第142話 無能VS転生者(前編)


 さて。

「午後の部! 決勝戦です!」

 始まる、らしい。

「司会・実況は私、テルルが! 解説はレニウム先生が担当します!」

「よろしく頼む」

『げ、デストロイヤー』

「デストロイヤーとはなんだ! デストロイヤーとは!」

 会場はとても盛り上がっているようだ。頑張らねば。


「さて! 早速第一回戦! チーム・ワンダーランドVSチーム・ハイパースーパーフォーブレイブス! 先生はどう思いますか?」

「かたや異世界転生者、それも四人。かたやただの冒険者パーティー。勝敗は決まったも同然だな」

 失礼な。まあ、その予想は妥当だけれども……。

 あいつらには負けたくないんだ。死んでも勝ってやる!

「なんかすごく燃え上がってるね~」

「そうですね……」

 引き気味の二人。まあ、仕方ない。

「やるぞ!」

 気合をいれ――

「暑苦しいです」

「だね~」

「気合入れすぎだよ。何かあったの?」

 ――抜けた。

 まあ、このくらいでいい。少しだけ落ち着いた。毒気が抜けた。

「さっきはよくも逃げてくれたな……」

 相手の一人が怒っている。素直に謝るしかあるまい。

「先ほどはすみませんでした」

「ゆるさない。絶対にぶっ殺す!」

 なに言ってるんだよ。そんなの倫理的に……ほかの三人も頷いてるではないか。どこに行ったんだ日本人特有の倫理観。

「僕は工藤くどう れん。最初からスキルを全て覚えている!」

 さっきから一人で喋っていたリーダー格の、“嘘をつくとわかる”スキルを自慢していた男だ。

 厄介だな。さまざまな意味で。

「私は清水しみず 作磨さくま。一瞬でどんなものでも作り出せる」

 物資の補給か。消耗戦は出来なさそうだな。

「俺は安田やすだ れい。聖なる刀・飛駒路ヒコマロの使い手!」

 聖なる刀の名前が絶望的にダサいが、それなりにやり手のようだ。

「アタシは沢村さわむら イク! どんな魔法でも作って使えるわよん」

 一人だけ癖が強すぎるんじゃ! よく見たら彼だけ装備が全部女物だし! 男なのに! 似合ってないし!

 まあ、聞いてもないのに自己紹介して自分の能力をさらしてくれたのは好都合だな。

「さあ、教えろ! お前の能力をな!」

 工藤が俺を指差す。

「え……? ジュンヤが転生者?」

 ラビが困惑。しまった。彼、というかアリス以外の人間には俺が転生者だってことを伝えていないんだった。

 というか、以前伝えようとして失敗したんだ。

 俺には力なんてない。転生者でありながら能力がないと知られれば……力のない転生者など、普通より弱い、文化も何もかもが違うおかしな人間でしかない。

 棄てられる。今でこそ現地の人間だと偽ってどうにかやっていけている状態なのに……裏切られたら、もう何も出来ない。

 ……いや、一番は……せっかく手に入れた仲間を失う事が恐ろしいだけなのかもしれない。

 だから。

「……そんなわけないじゃん。俺はあいつらのような奴とは違うんだ」

 偽るんだ。

「嘘だぜ」

「いや、こんな事が本当であってたまるか」

 風が吹き荒れ――――


「試合、開始!」


 審判の一声と共に始まった。


 襲い来る安田。その手には、鈍色に光る刀。

「イヤァァァァッッ!」

 瞬時に、「速度強化ブースト・スピードっ」

 後ろに攻撃をかわし――聞こえる、詠唱。

 後方から――爆風ッ!?

「撃たせてもらったわ、爆裂魔法」

 目の前にいたのは、美少女。

 こんな奴は、さっきはいなかったはずだ――いや、装備には見覚えがある。

 お前は――沢村か。

「イクちゃんって呼んでネ❤」

 男だって思うと、急に気持ち悪く思えてきた。

光矢エナジーボルト

 至近距離で腹にぶち込む光の矢。沢村は「う゛っ」と声を出して倒れた。一人撃破。


「意外だな。沢村のあの魔法を受けきるだなんて」

「どうにか防ぎきったんだけどね……。私たちを見くびらないでよ」

 アリスたちは後方で、防御魔法を展開していた。

 そこに迫る清水。

「いいの? その沢村って人、すぐにやられちゃったみたいだけど」

「なにっ!?」

 清水は倒れた沢村を見て驚愕。

 そこに、安田が走ってきて――勢いを殺さず、剣を振るう。

 響く、甲高い金属音。

「ラビ!」

 ラビが腕につけた小型の盾で受け止めた。

「危ないじゃないか安田。当たったらどうするつもりだったんだ」

「すまねえ」

 そんなやり取りをする二人。

 それとは対照的に、ラビは言う。

「彼は僕が引き受けます!」

「だいじょうぶなの~?」

「大丈夫、です!」

「……防御力強化ブースト・ディフェンス

「ありがとうです」

「あんなこと言っといて……倒れたら、許さないんだからね~」

「……はいっ!」

 そう言って、チェシャは微笑んだ。

 アリスは、離れていくラビを見た。

 そのとき。

「クソッ! これなら……どうだ!」

 清水は手を天高く上げ――青い光が出現。

 以前あのキモオタ四天王の男が実演したような感じで、青い稲妻を纏った蒼い塊が現れ、それは小さな丸い形に収束。

 出来上がったのは――見知らぬ物体。いや、異世界人の俺にはわかった。

 あれは、手榴弾だ。

「ふふふ、これはさっき以上の大爆発を引き起こす……。果たして耐え切れるかなっ!」

 清水はピンを引き抜き、投げた。

「危ない! それは爆弾だ!」

 俺はとっさに叫んだ。

 ――アリスは思考した。

(ばくだん? なにそれおいしいの? でも、さっきの言葉から考えるに、これが爆発するのかなぁ。なら……)

 そうして、発動する魔法。

反射防御壁リフレクション・シールド!」

 それは、手榴弾を跳ね返し――清水はそれを受け取る。

「え?」

 爆発。清水は気絶した。


「なによそ見しているんだ!」

 背後から気配!

 急いでかがむ。

 すると、剣が俺の首があったところを切り裂いた。

 俺は振り向いて、剣の主を睨み付ける。

「工藤、てめえ」

「お前、やっぱり転生者だろ。そうじゃなければ、手榴弾を危険だと知らせることも出来なかったろうな」

 俺は舌打ち。

 もう仕方ない。

「ああ、そうだよ」

「なら、どうして能力を教えない!?」

「それは、俺と戦えばわかる」

「なら――」

 俺は剣を引き抜いた。

『戦うしかない』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る