人は死の淵に立つと生を得られる

(俺にとって、生きる事は意味がない。そもそも生きることに実感が沸かない。

 そもそも生きている事で何がそんなに良いことなのか。病弱な人が生きたいと思うのはわかる。それは夢があるからだ。何故そんな事を思うのかと言うと、俺には守りたい奴も夢も希望も無いからだ。ただ死んで困るのはこれから出ようとする神アニメが見られない事だけだ。仕事なんてできないアルバイトで十分。こんな思考を持つ俺は世間からはクズに見えるんだろうな。

 ・・・ああ、また死にたくなってきた。

 だから今日も胸をときめかせる為、パチンコをしている。         )


 そう、こんなクズ男こそ小芽川遥河おめがわ はるかなのだ。


「なんであの時はあんなに女にしか興味なかったのか。高校では一途だった、

 だがあんまりにも変な女だったから別れて、それに反発して大学から女遊び・・・あの時は後悔してない、だが今は悔やんでる。またやり直せたらなと。」


 そう、こんなゲス男こそ小芽川——

「おい、今はゲスじゃないぞ、立派に改心してただのクズ男だ!」


 威張って言えることではない


「師匠、独り言ですか?」

「あ、うん・・」


 こいつは佐藤シュン。ここでパチンコしてたら俺に付きまとって何かと聞いてきやがる鬱陶うっとうしい高校生。俺は静かに打ちたいのだが、アドバイスしていくうちになんて恥ずかしいあだ名で呼んできやがる。

 ちなみにこいつは、かわいい顔してイケメンリア充・・・だと思う。

 ラノベ主人公ってとこだな。さぞいい青春を送ってるんだろう。


「あ、いけない!師匠これから用事がありますので、お先に御暇おいとまします!」

「あ、ああ。」


 シュンはそそくさ帰った。


「(さて、当たんねーし、俺も帰るとするか。)」

「ありがとうございましたー」店員の気持ち良い笑顔が余計に腹が立つ

「(ち、なにがありがとうだ、お金振り込んでもらいだろ?)」


 俺は死んだ顔で店を出る。

 しかし。そこで一人の女性が話しかけてきた。


「キミが・・・いや、キミ、ちょっといい?」

「ん・・え?」

 そこにいたのは一人のスレンダーな女性と、いかにも怖そうな男がいた


「(背と体格のでかいガードマンとこの女は27歳位のビッチか・・これは逃げられそうもないな・・・)」


 俺はパチンコ店の裏に連れてかれた・・・


「俺になんか用ですか?」

「小芽川 遥河くん・・でしょ?」

「え!?」

 俺は動揺して固まった。しかし女は笑う。

「フフフ・・・ッ!素晴らしいね!こぉんな童顔な子初めてだわッ!♡」

 女は感じたように見つめる。俺は唖然とした表情になった。


「ねぇねぇ♡遥河ってかわいい名前だよね♡これからあなたのことはるちゃんッて呼ぶわね♡」


「(うわぁー、ビッチくせぇー・・・ッてか褒めてんだか、けなしてんだか・・)」


 確かに俺は童顔で名前も女っぽい。

 だが、髭も生えてて煙草も吸っている。


「俺は25歳ですよ・・・」皮肉な顔で言う

「知っているわよ♡」

「!?」俺は少し後退りした。


「もー、そんな構えないで♪」

「・・どこで俺の情報を・・」

「ん?そこのパチンコ店の会員カードよ♪

 そこの店長とは古い付き合いでね♪」

「はぁ!?(あの糞店長・・・)」


 俺はため息をして渋々覚悟を決めた。

「んで、俺になんの用ですか?」

 いやらしい顔から突然真剣な顔になる女


「そうね・・・ちょっと場所を変えましょ・・ちょっと暑くて蒸れちゃうから♡」

「まぁ夏ですもんね・・(ビッチ)」


 俺は言われるまま近くの喫茶店に入る

 ガードマンは店の外で待たされた。


(カランカラン)

「よいしょ♡」

「・・・・・」


 席に座った。店のマスターが来る。


「注文は・・」

「私は甘いカフェモカで♪」

「そちらは・・」

「アイスコーヒーで」


 マスターが離れると、女は話しかける。


「あ、まだ私の名前言ってなかったね♡

 私の名前は神崎かんざき子音しおん!よろしくね♡」


 俺は名刺を渡され、目を通した


「・・・・んでそのの神崎様が俺に何の用ですか・・・」


 コーヒーとカフェモカが届く

 俺はコーヒーを口にした


「…まぁ聞いて頂戴‥。」

「あなたはこれから…

      として入学してもらうわッ!」

(ブふッ!)


 思わずコーヒーを噴出した。神崎はハンカチで俺の口周りを拭く

「やめてくれ‥‥ッん?」


 俺は先ほどの言葉を思い出し固まった。

 手に持っていたコーヒーを置く


「非常勤の教師でもやれと?」

「だーかーらー・・・高校生になってもらうのよ!」


 俺は煙草に火を点けた。

「ふー・・・具体的に?」

 俺は話に食いついた。

 神崎はニコニコして答えた。


「実はね・・パチンコ業界が不安定なのよ、それが予算に響いて今政治家は大変なのよねぇ・・」


「知ってる、規制による換金率低下と糞台、その為じじばばしかいない店、1パチでゲーム感覚で楽しむ輩の増加、お金を落とす若いのは止めるかスロットに流れているしな。」


「そうなのよぉ・・昔はもっと店が満員で、空いた席にやっと座れて打てる、そんな黄金時代もあったわねぇ・・

 だから今の時代16歳が成人に認められたこの時がチャンスなのよ!激熱なのよ!」


「風営法よく通ったな・・あれ・・」


「うん♡だって私が通したもん♡」


「(こいつかよ・・・いくらこの人が可愛いとわいえ、緩すぎだろ政治・・・)」

「ま、まぁ、それはいいとして、こんな事態になったのは、そもそもあんたらが規制したせいであるからな、被害者は店と業界、あと俺たち利用者だ。今更目に見えていたことじゃないか。」


「う‥痛いとこ付くわね…でもね…」


「…ん?」


 俺は煙草の火を灰皿に消し、コーヒーを一口飲み落ち着いた。

「…」

 なかなか喋らないので俺は思わず。

「…だからなん――」その時、神崎が口を開いた。

「若い人に流行らせなきゃいけないのよぉ~ッ!おねがぁぁいッ!そうしなきゃ私クビになっちゃうのよぉぉ!」


「うぃッ!?」


 神崎は俺に泣きながらせがんできた。


「おまッ!ほんとに政治家かよッ!泣くな!」


 神崎は足の袖を両手で掴んできた。


「うはぁぁぁんッ!頑張って、頑張って…やっと議員になったんですぅぅぅッ!」


「おいそれはやめろっ!兵庫県議会やってた人の真似すんじゃねーよッ!それこそ辞めさせられるわッ!」


 俺は掴まれた袖を振りほどいて、面倒な顔をしながら聞く態度をとった。

 神崎も渋々席にもどる


「…んで、要するに俺が高校に入学して、パチンコをはやらす事をできればいいんだな?」


 神崎はこれを聞くと不敵な笑みを浮かべた。


「そうッ!そうなのよッ!♡わかってくれたかいはるちゃんッ!♡」


「はるちゃんやめろ」


「つれないなぁ~♡…ほんとに(ボソ)」


「ん?」


 一瞬神崎から冷たい視線を感じた。


「まぁ集めてる人は、はるちゃんだけじゃないんだけどねぇ~♡」


「‥‥どういう事だ?」


 神崎は俺に全てを説明した。


 業界は20代の無職やフリーターで童顔なパチンカス共を集めて高校に入学させ、

 パチンコを広めようとしている事。

 パチンカス共をこれから半年業界の施設で研修させ、4月それぞれ一人づつ別の高校に二年生として転校と言う形で入学させる。

 生活にあたっては、業界が用意したマンションを使えばいい。

 その後はなんでも好きに生きていけばいいが、パチンコの宣伝だけは欠かさずにする事。宣伝活動上位5名に入れば借金帳消しプラス、当面の融資を約束される。


「‥‥なるほど。」


「はるちゃんも借金あるんでしょ♡しかもそれだけじゃなく、働かずにお金を貰えるのよ!十分にメリットじゃない♡あ!あとね‥恋愛はしちゃだめだよ♡」


「え?なんで?青春に恋愛は付きもんじゃないか?」


「馬鹿ね…はるちゃん歳いくつよ…」神崎は呆れた顔になった。


「うッ…」ぐうの音も出ない。


「犯罪だからね!はーんーざーい♡だからね、

 エッチもチューもしちゃ駄目だよ♡」

 俺は言い返す。

「16歳から成人になったんだから犯罪もなにも―—」

「うるせぇ」「はい」

 黙らされた。


 だが、俺はそこで考えた。


「(怪しい・・・話がうますぎる・・)」


 俺は親指と人差し指をこすり合わせながら考えた。

 ちなみにこれは癖である。


「(甘い話の裏には落とし穴がある・・・

 俺が引っかかっているのは上位5名・・何人中だ?しかもそれ以下はどうなるんだ?もし上位5名に入れなかったら――)」


「はるちゃん・・余計な考えはしなくていいから」

「!?」

 さっきの冷たい目線だ・・・ッと思ったら神崎は不気味に笑う。


「はぁー、まぁいいわ。そう、あなたの考えている通りよ…

 私が今話したことはこの計画のあまぁいッ…部分だけ、人は甘い部分しか見ないで勝手に判断して、勝手に自滅するのよ。単純でお馬鹿さんな人ほど♡」

「ふーん、まるであんたたちは虫食い花‥いや、人食い花だな。」

「いいえ、その例えは間違っているわ、私たちは花でもないし、

 あなたたちは人でも虫でもないわ。」

「じゃあ、なんだって言うんだよ。」

 神崎は急に口を手で隠し、感じたような笑顔になった。

「そう‥‥だわッ♡」

「‥‥ッ!?」

 俺はその時思った。「(最初にあった時、確かこいつは俺を見てこんな顔をしていたな…そうか‥‥これはを見る目か‥)」

 俺はどうしてもゴミとは思えなかった。人として、クズならまだわかる。

 だが、ゴミは人として扱われない。それはこんな俺でもイラっとした。


「そうッ!ゴミ共に無料ただでお金をあげるのよッ!なんの努力もしてこなかった奴らにありがたいお金をあげるなんて、そうそうできないわッ!」


 神崎は人が変わった用に語りだした。


「ゴミの処理には金がかかると仰いたいのか‥ひどい例えだぜ‥」

 神崎はこれを聞いて瞳孔が開く

「ひどい?馬鹿ね‥こんなゴミ共に救済処置をしてあげてるだけ感謝しなさい?

 いい?つまりね、あなたが知りたがっていた上位5名より下は――」(パチン)

「死ぬのか?」俺は先ほどからこすり合わせていた指を鳴らし答えた。

「無粋ね‥そのまんま死んじゃ意味がないじゃない?」

「…つまり?」

「…臓器売買よ。

 生かされながら臓器は徐々に売られ、どんどん、どんどん、中身は何もない空っぽの空洞人間になっちゃうの‥‥‥死ぬより怖いでしょ♡」


 俺は背筋が凍った


「ばかばかしい…」


 俺は煙草に火を点けようとした――


(ドンッ!)


 神崎は煙草にナイフを落とし、徐々に耳元でささや


「駄目でしょ♡   これからは

 禁煙       するんだから

 こんなの     吸ってたら 

 売り物に     ならなくなるでしょ♡」(ぺろッ)


(バッ)

 俺は舐められた耳を手で塞ぎ、体を引いた。


「(こいつ・・イカれてる・・ッ!?

 ・・・そうか・・腐っても政治家・・いや、これこそ納得だ。

 今までのは全部演技、相手に取り入る隙を作り、心を動かす。つまり役者。それを超越できるからこそ天才政治家か・・・)」


「・・・それがお前の本当の顔か・・・」

(ガタッ)

 俺はそのまま席を立ちだした。


「ねーはるちゃん。」


「この話」   「聞いて」   「帰れると」    「思うの?」


「(耳が遠く…)」「!?」目の前が暗くなる・・・・


「(あれ・・・意識が・・・まず・・い・・ッ)」


(ドサッ)






 気が付いた時、俺は業界の施設にベットで寝かされていた・・・

 俺はふと神崎の事を思い返した。


「(いつの間に眠らされたッ・・・いや・・

 あのハンカチの時か・・睡眠薬でも塗られたか?・・やられた――ッ)」


 だが

 俺は何故か笑みを浮かべた。


 自分でも驚いて思わず口を隠した。


 ただ、一つだけわかったことがある。


「これがせいの実感か・・・ふふ・・ふふふ」

「はッはッは――ッ‼‼‼」


 俺の満たされなかった何かが俺を満した。


「神崎め‥楽しませてくれるじゃねーか‥だが、あの時、

 俺が逃げるとでも思ったのか?

 冗談じゃねぇッ!こんな面白い状況誰が手放すかよ!

 あいつも甘いな・・甘々だなぁッ!

 だが、この状態も面白い・・俺はあいつに本意を気付かれていない・・

 あの調子に乗った女にいつかアホ面をかかせてやる。

 俺はお前より腐ってるからな・・・」



 そして半年の月日が流れた。


 ここから物語は始まる。

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