第148話 終わり


 時間切れだったそうで、審議の結果、微妙な差で俺たちが勝ったそうだ。

「ああ、なんかすごいもやもやする!」

「仕方ないよ。相手もとっても頑張ってたんだから」

「それでも、納得いかん……」

「いいじゃ~ん。勝ったんだからさ~」

「まあ、そうですよ! いくら戦いきれずに時間切れに持ち込まれたからって、そんなに落ち込むことじゃないです。結果的には勝ったんですから!」

 ……そうだな。そうだよな。俺は負けちゃったかもだけど、チームとしては勝ったんだからな。落ち込むことじゃない! と、そう思い込むことにしよう。もやもや感は残るけど。

「でも、ジュンヤが声を出さずに魔法を使えるようになったのはびっくりしたです」

「ちょっと声を出せなくなってな。それで……しっかり集中したら出来るようになった」

 そう言って手から火を出してみると。

 うわ熱いっ!

 水魔法で消火、さらに回復魔法で火傷を治してっと。まだひりひりするがこれでヨシ! 格好なんてつけるもんじゃないな。

「……やっぱりすごいですよジュンヤは」

 目を丸くして俺を見るみんな。呟いたラビに俺は、「あ、ありがとう」としか言えなかった。


 そのあとはついに最終戦である。

「決勝戦第八試合、ついに最終戦! チーム・ワンダーランドVSチーム・スピリットガールズ! この二チームのメンバーは同じ家に住んでいるなんて噂もありますが、どうでしょう!」

 そんなあながち嘘ともいえない噂が出回っていたのか!? 確かにシリカとサラ以外は同じ家に住んでるし一緒に旅もしてたけど! だからほぼ真実なんだけどね!

「……ほぼ女じゃないか。実質ハーレムじゃないか。不埒な輩め。今すぐ叩き切ってくれようか!」

 あらやだ俺にあっつい視線が……って! おちつけデストロイヤー!

 会場は一転、大騒ぎ。お祭り状態とも言える感じに。

 あとハーレムじゃないからな! 俺を好きなのは、いま俺の腕にしがみついてる金髪ロリのアリスしかいないからな! あとは毒舌な腐女子とかレズ悪魔とか自称妹とかしかいねーよ! 全員見た目はいいんだけどな!

 さて試合だが。

「ちょっ! 甘えるかのように魔法を撃つな! 殴る力も魔法も凄まじいんだよ! ちょっまっ、痛い! ぎゃあ! 誰か! あっ電撃……そんな魔法も使えたんだ……。そのバチバチをどうする気……あばばばばばばばば」

 あとでラビは言った。

「彼はまるで猛獣のおもちゃにされているみたいでした……」

 その表現が正しい。

 彼女らは妙に連携のとれた動きで俺の体で遊んでいた。その間、ラビたちは誰も手をつけられなかったそうだ。

 結果、俺だけがズタボロになって試合は終わった。完全敗北である。


「負けちゃったね……」

「もうあれは仕方ないさ。本気で遊びにきてたもん。きっとやる気はなかったんだ。殺る気はあったかもしれないけど」

 医務室にいたユウの魔法で回復した俺は、溜息をついて、コーヒーを一口飲んだ。


 さてと。

「武闘大会、閉会式です!」

 表彰台が設けられ、客席からぞろぞろと生徒たちが降りてくる。

 式はつつがなく進んだ。

 キモオタ四天王や校長、教頭などの閉会の辞やら講評やらが続き。

「次は表彰です」

 事件は起こった。

 大きめの表彰台。その二位の段に四人で並ぶ。

 俺は左から二番目、ユウの右に立った。左ではアリスがニコニコと笑っていた。

 吹奏楽の演奏、荘厳な音楽がなる中、それを乱すようにひとつの乾いた銃声が聞こえた、気がした。


 唐突に、背中に形容のしがたい、激しい痛みが襲った。


 熱いほどの痛み。

 何かが込み上げて、抑えることも出来ずに吐き出した。


 血液だった。


 何も理解できなかった。ただ背中から腹が熱く、苦しいほどに痛い。痛い。痛い。

 俺は恐る恐る下を向いた。


 ちょうど、へその当たりから、腹が裂けて、赤いものが吹き出した。


 液体は目の前の客席を汚し、ぼとり、ぼとりと肉槐が流れ出す。

 誰か、目の前の客席に座っていた誰かが悲鳴をあげた。

 パニックは伝染し、生徒は悲鳴を上げながら走る。


 なにが、起こっているんだ?

 それよりも、熱い。

 穿つような痛み。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――。

 狂気に犯される。狂的に痛い。

 咳き込めば、のどが焼け付く。そして命が吐き出される。

 いだいよお

 誰か、助けて。


「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 口から赤い物を滴らせながら、俺は上を向いて雄たけびを上げた。

 そのとき、首筋に衝撃。痺れと眠気が俺を襲う。

 どういうことだ。どういう――。

 そのまま、意識は暗闇に葬り去られた。

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