人はどんな場所でも心の拠所を探す

 午前の授業が終わり、昼休みになる。


「赤理きゅん、大丈夫?まさか、菓子折りなんて…」


 女子が遥河の後ろの席、赤理の周りに集まる。

 遥河は一人で黙々弁当を食べていた。

(そういえばこいつ、授業中ずっとうつむいたままだったな。)


 そう考えていると後ろから急に女子たちが遥河の方を向く。


「元はと言えば転校生が悪いのよ、私見たの、校舎裏で転校生と土田君が言い合ってた所をッ!」


 後ろからキツイ目線が遥河に刺さる。

(おいおい、まじかよ・・)


 遥河は決して振り向かなかった。


「ねぇ!聞いてるんでしょ!?あんたが身代わりになれば赤理が助かるのよ!」その女子は遥河の肩に手を掛ける。


「やめてよッ!」赤理が突然叫んだ。


「はるかは関係ないんだッ!友達なんだよぉッ‼」


 赤理の言葉はクラスを黙らせた。そして赤理は走って教室を出た。

 すると肩に手を掛けていた女子が怒った表情で遥河を見つめる。


「ねぇあんた、友達なんでしょ?助けなさいよ!」


 遥河は面倒臭そうに答える。


「はぁ?それを言ったらお前らも友達なんだろ?それだったらお前らが助ければいいじゃないか。」


 これを聞くと、そいつは黙った。


「さゆりぃ~、もうそんな奴放っておこうよぉ~」


「‥‥ッ!もういいわ‼頼まないわ!」


 そういってその女子たちは立ち去った。


(なんだあいつ、俺にこんなにもちょっかいかけて・・・

 確か、柏木小百合かしわぎさゆりだったけ・・・・まさかな。)


柏木はマドンナ的存在で、よくクラスを仕切ったりする美少女。

そんな彼女はよく遥河に突っかかって来たのだ。


「あ、あのー!」

 なんだか面倒臭そうな声が聞こえる。


「小芽川遥河さんってあなたですか!?」


「ん?」


 顔をあげると、そいつはまさかの佐藤シュンであった。

「え、お、おまえシュンか!?」

 思わず名前を言ってしまった。


「やっぱり!師匠だったんですね!転校生の小芽川って聞いてまさかと思い、走って来ちゃいました!そしたら、だいぶ変わってましたけど面影が師匠かなって思って。師匠にまた会えて嬉しいです!」


 またもやクラスがざわつく。


「え、あの学年トップ3に入るA組のイケメン、シュン君がなんであんなクズ転校生とッ!?」(クズばれるの早いな)


「まぁ、あのパチンコ以来だな。」


「へへ、そうですね!あ、そう師匠!学年中で噂になってましたよ!田代を怒らせたクズ転校生って!さすがです、僕たちでは出来ないことを師匠はやったんですよ!」


 シュンは目を輝かせ言うが、遥河は苦笑い。


「え?そんな噂になってるのか?」


「なってます!」


「クズって誰がつけた?」


「田代です!ずっと小芽川のクズめって言ってたので、それが広まったんですよ!」


(こいつ、よくこんな笑顔でボロカスに言えるな。)


「ところで師匠、弁当ご一緒に食べませんか?」


「あ、ああ・・・」


 シュンと一緒に屋上で弁当を食べる。


「師匠、同級生だったんですか~!あの時はなんか距離がありましたが、こうして一緒に弁当を食べれるのが嬉しすぎて感動しますよ~!」


「同級生なのにお前は敬語なんだな。」


「もちろんです!師匠にため言なんてできません!」


(なにをそんなに尊敬してんだか、)そんな事を遥河は思ったが、今は知り合いがいて少しは気持ちが良かった。


「そうそう!師匠!田代の菓子折り、D組で誰か出たんですね!」


「まぁ、そうだが・・・その菓子折りってなんなんだ?」


「…そうですね、師匠は転校したばかりなので知りもしないはずですが、

 菓子折りを貰った生徒は体罰を受けるのです。」


「・・・飴と鞭か。今時そんな事したら、ニュースで話題になるだろ?」

 シュンは肩を落とし真剣に語る。


「師匠、ここは私立で名も高い名門なんですよ、だからそんな些細の事は教育委員会で、もみ消されちゃうですよね。」


「それにしたって――ッ」

「そうッ!誰かは試そうとしたんです!ですが田代は政治家とも繋がっていて、全てをうやむやにするのです!」


 話を聞くと、田代にはコネが通じて、教育は名門大学を数名も出す実力者であった。ただそれは恐怖によるものだと言うこと。


「だから、僕たちはそいつに従わなければいけないんです・・。」

 田代はD組かつ学年主任、全クラスが標的になっていた。


「・・・つまんねーな。」

「え?」

「そんな青春、つまんねぇッ!」


 遥河は立ち上がり、屋上から出た。

「し、師匠!どこへ・・・はッ!まさか田代のところへ!?」

「え?もうすぐ授業だろ?早く戻んねーと。」

「し、ししょおぉぉぉぉぉぉッ‼」


 シュンは唖然とした。

「まぁ、そうだよね、師匠に期待してもダメなのはわかってるんだよ・・」   シュンは授業を遅刻した。

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