第141話 昼休み


「すごい戦いばかりだったな」

「そうだね。見てるだけで疲れちゃった」

「そういえば、手作りの弁当すごい美味いぞ」

「やった!」

 四人で弁当を囲みながら喋る。今日の弁当はアリスちゃんお手製だ。

 無事に決勝リーグまで勝ちあがってきた。ここから先は強敵ぞろいだ。

「まず、一番強そうなのが、四人の転生者ですよね」

 確かに。何らかの能力を持ってる可能性が高いから、絶対に侮っちゃいけない相手だ。

 さっきの戦闘……というか、ただの蹂躙ではもはやなにが起きているのかわからなかったからな。当然、誰がどんな能力を使っているかなんてわからなかった。

 ゆえに、しっかりと見極めなくては。

「あと、ジュンヤの親衛隊だっけ~? あれも何気にすごかったじゃ~ん」

「あはははは……そんなつもりじゃなかったんだけどなぁ」

 アリスが苦笑する。まさかこうなるとは、そのチームメンバーを集めた彼女も思っていなかったらしい。

「テネシンって奴が意外と司令塔として有能。注意が必要だと思うぜ」

 俺は意見する。

「彼、なよなよしててあんまり期待はしてなかったんだけど。意外な才能発揮だね」

 確かに、初めて見たときの印象からすると意外すぎる。自信がなさげで、決断力は低そうだと思ってた。

 あと、ルミナの戦闘力も恐ろしい。生身で受け止めきれる自信がない。

 さらに、会話で調子が狂わされる。馬鹿ゆえか、意識しているのかはわからないが、滅茶苦茶な言葉遣いやボケなどで調子が狂う。頭がおかしくなる。ツッコミで隙が生まれる。

 そして、あとの二人の女子も侮れない。

 スズはチート能力こそないけれども、見た感じ、体力や魔力が異常に多いらしい。

 さらに、セレンはヨーヨーを武器にする。それを武器にしている人は、昔のドラマでしか見た事がない。つまり、戦闘経験がないのだ。

 その二人のあわせ技。魔法で攻撃力を上げたヨーヨーで相手を殴るという単純な技だが、スズの魔法力のおかげで攻撃は異様に重く、さらに、攻撃自体もどこから飛んでくるかわからない。

 用心せねば。

 それに。

「なんと言っても一番の強敵は……」

「ノアたちだよね。ずっと一緒にいたから忘れてたけど……」

 彼女たちは強い。異常だ。

 まず、ノアとシリカの二人だ。

 二人ともまだ十歳程度の子供のはずなのに、精霊の力を使いこなしている。

 もともとの才能もあったのかもしれない。

 特にノアは、半魔人ということもあるのか、体力が普通のひとよりも明らかに多い。さらに、魔力制御もシリカよりも優れている。

 シリカもシリカで吸血鬼だ。魔力を多く持ち、精霊魔法以外の、普通の魔法も身につけているようだった。

 さらに、その二人が契約している精霊、シルフとサラマンダー。

 四大精霊と呼ばれる、昔、勇者が魔王を倒すときに協力したという、強力な精霊のうちの二柱らしい。

 そんな伝承にも納得してしまうほどの、あまりにも強大なちからを持つ。

 言うまでもなく、危険。

 極めつけは、元上級悪魔のリリスだ。

 力の一端が失われているとは思えないような強さ。下手したら、あの転生者四人組のチート能力よりも強いかもしれない。

 上級悪魔には敵わないらしいが……俺たちはきっと一撃でやられてしまうだろう。

「……そんな獣が僕たちのすぐそばに居ただなんて……」

 ラビが震える。そりゃあ当然だ。

「可愛いけど……相当な化け物だぜ、あいつらは」

 激戦の予感。期待に胸が膨らんだ。


 ということで。

「なにやってるんですか」

「ウォーミングアップ」

 弁当タイムが終わってから、俺は剣を振っていた。

「……よく見ると、これ……」

 おっと、ラビが何かに気付いてくれたようだ――

「……ぼろぼろですね」

 違うそこじゃない。

 俺はため息をついて、集中をといた。

「ん? なんか剣の色が薄くなったです?」

「ようやく気がついたか」

 正解は、“魔力付与エンハンス”の魔法だ。

 武器に魔力を纏わせることによって、切れ味や攻撃の威力が上がる。そんな魔法である。

 と、ネタばらしをしたら。

「……すごいですね」

 引き気味で褒めてくれた。

 あとから聞いた話によれば、このスキルの効果は(使用者の魔力量にもよるが)そんなに高くはないらしい。

 クソッ、覚え損かよ……と、聞いたときは思ったが、このときはまだ知らなかったのである。

 ともかく、これを使い続けるためには相当の集中力が必要だったので、精神修行にはなった。


 さて。

 対戦順序が決定したらしい。

「僕たちの最初の相手は……」

「やあ、はじめまして」

 ……あの転生者四人組だ。

 黒髪、もやし。何の苦労もしてなさそうなイケメン。ヤバい、うざい。

 こちとら何度絶望したと思ってる!? すっごい苦労してきたんだぞ! 

 いーなー女の子に囲まれてうはうはして。俺なんてなぁ、一人の女の子に好かれるだけで精一杯なんだぞ!

 チート能力を持てなかっただけでな!

 なんだよこの不条理ッ!

 ……一旦深呼吸。落ち着け、俺。

 俺はどうにか全ての怒りを笑顔の仮面に封じ込め、会話する。

「や、やあ」

「きみ、異世界転生者みたいだな。どんなチート持ってる?」

 ああああああああああああああああ!!!!!!!

 一番聞かれたくない質問! 俺は何の力もないか弱い一般市民系冒険者なんだよ!

 とりあえず、ごまかす。

「やだなぁ。俺、異世界転生者なんかじゃないですって……」

「ごまかしても無駄だ。僕には嘘を見抜けるスキルがあるからな!」

 チッ(舌打ち)

 言い訳して凌ごう。

「あはははは……。仮に転生者だったとして、簡単に手の内をみせるわけないじゃないですか」

「まあ、それもそうだな。僕たちも自己紹介がまだだったな」

 そこじゃ……ない……!

「行こうぜ……」

「どうしたの?」

「ちょっと気分が悪くなってきた」

「なら仕方ないですね」

 何故かかっこつけて自己紹介をしている彼らをよそに、俺たちは控え室に向かった。

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