第145話 チートVS天賦の才


「おめでとう。よく頑張ったな!」

 俺はノアの頭を撫でた。

「えへへ~。ありがとうお兄ちゃん!」

 ああ、可愛い。そんな風に妹を愛でていたら。

「むぅ……。私も撫でて」

 アリスが頬を膨らまして俺を見つめる。

 お前は何もしていないだろうに……と内心思いながらも、仕方がないので撫でてやる。

「わーい!」

 ああ、両手に花。ハーレムなんて望んじゃいないが、可愛い子に好かれるのは気持ちがいいもんだ。

「なに鼻の下伸ばしてるのよ~」

「はっ!?」

 聞こえた声に驚いて顔を上げると、そこにはチェシャが。

「全く、あきれるわ~」

「ちょっ、まっ」

「変態なのね~」

「やめろぉ!!」

 恥ずかしい。滅茶苦茶恥ずかしい。顔が熱くなってるのがわかる。

「……お兄ちゃんって変態なの?」

「私はジュンヤくんがどんな変態でも受け入れられる自信あるからね! 大丈夫!」

 アリス。なにが大丈夫なんだ? あと俺はそもそも変態なんかじゃねえ!


 そんな茶番はおいといて。

 さて、次の戦いだ。

「決勝戦第三回戦! チーム・ハイパースーパーフォーブレイブスVSチーム・ジュンヤ君親衛隊!」

「さっきまでの私なら転生者四人組の圧勝だと答えていただろうが……あの戦いを見てからだと、なんとも言えんな」

 あの戦い、というと……俺たちの戦いだろうか。工藤以外は全員負けていたし。

 ……その工藤が意外と強いんだけどな。あの反則行為がなければ俺たちは負けていたかもしれないし。もしかしたら俺が弱かっただけなのかも知れないが。

 試合が始まった。

 もはやおなじみ、切り込み隊長たるルミナが突撃。だがしかし。

「イヤァァァァァァッッ!」

「気持ち悪いなぁ、この叫び声」

 安田も同じように突撃していた。

 結果、両者はぶつかり合う。

 拳と刀の切っ先の間に火花が散る。

 だがしかし、ルミナにはもう一つ拳がある。

 すなわち、刀を受け止めているほうと逆の拳で安田の胴を殴ったのである。

 そのとき。

 爆音。

 沢村の爆裂魔法。しかしその煙の中に人影はなく――。

「いない!?」

「ここだよ」

 沢村の背後に、スズがいた。

 スズが沢村の首筋に鋭い水平チョップを叩き込んだ。

「イクっ!」

 清水が叫ぶ。決して意味深な物ではなく、ただ襲われる彼氏、もとい仲間の名を叫んだだけなのだが。

「変態」

 その背後に立っていたのは、セレン。

 彼女の投げたヨーヨーは清水の側頭部に激突。そのまま男の意識を刈り取った。


「てめえら……」

「ぼ、僕もいま――ゴフッ」

 工藤は静かに怒りを抱く。背後に立ったテネシンをノールックで虫けらのように叩き潰しながら。

 白目を剥いてぱたりと倒れる少年をよそに、工藤は剣を構える。

 とっさにヨーヨーを構えるセレン。杖を掲げいつでも魔法が発動できる用意をするスズ。安田を一方的に殴り続けるルミナ。彼女たちを睨みつけ――。

 勝負は一瞬であった。

 セレンはヨーヨーを投げ、スズはそれを強化する魔法をかける。

魔法解除ディスペル

 だがしかし、それは弾かれる。

 何故か。

 強化魔法が解除されたからだ。

 普通の人間であればそれでも弾くことはできなかっただろうが、あいにく相手はチート持ちの異世界転生者である。

 魔法を解除するスキルで強化魔法を強制的に解除し、さらにそれでも金属製で重いはずのヨーヨーを剣で弾き返すことなど、容易なのだ。

 刹那、高速で駆け出す工藤。狙うは――少女二人の首!

「剣技――」

 その命を刈らんと鬼気迫る形相で向かってくる男に、少女たちは震え――衝撃波がその場を包む。

 静寂がその場を支配する。


「二人とも、大丈夫かい」


 そこに居たのはルミナ。彼女が剣を受け止めたのだ。

「あ、あの剣士は?」

「もう殺っちゃった!」

 笑顔で茶化して言うが、仮にも相手は異世界転生者なのである。それを一方的に殴って気絶させたほどの実力があれば、暴力的な刃を素手で止めることも不可能ではないという話だ。

「な、なぜ、俺の剣を受け止められている……」

 工藤は驚愕し、震える。

「そりゃあもう気合でしょ気合」

「気合でどうにかなる話か!」

 全くもってその通りである。

「ま、ともかく! コイツ倒しちゃおうぜ!」

 そう言ってルミナは、剣ごと工藤を振り回して飛ばす。

『うん!』

 二人の少女は頷いた。

「とゆーか、いまがチャンスなんじゃないの?」

「そうだね、ありがと」

「お礼を言われる筋合いはない、SA☆(きらっ)」

 その言葉を無視して、スズは魔法を紡ぐ。

隕石メテオ!」

魔法解除ディスペルッ!」

 落ちるはずだったその小型隕石は消えた。

 しかし。

 工藤は首に衝撃を受ける。

 喉仏に的確に、強い衝撃を与えられるのは――

「あの魔法はフェイクよ」

 セレンが目の前に居た。

 そのまま繰り出される連撃。

 工藤を襲うそれは、防ぐ隙すらも与えない。

 金属製でさらに魔法によって重量や速度を強化したヨーヨー。いくら異世界転生者であっても防げないほどの、重く、速い攻撃を生み出すのだ。

 工藤はそれをかわそうと体を捻り――目の前に、それこそ物理的に目の前に、ルミナがにゅっと現れた。

 視界を埋め尽くす少女のニヤケ顔は、驚愕と恐怖を与える。

 すなわち、工藤は悲鳴を上げたのだ。

「ぎゃああああああ!」

「うるせ。昇龍拳ッッ!」

 そう言ってルミナは、垂直に飛び上がりながら工藤の顎に向かって拳を突き上げた。

 いくら異世界転生者であっても隙をついた至近距離からの特大強攻撃には耐え切れなかったらしい。工藤はそのまま後ろに倒れた。


「試合終了です!! 勝者はチーム・ジュンヤ君親衛隊!!!」

 司会実況のテルルさんがマイク越しに大声で宣言する。とたんに俺は耳を塞ぐ。

 昇龍拳使えるとか、マジでルミナ何者なんだ。

 何はともあれ。

「お疲れ!」

 彼らとは試合が始まってからまだ一度も話してなかったことを思い出し、選手控え室に向かい、ルミナに挨拶。

「よく勝てたなあいつらに」

 ルミナに話しかけると。

「いやー頑張りましたよこっちも。正直死ぬかと思いましたもん。テネシン……あいつはいいやつだった。……彼の犠牲を無駄にはしない――」

「生きとるわ!」

 いつの間にか居たその死んだはず――実は生きていたテネシンが控え室のドアを蹴破った上でルミナの後頭部にドロップキックをかました。

 勢い余って部屋の奥までスライディングをする彼の身体をどうにか回避。すると、起き上がったテネシンは俺を見つけると目を輝かせた。

「あっ、あの、えっと、その、あっ、あっ……」

 俺は彼に気がつき、挨拶する。

「ああ、どうもはじめまして、岩谷純也です」

「こっ、こちらこそはじめましてっ! てってってっテネシンでしゅっ! あっ、噛んじゃったすみません!」

 とんでもなく緊張しているようだ。なんだかこっちまで緊張しちゃうなあ。

「あっアリスさんからお話を伺いましてっ……」

「落ち着いて。一旦深呼吸してください」

「はっ、はいっ!」

 俺の言葉どおり、深呼吸する彼。

「ありがとうございます……」

 どうにか落ち着いてくれたようだ。

 ところで。

「とりあえず、ドア修理しましょうよ。俺も手伝いますから」

 彼によって蹴破られた、ドアだったはずの鋼板がちょうど俺の真後ろに倒れていた。その上にルミナが乗ってお茶を飲んでいるのはマジで意味不明なのだが。座布団かなんかだと思ってんのか?

「はい、わかりました!」

 元気に返事するテネシン。まあ、悪い奴ではないようだ。

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