第3話

世の人間は、「普通」という言葉が大好きだと思う。少なくとも、私の周囲の大人たち──私も世間では大人と呼ばれる年齢ではあるけれど──は、大好きだ。


普通、普遍、平凡。


素晴らしい言葉だ。そして実に中身のない言葉だ。「普通」という言葉ほど、陳腐でありきたりでつまらない言葉はない。「普通」なんて人によって様々だというのに。けれど、大抵の人間は「普通」でなければ「生きづらい」。

──「普通」であれ。

私にとっては呪いにも等しい言葉であった。どこにいても、誰も彼もが「普通」を求める。求められる。そして「普通」でなければ淘汰される。「普通」の範疇を超えた人間は、理解もされず、間引きされ、誰にも助けてもらえない。

そして不運なことに、大概において、誰かの言う「普通」は、私にとっての「普通」ではなく、私にとっての「普通」は、誰かにとっての「普通」ではなかった。

個性的、どころでの話ではない。自分がマイノリティーなのだと自覚するには、十分であった。それから先は、察してほしい。擬態して、誤魔化して、自分にも周りにも嘘をついて、そして──。


──結果、私は周囲の大人たちからの信用と信頼を失い、「本当の自分」とやらも、わからなくなったのだ。

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