第3話 ホームセンター【3050】
チャートの良い
大損だ。
慣れないことはするもんじゃない。
くそー!
と
引き戸が開くと、案の定、雪乃さんが現れた。
「桜井さん、ご存じですか?」
いきなり質問からはじまる。ぼくは答える。
「と申しますと?」
「DCXホールディングスと言う会社ですが、ご存じですか?」
「いやー、知らない会社です」
「全国展開する大手のホームセンターなんですが、この会社の優待は日用品です。タオルやハンガーや洗剤などのオリジナル商品の詰合わせをくれます。自社の製品・サービスと言う意味で正しき株主優待といえますよね」
「なるほど。会社からすると自社製品を体験して良さを知ってもらうってことですね」
【DCXブランド商品詰合わせ 年1回】
100株以上
「この会社はもうひとつ別の優待を用意しています」
「そうなんですか! なんですか?」
「寄付です」
「寄付、ですか?」
「はい、会社が株主に替わって2000円を被災地支援に届けてくれます」
「へぇ、そんな優待があるんですね」
「寄付を選択できるようにする会社は
「優待って本当に色々ありますね。でもぼくはそんな余裕ないので普通に日用品が欲しいです」
「もちろんです!そこは自分の判断で堂々と他の優待をもらいましょう!この会社は配当も悪くないですし、比較的買いやすい
「わりと安定した株ってことですね? いいじゃないですか!DCXホールディングスの値動きを追ってみます!」
――――― 権利付き最終日 ―――――
「雪乃さん!DCXホールディングスですが、100株・988円で約定です!」
「桜井さん、完全優待生活にまた一歩近づきましたね!」
「ありがとうございます!」
――――― 3ヶ月後 ―――――
「雪乃さん!優待が届きました!箱一杯に日用雑貨なんかが入ってました!」
「おめでとうございます!」
「高機能のスポンジや消臭剤やタオルなんかです」
「よかったですね」
「けど、よく考えたらぼくはあまり必要無いので、結局、母さんにあげてしまいました」
「お母さんは喜んでましたか?」
「はい、こういうのは幾つあっても困らないって」
「それなら使える優待ってことですね!」
「そうかもしれません」
「使える優待は、家族や友達にあげても喜ばれます。逆に、あげて喜ばれるならそれは使える優待ってことです」
「良いこと言いますねぇ。寄付優待の話を聞いた時にも思いましたが、株主優待はまわりの人たちも幸せにするんですねぇ」
「時に桜井さん、銭湯は好きですか?」
「え、銭湯ですか? まあ長いこと行ってませんが好きですよ」
「あのよ
「へぇ」
「ここにその優待があるんですが、わたしは使う予定がないので、よかったら桜井さんに差し上げますよ」
「えー!いいんですか!」
「ええ、是非、有効に使ってくださいね」
「本当にいいんですか!ありがとうございます!」
無料券くらいないとスーパー銭湯なんて行かないのでありがたい。
しかし世の中にはいろいろな優待があるもんだ。
すべてを優待でまかなえたなら、ホントにすごい生活になるぞ、と夢が膨らんだ。
「また完全株主優待生活に近づきましたねぇ」
浮かれるぼくに向かって雪乃さんがそうつぶやいた。
そうか。雪乃さんにひとつ優待の借りが出来てしまった。
これはどこかでお返ししなければならないのかもしれないぞ。
雪乃さんはこっちを見てニコニコしている。
なんかヤバい、そう思った。
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