第4話 dynamic or static

 会話を遮断するかのように、突然窓が閉まった。辺りは、ぴったりと闇で塞がった。少年を襲う寒さは一層その棘を立てていて、窓が閉まったこととあわせて少年の気分を滅入らせた。


「セル……かあ」


 独りでいること。独りであること。それは、当然のことのようでも、あってはいけないことのようにも思えた。そして。事実として、少年は独りであった。

 少年が顔を伏せることはなかったが、その足はぴくりとも動かなかった。


 教師が、苛立ちながら事態打開の鍵を探し回っていること。少年にはそれが無駄なことのように思えたが、同時にうらやましくもあった。

 教師が全力で取り戻そうとしている日常。教師は、その意味や価値を突き詰めようとはしない。動き回る活発なダイナミック細胞セルだ。それに引き換え、自分はじっとしたまま。何もせず、何も考えず、ただそこにあるままの静かなスタティック細胞セル


 もし、コンタクトがこれっきりになってしまったら。自分は絶望を感じるのだろうか? あの教師ならどうするのだろう? 分からない。


 少年は。これまで闇の向こうに漫然と視線を送るだけだった。何も見えないし、見ようとするつもりもなかった。そんな自分に疑問も不満も抱いたことはなかった。そういうものだと思っていた。

 しかし窓とのコンタクトが始まってからは、窓にだけではなく自分自身に意識が落ちるようになっていた。少年はひどく戸惑っていた。教師が言った他の窓の住人とは違い、変わらないはずの自分の変化に戸惑っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る