第17話

文化祭といえば、高校生の一大行事だ。


普段の生活では味わえない経験と一大イベントを前に浮き足立つ心が相乗効果を生み出し、青春の華々しい1ページとなる。


クラスの中心人物はもちろん、普段は目立たない奴も、モブキャラみたいな脇役も、みんな青春をしてその日の思い出を永遠に心に刻む…そういうものだって思ってた。


だけど、現実はいつだって非情だ。少なくとも僕の場合は違った。


まず大前提としておさらいしたいのが、僕は普段ぼっちを生業としており、いかなる休み時間も行くあてのない僕の主な生息域は自分の席、ただそこだけだった。


みんな僕を置いて青春に消えて行く中、自分の席だけは何も言わずに僕を迎え入れてくれた。


いつだって僕らは一緒、健やかなる時も安らかな時も、僕はこいつと寄り添って生きてきた。


本当の友達って、こんな身近にいたんだねって…こいつは僕に気が付かせてくれた。


こいつだけは僕を裏切らない、こいつだけが僕の居場所になってくれる…そう信じて疑わなかった。


だけど、現実はいつだって非情だ。


文化祭の出し物のために教室で喫茶店を開くことになり、当然僕の席もお店のために有効活用されることとなり、アイツはお客様のためのテーブルになるために僕の元を離れていった。


まさか…机にさえ裏切られるとは…。


無機物まで自分に叛旗を翻すなど考えもしなかった僕は、クラスでの自分の仕事が終わると渋々自分の居場所を求めて彷徨い始めたのだが…ボッチの僕に他に居場所なんてなかった。


どこかのお店で友達がいるとか無いし、一人でどこか行きたいところもない。


それでも一人でただ歩き回るのも疲れるので、僕は静かな図書室で時間を潰そうという文化祭という一大イベントにあるまじき発想を思いついたために図書室へと足を運んだ。


だがしかし、頼みの綱の図書室でさえ文化祭期間は閉まっていた。


真面目に居場所がない僕は文化祭初日、自由時間の間何をするでもなくただ一人でひたすらに校舎を歩き回り、無意味に人混みに紛れるだけしかできなかった。


それが昨日の出来事。


僕の通う鷲宮東高校の文化祭は2日に渡って行われており、昨日の1日目は生徒しか参加出来ないが、今日の2日目は一般公開され、誰でも参加できるようになっていた。


言ってみれば、文化祭は今日が本番というわけだ。


みんなが今日を楽しみにしていたであろう中、僕は昨日の夜、今日という日が訪れないことを布団に篭りながら願っていた。


その理由は居場所がないからだ。


親友だと信じて疑わなかった机が、僕を差し置いてクラスの中心で(テーブルとして)活躍してしまっている現状、僕に逃げ場などなかった。


文化祭初日、あてもなく一人で歩いていると周りに『あの人ボッチだ』と思われているのではないかという錯覚に襲われ、どこにいても心落ち着くことはできなかったのだ。


そんな気持ちを味わうくらいなら、文化祭など爆発してしまえと思ってしまうくらいには、僕の心は病んでいた。


だけど、現実はいつだって非情だ。


何一つ爆破事件など起こることもなく、文化祭は本番ともいえる2日目を迎えていた。


僕は自分のクラスの出し物であるお店の裏で料理を作りながらお店の中心でテーブルとして活躍する親友を恨めしそうに睨んでいた。


まさか…机さえ僕を差し置いて青春に消えるとは…。


結局、信じられるのは己のみと再認識しつつ、僕はふと時計に視線がいった。


クラスの出し物は各々働く時間が決まっており、僕は昨日も今日も午前中にそのシフトが入っていた。


そしてあと15分もすれば、僕の働く時間は終わる…終わってしまう。


仕事の時間が終われば、クラスのお店に居座る理由もなくなってしまい、また昨日のように一人で居場所を求めて彷徨う羽目になる。


仕事の時間というそこにいておかしくない居場所をくれる至福の時間が終わってしまう。


働くことでしか自分の居場所を作れない、存在価値を見出せない僕はふと、『こういう奴がワーカーホリックになるのか』などと思っていた。


だけど、現実はいつだって非情だ。時間の流れは残酷だ。


奴は唯一の居場所と僕を繋ぎ止める仕事を当たり前のように奪ってくる。


時間通りに僕の代わりに仕事を奪いにクラスメートがやってきた。


シフトを変わった後も、僕は自分の居場所を見出すためにお店で忙しそうに働き回るクラスの中心人物的男子生徒に声をかけた。


「よかったら、何か手伝うよ」


仕事をくれと遠回しに懇願する僕に彼はさわやかな笑顔を浮かべ返事をした。


「大丈夫だよ、櫻井は回ってきなよ」


鬼のような優しい言葉に僕は涙がちょちょぎれた。


だが、今回は僕も引くわけにはいかない。僕はボッチと思われない程度の居場所を確保するために自分の仕事を探し始めた。


なにか…何かないのか?。どんな些細な仕事でもいい、誰にも見向きも感謝もされなくてもいい、その仕事に意味も価値もなくてもいい。ただそこにいても誰の邪魔にもならない、誰にも違和感をもたれない必要最低限の仕事はないのか!?。


僕は辺りを見渡して突破口を探し…そして、答えを見つけた。


荷物を預かる仕事をしよう。


僕らのクラスの喫茶店はスペースを節約するためにお客さんの荷物を預かる場を一箇所に集めていた。


その際、お客さんにはセルフでそのスペースに荷物を置いてもらって、セルフで回収してもらっていたのだが、僕はそれを自分の仕事にしてしまおうと考えたのだ。


別にそんなことはやらなくても問題ないこと、でもやっていても違和感のない仕事…まさに僕が求めていた働き先、僕の天職だ。


僕は早速行動を始めた。


お店に入り、席に案内されたお客さんに『お荷物お預かりします』と声をかけ、バッグなどを預かり始めた。


だがしかし、それだけでは手持ち無沙汰になってしまう。これだけの仕事で働きっぱなしになれるほど僕らの店の回転率は高くはなかった。


だから手が空いて、『あの人なにやってるんだろう?』と疑問に思われないように、クラスの一員として働いているカモフラージュをするために、僕は荷物が誰のものか明確にわかるように文化祭のために用意していたが使わずに余ってしまった折り紙で簡素な番号札を作り始めた。


お客さんから預かった荷物にくくりつける用の番号札と、お客さんに持っていてもらう番号札を作ることで空いた時間を埋めようとしたのだ。


この作戦が功を奏し、僕はクラスメートからは細かい気配りができる奴に見えるように、お客さんからは暇なく働いているように無事に店内にカモフラージュすることができた。


あぁ…働いている間はなにも考えなくていいから楽だ。


仕事こそ世界と繋がれる架け橋である僕にとって、この時間は至福であった。


もしかしたら…世の中にはもっと楽しい瞬間が存在するのかもしれない。


友達とワイワイ盛り上がったり…女の子とイチャイチャしたり…僕だって女の子と文化祭を見て回りたい欲求はある。


でも、最底辺を知っている僕は高望みなんてしない。なにも気にせずに働けるこの場所があれば、それだけで幸せなんだ…。


だから…誰も僕から仕事を奪わないで…。そう、神に懇願した。


だけど、現実はいつだって非情だ。


僕のそんなささやかな夢にすら、現実は酔わせてくれない。


異変が起きたのは僕が番号札を無駄に100まで作り上げた頃だった。


いつものように入店したお客さんの荷物を預かろうと僕は声をかけた。


「お荷物お預かりしましょうか?」


僕のその決まり文句が、誰かとハモったのだ。


僕は驚きながらその声の主の方を見た。


すると、そこには同じように驚いた顔で僕を見る女子生徒の姿があった。


彼女の名前は愛里、クラスメートだが会話した記憶はない。


なぜこんなことが起きたのかは理解出来ないが、僕達はとりあえずお客さんから荷物を預かった。


そしてお客さんから見えない裏へ荷物を預けると、彼女は口を開いて、僕に正体を現した。


「櫻井君、お疲れ様。あとは私がやるから回ってきていいよ」


そう、彼女は…悪魔であった。僕から居場所を取り上げようとする悪魔であった。


神は…僕から世界と繋がるために残された唯一の術である仕事ですら、僕から奪うというのか…。


僕は世界中で神と崇められる全ての高尚な存在を憎んだ。


僕がなにをしたっていうんだ!?どんな罪を犯せばこんな惨たらしい罰を受ける羽目になるというのだ!?


結局僕は…夢を与えられるどころか…居場所すら奪われる哀れな子羊なのか…。






…ダメだ!!!!



そんなことはさせない!!!!



もうこれ以上、僕からなにも奪わせない!!!!!




最終防衛ラインであるこの荷物持ちの仕事を手放さない覚悟をした僕は、逆に彼女にこう返した。


「いや、僕は大丈夫だよ。愛里さんこそ回ってきなよ」


「私は時間あるから大丈夫だよ。だから遠慮せずに回ってきていいよ」


「いや、ほんと大丈夫だから」


「でも櫻井君、朝からずっと働いてるよね?そろそろ休んだ方がいいよ。働き詰めは良くないって」


この悪魔がああああああああああ!!!!!!!!!。


優しさに満ちた閻魔のような所業に僕は心の中で叫んだ。


なぜ僕から奪う!?なぜ僕に仕事をくれない!?なぜ僕に居場所をくれないんだああああああああああああ!!!!!!!!


「いや、だから大丈夫だよ。愛里さん回ってきなよ」


「いや、櫻井君こそ」


「いや、愛里さんどうぞ」


「いや、櫻井君が行きなって」


この女、なぜこんなにも強情なんだ!?!?。


一見譲り合いの博愛精神に満ちた優しい駆け引きのように見えるこのやりとりには実は己の運命をかけた者同士の戦いであったのだ。





この時の僕は、知る由も無いだろう。





目の前で嫌がらせという博愛精神を振りまく彼女もまた、ボッチであることを。





鷲宮東高校1年3組、主席番号1番、愛里友梨奈。


その性格は人懐っこく仲良くなれば親しみやすい人間性をしている。見た目だってそれなりに可愛い部類だ。特に人として問題と言えるような要素は持ち合わせていない。


そんな彼女がボッチであるのにはそれなりの理由があった。


彼女には唯一無二の親友がいた。その親友の名は槇原。愛里と同じ高校に入学した彼女は不幸にも幸運なことに愛里と同じクラスとなることができた。


幼い頃からずっと仲良しだった2人の関係は高校に入ってからも変わることなく、昼休みも放課後も休日も、彼女達は二人でささやかな青春を謳歌していた。


だが、現実はいつだって非情だ。


一学期の終わり頃、唯一無二の親友である槇原が突然、親の都合で転校することになってしまったのだ。


彼女達は抗いようのない運命に涙し、離れていても親友である契りを交わして別々の道に進み始めた。


槇原が居なくなって愛里は2,3日泣き喚いていたが、いつまで泣いていても始まらないと、親友のいない生活に向き合ったその時、彼女は気がついてしまった。


『槇原以外に、友達がいない』


幼い頃から、ずっと二人で遊んできた愛里には槇原以外の友達がいなかったのだ。


槇原がいるからいいやと友達を作ることを疎かにしていた彼女は友達を作る術を持ち合わせていなかった。


おまけに時期も悪く、一学期の終わり頃という仲良しメンバーも完全に固まってしまっているため、ビハインドからのスタートだった。


そんな状態から友達になる勇気も機会もなかった彼女はそのまま流れに身を任せ、気がつけばお昼を一人で食べ、一人で登下校する誰かさんのような生活を送っていたのだ。


僕と同じように机という居場所を奪われたそんなボッチな彼女に居場所などあるはずもなく、僕と同じように必要最低限の違和感のない居場所を探す羽目になった。


だが、居場所探しにおいて彼女は一歩、僕よりも上手だった。


初日のうちに自分に居場所がないことを悟った彼女は、その日のうちに荷物持ちという居場所を見つけていたのだ。


だから彼女は2日目も自分の本来の仕事を終えた後、荷物持ちで文化祭を乗り越えるつもりだった。


だが、そこにはすでに僕というハイエナが住み着いていたのだ。


自分の唯一残された居場所を土足で踏みにじられることのないように、彼女もまた必死だったのだ。




ボッチは行き着き先が限られている、それ故にボッチ同士は引かれ合う…そのことに僕らはまだ気が付いていなかった。


荷物持ちは2人も要らない。


こんな必要がどうかも怪しい窓際の仕事に2人もいたら、不自然極まりない。


その仕事には一人要らないどころか、二人もいるせいで変に目立ってしまい、そもそも一人も要らないと第三者から思われる可能性がある。


だから…早急に蹴りをつけなければいけなかった。


「櫻井君、確か朝からシフト入ってたよね?。もしかして働きっぱなしじゃない?。そろそろ休んだ方がいいよ」


先に仕掛けたのは愛里だった。


自分の居場所を見つけるために何かの役に立つかもしれないと考えて彼女はクラスのシフトを覚えていたのだ。


その記憶を引っ張り出し、櫻井がずっと働いていることを暴き、退場を促した。


「愛里さん、さっきまで店の前で呼びかけしてたよね?。結構大きな声出してたし、疲れてるでしょ?。声も少し枯れてるし、ここは僕に任せて、愛里さんこそ休憩しなよ」


僕は僕で彼女が先ほどまで声を張って呼びかけしていたことを把握していた。


実際、彼女の声は少し枯れていた。


僕はそこにつけ込んで、彼女を追い詰めようとした。


「このくらい大丈夫だから行きなよ、櫻井君」


「いやいや、心配だから任せられないよ、愛里さん」


お互いに相手もボッチであることを知らない僕らはお互いに相手が悪魔のような親切心で言っていると思っていたのだが、親切心にしては不自然なほどに強情であることに僕らの脳裏に一つの可能性が浮かんでいた。


『もしかして…相手もボッチなのか?』


もしも親切心以外でこんな仕事を欲する理由があるとすれば、それはボッチゆえに居場所を作るためとしか考えられない。


ボッチには天上にそびえ立つ玉座に見えるたった一つの席に二人のボッチが寄ってたかっているのではないのだろうか?。


それ以外に理由があるとしたら…実はこの仕事をすることでみんなの邪魔になっている僕を親切心を装って追い出そうとしてるんじゃないだろうか?。


「もしかして…僕、邪魔だったかな?」


「いや、そういうわけじゃないけど…」


あくまで親切心を装って追い出す。自分の居場所を作るために誰かを傷つけるようなことはしない。


それを僕らは心得ているから、そこにつけ込むような野暮な真似はしなかった。


なんにしても、邪魔だったから追い出そうとした線は消えた。


そうなるとお互いにボッチだからという線が濃厚になってくる。


だけど、その天上につながる蜘蛛の糸は一人用…二人もいたら切れてしまうことは明確。


だからたった一つしかない玉座に座るためには相手をどうにかする必要がある。…だけど、もし相手もボッチなら…二人で一緒に回るというまた別の可能性が…。会話もほとんどしたこともなく、全くと言っていいほど僕らは仲良くは無いが、もしも二人ともボッチならば居場所が欲しいというお互いの利益のために手を組むことも出来るはずだ。


だけど、その可能性を示すにはまず自分がボッチであることを明かさなければならない。


お互いがボッチであることを確かめるにはまずどちらかがボッチであることを告白しなければならない。


だけどその時、もしも相手がボッチでなかったら…自分と同じ境遇ではなかったら…ただボッチであることを告白しただけの痛いやつ。


居た堪れなくて社会的に殺されてしまう。


だから、お互いにボッチであることを証明するためにはかつてローマ帝国が皇帝ディオクレティアヌスの治世にあった頃、迫害を受けていたキリスト教徒がお互いに同じ信仰を持ったものだと暗示的に伝えるためにジーザスフィッシュとして魚の絵を描きあったように、ボッチにしか伝わらない情報でボッチであることを告白し合う必要があるのだ。


もし彼女が僕と同じボッチなら…きっと伝わるはず…。


「でも、僕はこの仕事を辞めるわけにはいかないんだよ。…今日は図書室が閉まってるから」


非ボッチに僕のこの一言に込められた意図が伝わるわけがない。だから非ボッチは『なんで図書室?』ということ以上の疑問を持たないだろう。


だけど、この文化祭に自分の居場所を見出せない奴は、まず図書室に訪れるはず。図書室ならば一人でもゆっくりと時間を潰せることを知っているからだ。


そしてボッチは図書室という数少ない逃げ場が潰されたことを思い知らされ、絶望するのだ。


だからボッチならば必ず図書館が閉まっていることに強い印象を持っているはず。ボッチならばなぜここで『図書室』というワードが出てくるのかわかるはず。


つまり、文化祭の図書室とはボッチ界のジーザスフィッシュ。ボッチには伝わる暗号なのだ。


弾圧を逃れるための苦肉の策に対する彼女の反応を僕が伺っていると、僕の意図が伝わったのか、彼女が小さく躊躇い気味な声で反応を示した。


「こ、困るよね…図書室閉まっていると…」


これはもうほぼ黒で間違いない。


文化祭の日に図書館が閉まって困る者など、居場所のないボッチしかいない。


だが、まだ純粋に本が好きなだけという可能性も捨てきれない。


僕はその最後の疑念を払拭するため、慎重に言葉を選んだ。


「ほんと困るよね…行くとこないと…」


正直これは非ボッチでも僕がボッチであることを察してしまうような言葉だろう。だが、これまでの様子から90%ほどの確率で彼女がボッチであると確信していた僕は、このくらい大胆でも問題ないと考えたのだ。


そんな僕の気持ちに応えるように、彼女も小さな声で返事をした。


「困るよね、私も行くとこなくてさ…」


決まりだ。


確実に彼女はボッチ、僕の同士だ。


僕はこんなにも身近に他のボッチが紛れていたことに驚きつつも、ようやく出会えた同士に抱きつきたいほどの喜びの衝動に駆られていた。


だが、喜んでばかりはいられない。


彼女がボッチであろうがなかろうが、この荷物持ちなどという名ばかりの職には2人分の居場所も確保できない。


そうなると…僕達が二人とも居場所を得る方法はただ一つ…一緒に文化祭を回ることだ。お互いがお互いの居場所になればいい。ただそれだけで全てを解決できる。


だが、対女子スキルが姫浦との文通くらいでしか養われていない僕に、果たして彼女のお供が伝わるだろうか?。


…いや、重要なのはいかに2人が助かるかだ。相手を蹴落としてまで蜘蛛の糸に捕まるほどの気力のない僕に残された道は一緒に回るしかないのだ。


でも断られたら普通にショックだな。全く話したこともないのに文化祭に誘うとか、そんな高等技術が果たして僕にあるのかどうか…。


そう考えた僕は相手の様子を伺うためにチラリと彼女の方を見た。


彼女も彼女で思うところがあるのか、何か言いたげな顔をしていた。


十中八九、誘えば彼女は答えてくれる。本能的にそんな予感がする。


きっと彼女だって、どこでもいいから、誰でもいいから居場所を求めてる。


話の流れ的に、誘うのは僕の方…。




…ええい!あれこれ考えるのは後だ。2人で荷物持ちなんてやるわけにはいかないんだし、どうせこれしか選択肢はないんだ!。


ようやく覚悟を決めた僕は満を持してその言葉を述べた。


「良かったら…一緒に回らない?文化祭」


「…櫻井君がいいなら…いいよ」


その僕の言葉に彼女は躊躇いながらも頷いてくれた。


たしかに現実は非情だ。だが、時に現実は非常だ。


まさかこんな結果になるとは思わなかった僕らの本当の文化祭が、幕を開けようとしていたとさ。

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