第138話 やるせない


「なんだったんださっきのは!?」

 リリスたちが帰ってくるなり、俺は聞いた。

「あれは精霊と融合することで、魔力や魔法力を爆発的に高める技よ! 継続時間を犠牲にして魔法の威力をさらに爆上げした感じ!」

 シリカがドヤ顔で自慢する。なんか可愛らしく見えてきた。

「彼女らの修行の成果だ。……二人ともちょっと強くなりすぎな気はするが」

 観客に被害が及ばないようにするのも大変だったんだぞ……と、リリスが苦笑した。

 そんな時、あることに気がつく。

「なぁ、そういや、ノアはどこにいるんだ?」

 戻ってきたのはシリカとリリスの二人だけであった。

 精霊の二人はそれぞれの主の中に戻っているとしても、あとの一人がいないのはおかしい。そう思ってのことだった。

「ノアは……対戦相手の少女を見ている」

「見ているって……」

「ノアはよほどあの少女に自分と同じような何かを見出した、とさっき話していたが」

「ああ、あの話か」

 ばっちり、聞こえていた。

 決着がついたあとに話していたことだ。

 ……俺は同情しちまったな。

 悪魔にすがってまで、強くなりたい。強い奴を見返したいって気持ちが、痛いほどにわかってしまう。

 俺には特別な力なんてないから。

 特別な力も才能も、何にもない。ここまでたどり着いたのも、さまざまなことに巻き込まれた結果だ。

 だからこそ、特別な力を持ったほかの異世界転生者を見て、嫉妬するのだ。

 あの神が間違えさえしなければ、俺もあんなふうになっていたはずだったのだが……だからこそかもしれない。

 俺は、未完成のまま放り出された、いわゆる欠陥品だと言えばわかりやすいだろうか。

 欠陥品が完成された製品を見れば、悔しさと絶望感を味わうのだろう。

 そんな気持ちを、彼女らも味わっていたのかもしれない。

 そう思うと……俺はひどく同情してしまった。

 俺がしてやれることは何もない――否、これは彼女らの問題だ。俺が口を出すことではない。知っている。

 けれども、少しだけやるせなさを感じたのであった。


 さて。

 武闘大会は順調に進み、現在予選第八試合。

 これまでの戦いはまあまあ面白かった。

 多少の実力がありそうなチームが出場する戦いでは思いっきりワンサイドゲームになってたけど。俺たち然り、一瞬で決着がついてたな。

 今までで一番盛り上がったのは、第四試合。ノアたちの戦いだ。

 まあ、あれほどド派手な異次元級の戦いを見せ付けられたら仕方ないことなのだが。

 あれで、いままで「所詮は小等部だ」と侮られていた彼女らが、一気に優勝候補にのし上がった。なんとなく嬉しくなってくる。自分のことじゃないけど。

 さて、試合を見るとしよう。

 ちょうど始まるところだったらしい。ナレーターの女子生徒がチーム名を読み上げる。

「予選第八試合! チーム・チンピラーズ対チーム・ジュンヤくん親衛隊!」

 ん? いま俺の名前が出てきたような。

 隣で、アリスがニタニタと笑っている。本当にどうした?

 そして、選手がスタジアムに入場。

 俺は驚愕した。

 まず、先頭を薄い胸を張って歩いてくるルミナ。二番目に、横に並んで喋りながら入場するスズとセレン。最後に、おどおどとした態度でゆっくりと少女たちの後をついてくる……知らない少年。

 そう、最後の一人を除き、全員俺と面識を持つ人間だったのである。

 四人は、一瞬ひそひそと話し合って、対戦相手の男たちに名乗りを上げた。

「我らこそは!」

「チームワンダーランドサブリーダーの!」

「ジュンヤさんを」

「き、狂信する集団……」

「その名も!」

『ジュンヤくん親衛隊ッ!』

 ……ご丁寧にポーズまでつけて、俺を狂信するとか言い出した。

「アリス! 見てる? こんなもんでいい?」

 恐る恐る、呼ばれた右隣の少女を見ると、可愛らしい笑顔で親指を立てていた。

 君の差し金か――!


 というわけで。

「ねえ、スズ」

「うん。ヤバいよね」

「ボ、ボクが出る幕なかった……。あ、あの人、前世はバーサーカーだったのかなぁ」

 ルミナが約十秒で全員を殴り倒して気絶させていた。

「勝者、ジュンヤ君親衛隊!」

 大体こんな感じの試合が続いていた。

 俺はあくびを漏らした――ところで、後ろから肩を、ぽんぽんと叩かれる。

 振り向くと、ラビが。

「次、試合ですよ」

 そうだった!

 俺たちは慌てて控え室に向かった。


 というわけで、予選第九試合。トーナメントの二段目。

 これが終わると、午後は勝ち残った全四チームでの総当りリーグ戦となる。

 装備が終わったところで、ダメージ計測機能つきの特殊な防御魔術をかけてもらう。

「そういえば、これも異世界から来た人が考案したらしいですよ。なんでも、安全に決闘が出来るように開発されたとか」

 魔術師のおばさんが言う。

 うん、そんなもんだと思ってた。ほかの異世界人無双しすぎだろ……。生きてる証を時代に刻み付けすぎだろ…………。

 ……だが、正直羨ましかったりもする。

 俺は、何も出来ないから。


 さて。

「予選第九試合! チーム・ワンダーランド対チーム・冒険者協会公式!」

 冒険者協会公式チーム!?

 どんな奴が来るのだろうか。

 果たして、競技場で対面したのは……いかにも普通の冒険者パーティーであった。

「俺はここの中等部二年、リチウム! よろしくな!」

「わたしはセシウム。よろしく!」

「マンガンだ」

「あたしはマルトース!」

 こちらもそれぞれ自己紹介。

「僕はラビです。高等部、二年です」

「俺は岩谷純也。よろしく」

「私はアリス」

「チェシャだよ~。よろしく~」

 すると、リチウムが俺たちに聞いて来た。

「先輩は、冒険者なのか?」

 俺が代表して答える。

「ああ、そうだ」

「ちなみに、何レベルくらいなんだ?」

「ざっと……平均五十くらいだな。」

 そのとき、会場はざわついた。

「しょ、証拠は?」

「これ~」

 チェシャが冒険者カードを差し出す。

「四十五……!? これが一番高いんだよな!?」

「いや、一番低い」

「!?」

 一番高い俺で、現在五十五だから、平均五十くらいで大体あってるはずだ。

 相手はひそひそと相談する。

 しばらくしてから呼びかけると。

「あっ、はい。もういいですよ」

 セシウムが答える。敬語で。

「早く始めたいです」

 ラビが身体を震わせはじめる。

 リチウムは頼む。敬語で。

「お手柔らかにお願いします」

「手加減はしないからな?」

 俺が言うと、彼らは震えた。

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