やあ、こんにちは。……まぁ、ゆっくりしていってよ。

 Loading…………


 What's your name? I have an obligation to know that.


 ………………The initial setting is completed. Well, please enjoy.





 深く、深く。


 何処までも沈んでいく感覚。しかし喪失感は無い。何もかもを手放して、だけど新しいものを得たような……


 ……ああ、考えが纏まらない。こんな時は、そう、いつものように……


「…………ん……君?………………」


 ……ああ、何処からか声が聞こえる。何処か懐かしい、過去の友人の様な……暖かくて心地いい……


「……■■■君!」


「はっ……はい!?」


「ったく……人の話の途中で寝るんじゃねーですよ」


 ……寝? こいつは一体何を……てか誰?


「んで? ■■■君はどうする? 1人で向かう?」


 ……目の前の少女がそんな事を言ってくる。前後の会話を覚えてないから内容がさっぱりだが。


 歳は10代……中学生か高校生かは判別できず。顔は整ってない訳では無いが、美人というわけでもなし。長めの黒髪を後ろでポニーテールにしている。


 一言で纏めるなら、「クラスに1人は居る女子生徒A」だ。


 ……さて、どう会話したものか……話を合わせるのは得意だが前後関係がわからn「あ痛ぁ!?」


「ちょっ、何故叩く!? 今ので知能指数が10は減ったぞ!?」


「知らねーです。人の話を聞かない罰だと思って甘んじて受け入れやがれ下さい」


 こいつ中々口悪いな!?


「はいはい話を進めますよー。■■■君は徒歩で行けるの? 駄目だったら私が車で……」


「……あー、悪い……何の話だっけ? 」


 言葉を遮られてか、突然の(相手にとって)意味不明な話題を振られてか(十中八九後者だろうが)、女の子に有るまじき間抜け顔でこちらをぼんやりと見つめてくる。


 ……うん、まぁそうなるな。同じ立場だったら俺もそうなるだろうし。


 ……俺?


「……冗談ですか?」


「いや、けっこーマジで。……寝ぼけてんのかもしれんけど」


 話を円滑に進めるには正直なのが一番重要だよな。


 そんな取止めのないことを考えてると、眼前からプロも惚れ惚れするような右ストレートが飛んでくる。時速100kmくらいの。


 最近運動不足なのもあり……いや、運動してても無理かも知れないけど、そんな鋭いパンチを避けられるはずもなく、顔面でキャッチするハメに。


 ……かなりあっさり言ったが実際受けるとかなり痛いからな?


「おっ、おまっ、何すんだ!? 死ぬかと思ったぞ!?」


「……いや、さっき殴ってしまったので、もっかい殴れば治るかと思い」


 何その殴ったら壊れたから直すためにもっかい殴ろう的思考。いっその事怖い。


「……いや、マジでなーんも覚えてねーんだ。……この……カフェ?

 の名前も、お前が誰かも」


 少女は殴った時と変わらない姿勢、無表情でぴくりとも動かない。


「……自分の名前も、ですか?」


 表情は相も変わらず、鉄仮面を被ったまま。しかし何処か縋るように聞いてくる。


「いや、それは分かるさ。■■■……」


 ……あ?


「なんだ……良かった、自我は残っているのですね……なら、自分以外の記憶が無くなったと? ……またからかっているのではないのですね?」


 俺どんだけ信用ないんだ。


「……また、ってのは前にもこんな事が有ったのか?」


 そう言うと、彼女は「……ああ」と嘆息して、呟いた。


「そうですか、貴方もなんですか?」


 …………は?


「……ええ、分かっていた事です。甘んじて受け入れましょう」


「……おい待て、意味が……」


「飲み込まれたんですね? 文字に」


 …………………………。


「貴方は今、何を見ていますか? ……文字ではない私が、見えていますか?」


「もし、私が文字だと言うなら……貴方は主人公にはなり得ません」


「当然です。主人公の名前を書き換えた所で、その名が主人公になる訳ではありません」


「なら……それは単なる読者でしかありません」


「……まだ存在し得るのですか? その精神力には辟易とさせられますね……まぁ、もう『会話』は出来ないでしょう」


「さようなら、いってらっしゃい、貴方の世界へ」


「また会わないことを祈っています」









「……いや、意味がわかんねぇよ!!」


 ガタガタっと後ろでけたたましい音が発生する。椅子か?


 を睥睨するのは数十個の目。好奇、驚愕、嫌悪。その目の種類は様々だった。


「……■■■■? 寝るのは貴方の評価が減るだけですが、他人の勉強の邪魔をするのはー……」


 とか何とか、嫌味っぽい女性が何事かを言ってくるが、僕の耳には入らない。


 頭の中に有るのは、「一体なんでこうなった?」それだけ。


「当然だ」と2000の僕が告げる。それの意味も、何故そう思ったかすらも「意味不明」、その4文字で埋め尽くされる。


 ゲシュタルト崩壊を起こす僕に、唯一その声だけが聞こえた。


「……あの、■■■■くん、体調悪そう、ですし……保健室に、連れて行っても……いいですか?」





 〰



「……助かったよ……えっと、名前は?」


「えへへ、気にしないで。……おんなじクラスなんだから名前くらい覚えててほしいなぁ」


 おんなじクラス、という単語を聞き、ようやくここが学校だと気づく。


 と、同時にえも言われぬ感情が込上がってき、ぽつりと「……ごめん」と零す。


 目の前の少女は、やはりいたずらっぽい笑みを口元に浮かべながら、


心音時音ここねしおん。ちゃんと覚えててね?」


 と、可憐に笑った。


 ……今更だが、この少女はかなり美しい顔立ちをしている。バランスの取れたパーツに、華奢ながらしっかりとした身体をしている。


 恐らくこの学校でもかなり人気があるのだろう……とぼんやり考えるとともに、その様な美貌を持った彼女に少しだけ嫉妬する。


「……ちょっと、そんな見ないでよぉ……」


「え?」


 そう言われ、さっきまでずっと彼女を凝視していたことにようやく気づく。


 恥じらい半分申し訳なさ半分の表情で、それらを誤魔化すために敢えて強引に話題を転換する。


「あー……っと、何で助けて……いや、どうして僕が具合悪いって気づいたの?」


 彼女の席は僕のそれよりずっと前に配置されていた。あの女性や僕の奇声によって注目されていた可能性も否めないが、それでも違和感が残る。


 その言葉に、彼女は「ああ」と苦笑する。


「覚えてないの? ちょっと前にもこんな事があったじゃん。……私、そんなに影薄い?」


 その言葉を聞き、何故か罪悪感が募ってくる。僕にとって一切覚えてないことのはずなのに。


「い、いや……別にそんなことは無い、けど……」


 慌てて弁明しようとするが、当然彼女のことなど覚えてないため、言葉に詰まってしまう。


「……あ。着いたね」


 そうこうしている内に保健室に到着したらしい。学校らしく、簡素で質素な作りだ。


「ん。ありがとう、時音さん」


 と、礼を告げ、そのスライド式のドアに手をかける。


「気にしないで……貴方もこの世界がどんなものかわかっただろうし」


 少し硬めで整備されてないことが伺えるドアをくぐり、目の前に居るであろう先生に話しかけようと……


「ん? 時音さん、今なんて……」


 振り返り、絶句する。


 そこに有った色は黒だった。


 底なし沼のような、白と茶が入り交じった気色の悪い灰色でもなく、夜の自然で美しい闇でもない。


 何処までも下品な黒。漆黒と表現するのも躊躇われる、名状しがたい色。


 世界を1つのキャンパスと例えるなら、この黒は無造作に捻り出された黒の絵の具だろう。


 その吐き気を催す色にたたらを踏んでいると、背後からノイズ混じりの声が聞こえてくる。


「ま、これで私の役目は終わり。ちょっと寂しいけど……」


 幾つもの声が重なり合っている、気色の悪い声が。


「貴方も、もう大丈夫でしょ? この文字の世界において、主人公候補の一人なんだからさ」


 幾つもの感情が合わさった、形容しがたい声色が。


「私みたいなモブは此処チュートリアルで退場さ。せいぜい頑張ってね?」


 僕を、俺を、私を、




「ようこそ、『 意味不明な文字の世界』へ。貴方を歓迎するよ」




 飲み込んでいく。










 ※なおも文章は続いている。

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ようこそ、意味不明な文字の世界へ! あああああああああああああああ @piano-player_and-gamer

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