第147話 才能VS覚醒
「行くぞ!」
先陣を切って飛び出すルミナ。その攻撃を、前に出て防ぐのは――。
「やるねえ、イケメン君」
「僕にもちゃんと名前があるんですよ」
ラビは右腕につけた小型の盾で防御。そのまま槍を使って攻撃。
「やあっ!」
ルミナはラビとの戦いに夢中だ。その隙に。
「アリス、一緒に向こうを叩くぞ。チェシャは援護を頼む」
「うん」
「そうする~」
小声で強化魔法を一通り発動、自身とアリスに掛け、駆け出した。
「はっ」
「私のヨーヨーを避けきるなんてすごい! 流石はジュンヤくん」
セレンが俺を褒めている。
魔力感知スキルで、ヨーヨーにかけられた魔法を感知出来るおかげで、360度どこからヨーヨーが向かってくるかわかるからな。やっぱり便利だ魔力感知。人間離れしているような気はするが。
ヨーヨーを剣で弾き返しながら、一気に間合いを詰める。
この近距離ならヨーヨーを飛ばすことはできまい!
走る勢いのままに、俺は身体を捻り、剣を振った。
「二刀流剣技・二重回転斬り!」
剣に宿る光は“剣技”の発動が成功した証。その光は導かれるようにセレンに当たる。
激しい音と共に彼女の身体は飛んでいき――いつの間にか、俺の腕に糸が絡んでいた。
まずい、引っ張られる――!
引かれるまま、俺は宙を舞った。
そのまま、地面に激突。だが、痛みはそんなにない。
空中でとっさに逆手に持ち替えた左手の剣が支えになってくれたようだ。
代わりに左腕が折れた気がするけど……このくらいならまだ直せる。
「
一瞬で痛みが引く。これで動ける。
右腕に絡まった糸をはずし、土煙の先を睨む。
やがて晴れる土煙。その先には――何もなく。
背後から魔力反応。急いで屈む。
振り向くとそこには誰もいなくて――今度は左。
地面に突き刺した左手の剣を引き抜き、それを弾く。
鳴り響く金属音と同時に顔だけをヨーヨーが飛んできた方向に向けて確認。やはりいない。
と思ったら今度は右。
右手に持ったままの剣を横薙ぎに振り、打ち返す。
次は、どこからだ。
――さらに右。地面をえぐりながら向かってくるヨーヨーを、俺は後ろに飛び回避する。
そこには――
「ハハッ、奇遇だね☆」
ルミナがどこぞの、著作権に厳しいことで有名な遊園地のマスコットキャラクターの声まねをして、俺に話しかける。
ちょっと待て、その遊園地この世界にはないだろ。
いや、突っ込んでいる隙が一番危ない。俺は急速に身体を捻る。
――ちょうど、拳が俺のわき腹を通過する。
回転していなしていなければ腹に風穴が開いていたかもしれない。危ない。
それから勢いのままに攻撃。
「おお^~、痛い痛い」
その言葉とは裏腹に全然ダメージを受けていないようだ。
瞬間、俺は気配を感じてしゃがむ。
「ん? なになにどしたのドフッ」
ヨーヨーが飛んできたのだ。
俺はそれを魔力感知で察したからこそしゃがみ、回避。流れ弾がルミナに当たったという寸法だ。
後ろに飛ぶと、肩を叩かれた。
「ありがとうです」
「なんかよくわからねーが、どーも」
ラビに礼を言われた。相当追い詰められていたらしい。
「って! 後ろ!」
「え?」
俺が注意するとラビは首を傾げ――彼の頭があったところに拳が通過。
ラビはその腕を掴み、投げ……ようとするが。
「鎧のせいで……腕が上がらない……!」
「アホかっ!」
そんな大ボケかましてくるとは思わなんだ。
しかし、ルミナの動きは止まった。
俺は彼女の背後に回りこみ、剣を振りかぶり――首筋に強い衝撃!
身体が思うようには動かない。思考は出来るのに、なぜか。
やられたのは脊髄か?
声帯が動かない。
だから――集中する。傷ついた首元に――。
――“
「っすう、はあっ」
俺は数秒ぶりに呼吸した。酸素と共に土を吸い込む。
気がついたら地面とキスをしていた。恥ずかしいや。
立ち上がり周りを見渡す。
俺が自己蘇生したとは誰も気付かずに、戦い続ける仲間たち。
スズと魔法を撃ちあうアリスに、テネシンと互角の殴り合いをしているチェシャ。二人は多分勝てる。問題は、ラビだ。
ルミナとセレンの二人を相手にしている彼は、今にも倒れてしまいそうなほど疲弊していた。
俺は彼のほうに手を向け、心の中で回復魔法を唱えた。
すると、どうだろう。
発声していないはずなのに彼に回復の魔法がかかったではないか。
これは、まさか――。
『無詠唱魔法発動』スキルを自力で習得してしまったのか?
それは、読んで字の如く、発声せずに魔法を発動する事が出来るようになるというスキルである。
普通は精神を集中させるために……かどうかは定かではないが、声を出して魔法の名前を言わなければ発動しないようになっていたのが、今の状態なら念じただけで魔法を発動出来る。
俺は口角を上げ、取り落としていた剣を拾い、駆け出す。
肉体強化の魔法をかけて、剣を構え――。
気合一閃。
魔力付与を受け光を纏った剣の刺突がルミナに直撃する!
吹き飛ばされる彼女。
「お前、死んだはずじゃ!? しかもパワーアップしてない!?」
ルミナは驚愕する。
しかし俺はそれを無視して、今にもラビを襲おうとしていたヨーヨーの糸を断ち切ろうと、移動して左手の剣を振り上げる。
だが。
「あなたの筋力じゃ糸は切れないわよ!」
それでいい。
ヨーヨーの軌道がずれる。
まっすぐに飛んでいたのが、下へ。さらに俺の足元を通過し――剣の周りを回りだす。すなわち。
「剣に糸が巻かれていく……」
呟くラビ。
やがてヨーヨーが音を立てて剣に激突。すなわち、巻き終わり。
“
左腕の筋力を強化。そのまま剣を横薙ぎに振るう。
セレンが、引き寄せられた。そして、その勢いを利用し――彼女の腹に肘鉄を食らわせる。
糸が彼女の手から離れたところを狙い、俺はヨーヨーの巻きついた剣を放り投げた。
「ラビはルミナの相手を頼む!」
「あっ、はいっ! 回復魔法、ありがとうです!」
「ああ!」
そうして俺は走り出す。狙いは、さっきまでヨーヨーを使っていた少女!
俺は彼女に斬りかかる。だがしかし――狙っていた少女の姿は、刃が触れる直前――
「消えたッ!?」
「私はここよ!」
右から彼女の声。その方向に光矢の魔法をぶち込むが――またも、当たらなかったらしい。
さまざまな方向に彼女がいるような気がする。不可思議な感覚。
剣を振り回しても、どこにもいない。当たらない。
そのとき。
頭に強い衝撃。脳みそが揺れたような感覚。吐き気。痛みよいうより気持ち悪さが襲う。
殴られたか、あるいは魔法か。多分どちらかだ。
一体、どこから? もやの中にいるようなこの状況じゃとてもわからない。
魔力反応も全体に分散してしまっている。ジャミングされてしまっているような感じだ。
諦めるな! 推測しろ、この状況を。そして打破する策を考えだすんだ!
多分、これは魔力でどうにかして幻覚を起こすようにしているんだ。そして、混乱している相手に安全なところから攻撃を加える。そんな魔法だろう。あくまで推測だけど。
ならば……これもあくまで推測だけど……フィールド全体にかけられていたとしたら、その相手の味方まで混乱させてしまいかねない。そして、味方から攻撃されるリスクもある。ゆえに、相手が自滅覚悟でもない限り、俺の周り以外は安全だ。
すなわち。
走れ。そうすれば、安全圏に出られるかも知れない!
俺は前へ走った。ただひたすら、前へ、前へ、前へ。
いつまで経っても壁が近づかない。
そう思ったら、数秒後……何もないところで何かにぶつかる。
……壁だ。
この魔法、まさか俺と一緒に移動しているのか?
ならば、術者を巻き込めば――。
そのとき、無情にもアラームが鳴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます