第146話 マイ・アイデンティティ
テネシンと一緒にドア修理をした。その間、彼とさまざまなことを話した。
結果。
「お疲れさん! ほれ、コーヒー入れてやったぜ」
「ありがとうございます、先輩!」
こうなった。
「えっ、なになに両方キャラ変わってない!?」
混乱するルミナ。俺はコーヒーを入れながらため息をつく。
にしても、南大陸――もと居た世界と照らし合わせると、アフリカ大陸か南アメリカ大陸のどちらかになるのだろうか――のコーヒー豆はとても良質だ。いま飲んでいるやつは、ほろ苦くて、しっかりとしたコクがある。とても香り高くて、美味い。
というか、この世界の地理関係って、意外ともと居たあの世界と似通ってるんだよね。大陸の形とかほとんど同じ。うろ覚えだけど。不思議だ。
たしかここ、アレス王国がドイツあたり、隣のペルセウス王国がポーランド、あとその反対側にある聖アテナ国がフランスだっけ。位置関係的にはこうだったはず。よくわかんないけども。
ボーっとしていた俺をテネシンが呼ぶ。
「先輩、そろそろ次の試合が始まるっすよ! 聞いてるっすか!?」
「あっ、すまん。考え事をしてた」
「行きましょう!」
「ああ!」
――その頃、忘れ去られていたスズとセレンはこの様子を見ながら呆れた目でぼそりと呟いた。
『大丈夫なのかなあ、この二人』
**********
「よう!」
「ぎゃ――――――ジュンヤくんの性格が変わってりゅ――――――!!!!!! 具体的には夕日を指差して『走っていこうぜ、あの夕日まで!!』なんてこと言いそうな目をしてる――――!!!! こんなのジュンヤくんじゃない――!!」
客席に戻って挨拶してみたらアリスが発狂していた。どうしてだ、と俺が悩んでたら、チェシャの手が俺の額に伸びてくる。
なんだ?
心臓の鼓動が俺の体内に響き――「
「なにやってんだ?」
俺の頭に回復魔法だなんて。
「だめみたいね~。頭の病気かと思ったんだけど」
「失礼な! ったく、何でそうみんなみんなこー、なんていうか、俺をおかしいおかしいって。どこもおかしくなんてないのに」
そう言って何気なく高速腹筋してみたら。
「今のジュンヤくんやっぱりなんかおかしいよ! どうしたの!?」
だから何もないって……と、座りなおしてから、弁明しようとしたそのとき。
アリスが俺に身体をくっつけてきたのだ!
「えっ……ふぁっ!?」
彼女の膨らみかけた胸が俺の腕に当たり……柔らかい感触が俺の顔面を赤く熱く染め上げる。
「なっ、なにしてんだよ!」
「こうすればジュンヤくん元に戻るかなって!」
「元に戻るも何も……」
「現にいま元に戻ってるじゃん!」
そう言われると、何も言えなくなる。
確かに、ここ数分間の言動を思い出してみると、ちょっと俺らしくなかったかも。俺らしいってなんかまだちょっとよくわかんないけども。
ともかく。
「決勝戦第四試合! チーム・ハイパースーパーフォーブレイブスVSチーム・スピリットガールズ!」
「おそらくこの決勝戦でも最強だといわれ、二大優勝候補だった二つのチームだな」
「だった、とは?」
「あのハイパースーパーどうたらこうたらは負け続きだろう? だから今回も……」
解説のデストロ……もといレニウム先生が言うのを遮るように、工藤は叫ぶ。
「んなわけねーよ! たかが十歳児に負けるはずがあるか!」
「ならば、本気を出してもいいんだな?」
リリスが聞くと。
「ああ、もちろん。お前らなんかイチコロだぜ!!」
仲間たちに白い目で見られていることに気付かずに彼は堂々と叫んだ。
――勝負は一瞬でついた。
一瞬過ぎて何が起こったのか俺にもよくわからなかったが、どうやら試合開始と同時にリリスちゃんたちが最高火力の魔法をそれぞれぶちかましたらしい。激しい閃光、爆音が響き渡った。
「試合がつまらなくなるからあんまりやりたくはなかったが……これで満足だろうか」
「リリスちゃん。みんな気を失っちゃってるよ」
「し、試合終了です……」
審判が怯えながら宣言。会場は静まり返った。
――というわけである。
「……」
なんだったんだ。いまの、一瞬で終わった、戦いともいえないような一方的な蹂躙劇は。
ま、まあいい。次だ。次の戦いは俺たちだ。
「すごいよね……」
「ああ。というかヤバい。異常だよあの子達は」
アリスに話す。
チート悪魔に最強の精霊を従えた少女。勝てるはずがない。
「とりあえず、控え室に向かおうぜ……」
「うん!」
スタジアムに出た俺たちを迎えるのは、大きな歓声。
「緊張するな……」
さっきはすぐに決着がつくと思われていた分そんなに注目されていなかったが……今は違う。それを倒したことで、注目されるようになった。
さらに、いま目の前にいる対戦相手は俺たちと同じ。チートもなければ化け物だらけでもない、俺たちの次くらいに普通のパーティーだ。
すなわち、同格の相手との熱い戦いを望まれているのだ。
「俺の親衛隊であろうと、容赦はしないぜ!」
宣言。自分と、仲間、対戦相手、さらには会場にいる全ての人に。
「こちらもですよ、先輩」
テネシンが俺を睨みつける。
「いくら尊敬しているからと――いや、尊敬しているからこそ、全力で行きます」
「その意気だ! 正々堂々戦おう!」
会場が大いに盛り上がる中、審判が宣言した。
「試合、開始!」
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