第1話

 1942年の日米が戦争中の太平洋上に浮かぶ島々の洋上で、魚雷が投下されると同時に機体が軽くなって揚力を得た分だけふわりと浮くような感覚を感じつつ、青い目をしたパイロットは機体の操縦桿を少し右に倒しながら手前にも引くことで自身が操縦する航空機……TBDデヴァステイターを右方向に曲げながら機体を空へと上昇させていった。機体が魚雷を命中させるべく狙った島の沖合に停泊する船……おそらくは食料や弾薬を載せた輸送船を通りすぎる際にエンジン音の中でも聞こえる連続した機関銃の銃声が轟き、自分より年下の機銃手が輸送船やその護衛の小型船に設置されている機関銃の射手と魚雷ついでの土産とばかりに派手な撃ち合いを演じていることが分かる。

 機体がある程度旋回すると狙うための角度が取れなくなったらしくこちらの機関銃は大人しくなったが、輸送船やその周辺の小型船からはチカチカと相手の機関銃がこの機体か周りを飛んでいる味方の機体めがけて銃弾を発射する閃光が見える。その様子をしばらく見ていたが、すぐに関心は輸送船の真横に上がった水柱とその直後に火球を船体中央から吹き出し盛大な爆発とともに黒煙を上げた輸送船に移った。どうやら島を防衛するための砲台用の砲弾を積んでいたか船の動力源であるボイラーに水が流れ込んでの爆発だろう。仮にボイラーの爆発であったとしても爆煙の規模からして弾薬を積んでいただろうし、何より荷下ろし前の輸送船を積荷と一緒に吹き飛ばせたのは日本軍にとって痛手だろう。

 通信機越しに後ろにいる2番席で雷撃……魚雷投下操作兼ナビゲーター担当と3番席で通信役も兼ねている後部機関銃手の歓声を聞き終えると、年上のナビゲーターに魚雷命中を称えると共に帰投する前に味方が一時合流するための地点への案内を頼むと指示があり、機体を合流地点へと向けた。


 この戦争……アメリカと日本の戦争は日本のアメリカ合衆国ハワイ州にある一大軍事拠点であるパールハーバーへの圧倒的な攻撃により、アメリカは当時の主力兵器である戦艦をはじめとする軍艦や航空機に大打撃を受け、それと同時に多くの将兵を失う形で幕を開けた。

 だが、それ以前から戦争は始まっていたともいえる。何より日本は以前から中国と日中戦争をしていたがその中国側の物資支援をアメリカはしつつ日本側との貿易を避けていたし、日本はヨーロッパに文化・技術的に追いつくべく近代化を進めていたが、近代化の維持発展に必要な物資に乏しい日本が国外に物資を求める必要があったこと、アメリカを含め近代化した欧米の国々は殖民地を持ち、足りないものはそこから仕入れていたが日本が物資を得るために勢力を伸ばしていくと欧米の殖民地にぶつかるのは必然であった。

 その戦争でアメリカは太平洋の重要拠点であったパールハーバーを攻撃され、太平洋の島々の多くはアメリカ本土から遠く離れた位置にあったことから押され気味であり、日本は東南アジアをはじめとする南方の島々に次々と上陸・占領を行い、太平洋全域をその勢力圏にしつつあった。これに対してアメリカ軍は不足してはいたものの、太平洋側にいる軍用艦や軍用機を使いつつ日本軍と交戦していた。

 そんな最中に味方の潜水艦が日本海軍の駆逐艦に護衛される小規模な輸送船団を捕捉し、その規模と進行方向からして最近日本軍が占領した島々への物資と人員の輸送が目的であり、この船団や目的地の島をアメリカ軍が攻撃しても日本軍は反撃準備が出来ていないことから少ない被害である程度の戦果が期待できるということで攻撃が決行されたのである。

 この作戦の第一段階は船団を発見した潜水艦が輸送船を攻撃し沈没させることはできなかったものの、攻撃を受けた輸送船は護衛の駆逐艦とともに引き返したことで島に着いた船団は駆逐艦1隻と輸送船3隻、島の戦力もそれ以前に配備された魚雷艇をはじめとする小型船と設置途中の高角砲……飛行機を撃墜するための大砲と少しの機関銃、それに兵士たちが持つライフル銃ぐらいなものである。特に高角砲が撃てる状態ではないならば航行機の脅威になるのは駆逐艦が装備する大砲や連装機銃ぐらいなものである。このまたとない機会に航空機の移動拠点になる空母から10機の攻撃担当のTBDデヴァステイター……空母からの離発着をするために専用の設計をされた艦上雷撃機にあたり、爆弾も装備できるが戦艦をはじめとするすべての船の弱点であり装甲の薄い船体側面を破壊する魚雷を搭載することが可能な航空機に、その護衛役となるTBDと同じ空母での運用が可能な航空機でありながら、敵国の航空機と戦うために作られた艦上戦闘機で小柄で素早いF4Fワイルドキャット20機ほどが出撃していた。

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