第139話 VS公式チーム


 戦いが始まる。

 剣を振りかざすリチウム。

 俺が左手に持った剣で振り払うと。

「これで武器は離した! この状態からそれを振るうことは……」

 確かに出来ないな。左手に持ったほうは。

 だけど、その時には左腰に番えた剣の持ち手に右手をかけていた。

「何!?」

 俺は二本目の剣でリチウムを切り払った。

 彼は吹き飛ばされ……壁に頭を打ち、白目を剥いた。

 次に、マルトース。

 猫科の獣人のようで、爪でラビに攻撃していた。

 俺もそちらに向かおうとすると。

「行かせない」

 大きな槌を持った巨漢、マンガンに道を塞がれた。


 *********


 一方、僕、ラビは猫獣人の少女の攻撃に耐えていた。

「シャァァァァッ!」

 彼女は威嚇音を出し爪で連撃を繰り出す。

 僕は右手につけた小型の盾で防ぐのみ。甲高い金属音が響き渡る。

 僕の重装甲に、彼女の爪は通用しない。しかし――。

 盾で彼女を少しだけ後退させ、ちょうどいい間合いになったところで、槍を構え、放つ突き攻撃。

 しかし、かわされる。

 ――重装甲のせいで遅くなった僕の攻撃もまた、彼女には通用しない。

 膠着状態。

 そこに――

「危ない!」

 アリスの叫び声。

 僕は慌てて屈み――「にゃあっ!?」

 頭の上を通過する閃光、素っ頓狂な悲鳴。

 どうやら、アリスの撃った魔法の流れ弾らしい。

 直後、小規模な爆破音。

 立ち上がり前を向くと、少し髪の毛が焦げ、耳が垂れ下がった猫獣人の少女がいた。

「あたし、まだたたかえる。かかってこい!」

 息を切らしながら言う彼女。

 どうしよう、可愛い。今書いてる新作の百合小説にこんなキャラを出してもいいな――と、そんなことを考えてる場合じゃない。

 いまはチャンスだ!

 精一杯威嚇する彼女に向かって、僕は槍を突き出した。

 ――彼女は倒れた。

 正直心は痛むが、仕方ない。後で僕が医務室に運んでやるとしよう。

 さて、と。

 周りを見渡す。

 盛り上がる観客。僕たちの戦いを見て楽しんでるのは……少し複雑な気持ちだ。喜んでいいのやら……。

 そこで、ジュンヤが大槌の男と戦っていることに気付く。

 あれなら、僕の得意とするところだ。

 僕はそちらに向かった。


 **********


「どうですか、アリス先輩! わたしも結構強いでしょ!」

「くっ……」

 セシウムのその強力な弾幕を、私は防御魔法を使って防ぐ。

 そして、その隙を縫うように――「爆発光矢ボム・ボルトっ!」

 放たれたその閃光は、魔法の弾幕に阻まれ、少しずつ弾道を変えていき――ラビのほうに、飛ぶ。

 私はとっさに叫んだ。

「危ない!」

 そのとき。

「先輩、もっと私のほうを見てくださいよ」

 魔法が直撃した。

 試合前にかけられた防御魔術のおかげでダメージは軽減されるけど……それでも、それなりの痛みは襲う。

 あの子、本当に嫌い。

 私よりレベルは低いようだけど、才能自体はあるし。魔法を使うときに魔法の名前を言わないのも、相当な実力がないと出来ないことだし。そんなこと私も出来ないし。

 それだけだったら全然いいんだけど……実のところ、とっても性格が悪そうなんだよね。男たちの前では猫かぶって媚び売って、でも裏では他人の悪口しか言ってなかったり、弱い物いじめをしてたりするようなタイプ。

 こういう人、大っ嫌い。

 だからこそ、負けたくないッ!

「せんぱぁい。もしかして、私よりも弱かったりしちゃいます?」

 そんなことを言う彼女。

 自分の強さに驕っているらしい。

「レベル聞いてびっくりしちゃったんだけど、意外と弱いですね(笑) こんなのと戦ってると殺されてると思うと、魔獣たちが不幸に思えてくるわ」

 私は深呼吸して、イメージを形成していく。

 彼女は私の頭を踏みつけて、さらに嘲笑う。

「さっさとリタイアしてくださいよ。あなたみたいなのとは戦う価値が――」

「……なんでもそうなんだけどね」

 私は忠告する。


「相手を侮る事が、戦場では命とりなんだよ」


「なに!?」

 彼女は気付く。背後の巨大な魔力に。

 だけど、もう遅い。

爆発光矢ボム・ボルト

 爆発。閃光。

 煙が晴れると同時に、アラームが鳴り響いた。


「勝者、チーム・ワンダーランド!」


 観客の歓声が闘技場を揺るがした。


 **********


「いい戦いだった」

 控え室。

 俺、純也はマンガンと握手する。

 結局、俺が彼と戦っている間に制限時間が来てしまったらしく、与えた総ダメージ量の比較で俺たちが勝利したというわけである。

 っていうか、マンガンさん握力強くね? 手がミシミシと音を立てているような。

 それからすぐに、バキッ、と音がした。

「痛い痛い! 回復ヒールっ!」

 回復魔法を行使。俺は傷を治す。軽い骨折まで直せるのは強みだよな。まさに医者いらず。

「すまない」

 頭を下げるマンガン。謝ってくれたならそれでいい。


 俺は、アリスに聞いた。

「決め手になったあの魔法ってなんだったんだ?」

 アリスは小規模の爆発を起こす魔法は持っているが、あれほどの威力はなかったはずだ。魔法強化系の魔法やスキルもなかったはずだし。新しく覚えてなければだけど。

「ああ、ただの爆発光矢の魔法だよ」

「……それでもあの威力は出ないんじゃないか?」

「“初速”を思いっきり削るのと引き換えに、“爆発の威力”を大幅に上げたんだ」

 これは驚いた。

「そんなこと出来るのか」

「まあね! いままでいっぱい魔法を使ってきたから!」

 彼女はドヤ顔で言った。可愛い。


 さて。

 第十試合が始まるので見に行くと。

「あっ、あれって……」

 アリスが気付く。

 ノアたちの対戦相手。


「予選第十試合! チーム・魔王軍対チーム・スピリットガールズ」

 スタジアムに現れたのは、なんとなく見たことのある三人組。

「あっ、リリス様」

「お前は……誰だっけ」

 ハーゲンである。人の姿に化けているが、明らかに彼だ。

 かつて、俺が居た町を襲った、割と強い悪魔である。

 ヴェルオリと……あと一人は知らない人だ。

 レベルを上げておいた魔力察知スキルが疼く。

 この三人から出ている魔力は、人間の物とは思えなかった。

 悪魔であるハーゲンは言うまでもないが……ほかの二人からも、明らかに人間の物とは思えないような性質を持った魔力があふれ出しているのが感知できた。

 ……なるほど、レベルを上げた魔力感知スキルは魔力の質的なものまで感知出来るのね。すごい。

 それはともかく。

 戦いは一瞬で終わった。

 何故か。

 恐らく、彼らは精霊の力を侮りすぎたのだと思われる。

 第三試合の勝者ということは……ただの人間相手に互角の戦いを繰り広げていたということ。特に印象には残っていなかったが、わりとどんぐりの背比べ的な互角で見ごたえのない戦いであったことは覚えていた。

 恐らく、人間相手には力を抑えて戦っていたということ。

 軽く解説してみたが、結局、人を侮りすぎたのが彼らの敗因というわけだ。

 侮りというのは恐ろしいものだ。

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