ。」遥河は去ろうとした。


「まて、まてまてまて、さっきの質問がまだ聞けてないぞ?」


 田代は動揺しているようだ。遥河は頭をかきながら面倒臭そうに話す。


「えー、赤理に持たせたお守りがGPSになってて、それをたどっただけだ。ただ、警戒心の強いあんたは時間ギリギリになんないとここまで連れて行かないからな。あとは鍵、巡回の職員さんが回ってくる時間にあわせて待った。そのあとは職員さんにバレないようマスターキーを奪って使えば簡単に入れるだろ?」


「あの時渡したお守り・・・本当にお守りだったんだ。」赤理は照れた。


「ふふふふ・・・そうか、それは罪だねぇ~、盗みは大罪だ!君もわたしの罰を受けなくちゃだめなんですよ。」

 どうやら田代は逃がす気はない。


「じゃあ、なんだ?体罰を受ければいいのか?」


 田代は不気味な笑顔をしだす。


「気が変わったよ、キミにはわたしとゲームをしてもらうことにした。」

「ゲーム?」


 赤理が鬼気迫る表情をした。

「はるか!だめだよ?これにのったら――ッ」

「黙れ、長谷川。わたしは小芽川と話しているのだ。今きみには興味がない。少し失せたまえ。」


 赤理はうつ向いたまま、遥河の後ろに隠れた。


「まぁ、座りたまえ、小芽川。きみにはわたしとポーカーで勝負してもらう。但し・・」

「但し?」

「金を掛けてもらう、つまり、ギャンブルさ!」


 通常高校生の賭け事はご法度、だが今の時代は違う、高校生でも賭け事はできる。そしてここは体罰が行われるくらいだ、体罰免除となれば受けるやつもいるであろう。だが、相手は田代、何を企んでいるかわからない。そのことを赤理は知っていて、止めようとしたのだ。


「よし、乗った。」


 遥河は即答であった。


「ええ!?いいの!?はるか、」

「え?別にいいんじゃねーの?」


 余りにも浅はかな遥河に戸惑う赤理、田代はただにやけていた。

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