第144話 天才VS最強


「大幅に遅れてしまいましたが! ただいまから決勝戦第二試合の始まりです!!」

 司会の女子生徒、テルルのハイテンションな声が響き渡る。

「にしても、一時間前のあの試合はとても見ごたえがありましたね」

「だな。予想に反して、なかなかいい戦いであった」

「転入生の彼らがあれほどの健闘を見せるなど、誰が予想していたでしょうか! ワンダーランドの皆様、お疲れ様です!」

 なんかねぎらわれた。ありがとうございます。

「さて! 次の試合はチーム・ジュンヤ君親衛隊VSチーム・スピリットガールズ!」

「両方とも随分と強いようだ。戦力的にはスピリットガールズが圧倒しているようだが、技と立案力に優れた彼らに対応できるのかどうかが試合の要になってくるだろうな」

「では、選手入場です!」

 入場してくる少年少女たち。

 彼らはきょろきょろと周りを見渡し、九人一斉に俺のほうを見た。

 俺はびっくりして少しだけ目をそらしたあと、苦笑い。

「み、みんながんばれよー」

 控えめに声援を送ると、彼らは満足したようで、武器を構えた。

 なんでなんだ……?

 右隣を見ると、アリスがなにやらイライラしているようであった。何故か、彼女が炎の中に居るかのように見えるのは気のせいだろうか。

「どうしたんだ?」

 聞いてみると、彼女は笑顔で「ジュンヤくん、モテモテだね」とだけ答えた。

 ちょっと待て。なんで目の前の、競技場の中心に向かって杖を構えてるんだ? 魔法を発動しようとするのはやめとけ! 反則だから!

「ねえ、ジュンヤくん。彼女は一人だけでいいよね?」

「暗黒面に落ちるな! 俺はお前だけを愛してるから! 大丈夫だから! 誰も俺を取ったりなんてしないから!」

「ホント?」

「本当だからね! だからとりあえず杖をしまいなさい!」

 アリスに秘められた恐ろしい部分に戦慄しつつ、選手の彼らに視線を向けた。


「試合開始!」

 試合が始まる。

 最初に動き出したのは、バーサーカー、もといルミナである。

「うあっははははははは暴力の限りつくすのって、たーのしー! あはははあははははは」

 完全にハイになって理性を飛ばしているルミナ。これじゃあただの、ホンモノのバーサーカーじゃん……。

 突進する彼女を受け止めたのは、風であった。

「ここは僕が――」

 しかし、制止するシリカ。

「ノア。あのヨーヨーのお姉さんは、予想もしてないような方向から攻撃を放ってくるはず。私よりも足が早いあなたのほうが向いてるわ。不本意だけど……ここは、私が抑えておくから、彼らは任せたわ」

「うん! わかったよ」

「お前らのほうも頑張れよ!」

「わかった! サラも頑張ってね!」

「おう!」

 そうして、シリカは巨大な剣を片手で持つ。

「おおっ、バケモノ」

 シリカは無言でそれをルミナに振り下ろした。

 ごんっ、と音が鳴り。

「痛いなぁ、もう」

「……どんな生命力してんのよ、あんた」

 とんでもなく重いはずの大剣を頭で受けてぴんぴんしているルミナを、シリカは化け物を見るような目で見た。

 そこに渦巻く、火炎。ルミナはあっという間に炎に包まれる。

「いまのうちだ! 早く行け!」

「ありがとう、サラ!」

 サラはルミナの方に手を向けながら、歯をむき出してにっこりと笑った。


「すごい戦いだね」

 アリスが俺に話しかける。

「ああ。確かに、すごい。俺にはあんな戦いは出来やしねえ」

 熾烈な戦い、盛り上がる観客。熱狂の渦に、ついには興奮で倒れてしまう人までいる有様。

 目の前の競技場では派手な魔法や技が飛び交い、観客を熱狂に誘う。

 ああ、凄まじい。

 俺はいつしか戦いに見入っていた。


「やぁっ!」

 ノアが、迫るヨーヨーを剣で弾く。しかし。

「後ろだッ!」

 甲高い音。ノアが背後を見ると、そこには透明な板状のもの――防御魔法が張られていた。

「ありがとう、リリスちゃん」

「ああ。それよりも……どうやって攻めるかだな」

 リリスはヨーヨーの攻撃を拳で弾きながらノアと相談する。

 しかし。

「いまの、聞いたです? 作戦変更です」

 テネシンが指示した。話は丸聞こえだったらしい。

 リリスは口角を上げた。

 走り、飛ぶノア。そのまま、上からセレンとスズを襲う。

 だがしかし。

防御シールド――そんな丸見えの攻撃、効くと思った?」

 スズは防御魔法を発動。剣戟を防ぐ。しかし――。

「あら、後ろががら空きですわよ」

 スズの背後に立つ、銀の長髪を持つ少女、シリカ。

「い、いつの間に!?」

 セレンのその質問に答えず、シリカは続けた。

「ちょっと魔力が足りなくなっちゃってね――ってわけで、いただきますわ」

「なにをよ!」

「あなたの魔力ちからよ」

 そう言って、シリカはスズの身体に触れた。

 瞬間、跪くスズ。

「どうしたの!?」

「魔力がどんどん吸われていく……。ヤバいよ……力が、出ない……」

 シリカは高笑いした。

 セレンは焦燥し、目の前の、パートナーの力を奪った小さい少女を睨みつける。

「よくもやったわね!」

 至近距離でヨーヨーを飛ばすセレン。しかし、それはいとも容易く受け止められた。それを投げ返すと、シリカは飛翔。

 空を走りながら、彼女は口を動かし――。

 そして、竜巻が発生した。

 竜巻はスズとセレン、さらにはテネシンを巻き込み――飛ばして、突き落とす。

 そのときである。

「試合終了!」

 審判から声が上がった。規定のダメージ量を超えたようだ。

「勝者、スピリットガールズ!」

 そのコールに、客席は大いに盛り上がった。

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