第2話

 運が良かったのかもしれない。

 作戦に参加したTBD10機のうち爆弾を搭載した6機と魚雷を搭載した4機全てが合流地点に集合できたのだ。全機無傷とはいかないだろうが、煙を噴いている機体もいなければ負傷者の報告もなく、私以外の機体も敵艦船や施設等に被害を与えたことは喜ぶべきことだろう。だが、悪いニュースが合流地点に着くなり入ってきたために任務を終えたTBD攻撃隊は後のことを護衛役のF4Fに任せて退散するしかなかった。

 その悪いニュースとは敵の航空部隊が近くにいたということだ。近場に航空機の離発着に必要な飛行場はないから、艦上機を搭載した空母が輸送船団護衛の支援役として離れたところにいたか輸送船団が潜水艦に攻撃されて慌てて出てきたのかは分からないが、新しい拠点が攻撃されたことに腹を立ててすっ飛んできたのだ。もちろん、島への攻撃は出発前からどの方角から攻撃してどの方角へ逃げるかは決められていたし迅速に攻撃を終わらせたつもりだったが、航空機は飛ぶための動力源であるエンジンがかなりの騒音を出すことや空を飛んでいることから遠くからでも敵に察知されやすいという欠点を抱えており、敵の船が逃げる時間は無いにしても敵が近くの味方に救援を呼ぶ時間を与えてしまったようだ。

 そして、F4Fが帰投する攻撃隊を逃がすため、敵航空機を撃墜して仲間たちに自慢するために交戦している敵航空機がF4Fと同じ艦上戦闘機であることが最悪のニュースであった。

 

 なぜか?それは十中八九敵の艦上戦闘機が「ゼロ」であるからだ。


 正式名称は零式艦上戦闘機、略して「ゼロ戦」と呼ばれるこの戦闘機はアメリカ軍ではゼロやゼロファイター、ジークのあだ名で呼ばれていたが同じ艦上戦闘機であるF4Fとは次元の違う、いや同時代の戦闘機の中でも群を抜いた性能を持っていたのだ。

 だが、アメリカ軍は当初このゼロ戦の性能を知らずに中国方面での戦闘に姿を現した時も圧倒的な性能という報告を聞きながら、日本より近代化に出遅れた中国には日本軍との戦闘はしばらく苦しいのだろう程度の認識でしかなかった。しかし、いざ日本との戦争でゼロ戦と戦ってみれば、アメリカの戦闘機は劣勢に立たされることが多かった。

 つい最近まで脆弱な機体の上下に2枚の翼をつけて飛んでいた第一次世界大戦の航空機たちから、それなりの強度を得た機体に速度を出すために1枚の翼で航空機が空を飛ぶ時代に移り変わりアメリカ軍も最新の技術で航空機を生産していたが、アメリカ軍が保有するF4Fをはじめとする航空機と日本海軍が保有するゼロ戦とではとにかく相性が悪かった。


 相性の悪さとこちらが先に敵部隊を見つけたことから戦闘機隊は少しでも有利に戦うべく全機でゼロ戦を撃墜しに行き、任務を完了した攻撃隊は爆装していた6機が3機1組で並んで前を、私を含む雷撃隊が4機1組でそのやや後方を空母目指して飛び続けていた。

 護衛についていたF4F戦闘機隊の多くはこちらが敵の船などを攻撃している間、一部が攻撃隊の露払いをすべく敵の機関銃陣地に対して機銃掃射を浴びせた以外は上空に待機して敵戦闘機が来て攻撃隊の邪魔をしてこないように敵の攻撃を受けない高度で目を光らせていたので、機関銃の弾も機体の状態も万全であり彼らは問題なく戦っていることだろうと考えながら、私のやや斜め後方に並ぶ形で飛行する同じく魚雷を搭載していた仲間の機体に目を向ける。


 ゼロ戦の攻撃を受けたのはまさにその時であった。

 

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