第120話 Where are our house!?
「なるほど。つまりは宿無しということな?」
「ああ、そうだ」
ルミナは前回の要点を一言で片付ける。
新天地に着いたら宿無しで困った。つまりそういうことなのだ。
さて、どうしようか。
そこで話が止まっていたはずだ。
「ねえ、ほんとにどうしようか」
「ですね……」
アリスとラビが顔を見合わせる。
本当はそれも話し合っておくべきだったが……。
「本当にすまなかった。これは俺のミスだ」
俺は頭を下げた。
神妙な雰囲気が流れた。だが、それも一瞬で変わる。
「……謝っても、何も始まらないよ~?」
チェシャが言った。
「そうだ。今は顔を上げろ」
「あとで、おうちを見つけてから、ゆっくり話そう? これからのこと。ね? お兄ちゃん」
リリスとノアが俺に話しかける。
俺は深呼吸して顔を上げ――
「……ああ、そうだな。大切な妹にそんなこと言われちゃ、俺も一肌脱いでがんばらなきゃな!」
――自分に言い聞かせるように声を張り上げ、口角を上げた。
「で、どうするの~?」
「だからっ! それを今から考えるんだよっ!」
こうして堂々巡りが続いていく……そう思ったとき。
「あ、そういえば、うちの近くに空き家があるんだけど」
「ちょっと待てルミナ、それを詳しく」
数時間後。
「もう夜だな」
リリスが言った。
その通り、もうすでに日は沈み、空は透明感のある濃紺色に染まっている。
そんな空を俺たちは窓越しに見ていた。
「家が見つかってよかったね……」
「野宿も覚悟しましたが……」
「ふう、僕の市街サバイバルスキルを伝授しなくて済んだね」
いや全くその通りだ。
にしても、ノア。市街サバイバルスキルってなんだ。すごい気になる。
ちなみに俺はさまざまな書類や手続きを済ませてこの屋敷を無事購入したところだった。これで残り数百万Gだったはずの自分の全財産がたったの数千Gまで減ってしまったのは悲しいことだったが。生活資金を溜めなくては。
何はともあれ、今日のMVPは俺といっても過言ではないだろう。
ということで、疲労困憊だった。
「ジュンヤ、すごい疲れ方してる~」
チェシャが、ソファーに寝転がっている俺を見ながら言うと。
「おお、そうだな。さっきから何も喋ってないぞ? これを貸そうか?」
リリスがユウを指先に乗せて出してきた。
流石にもう起きろよ……。前々回から寝続けているせいでもはやおもちゃ扱いだぞ……。
「それともお前もおもちゃにされたいか?」
「やめてくれそれは」
リリスの恐ろしい問いに、俺は即答した。リリスは頬を膨らませた。
さて。
さっそく自室へ向かう。
ちなみに、部屋の割り当てはみんなで相談して決めた。
この屋敷は、実は以前どこかの貴族が住んでいたらしい。彼らは引っ越したようで今は別のところにいるらしいが、引越しのときに家具はほとんど持ち出さなかったようで、未だにベッドなどの家具が残っていた。
つまり、この部屋にはベッドなどが最初から備わっていて買い足す必要がほとんどなかったということだ。要するに、長々と説明しただけのただのご都合主義展開である。
何はともあれ、やはりベッドの寝心地がいい。貴族様御用達の物だったからだろうか。
やわらかく包み込まれるような感覚。ふかふか……。
俺の意識は瞬く間に天へ召されていった。
――と、純也が寝てしまうことを待ち望んでいた人物がいた。
「うふふふふ……。じゅんやくん……」
アリスはとろけきった声でつぶやきながら、純也の部屋に侵入した。
ドアの開く音がしても純也は眠ったまま。彼が相当疲れていた事がわかる。
アリスはそっとベッドに近づき、純也の寝顔を見る。
「寝顔……。寝顔もかっこいいよ……」
彼女以外に、彼の寝顔をかっこいいなどと思う人間はいないだろう。恋というのは、どうして人をこんなにも盲目にさせるのだろうか。
アリスは純也の顔に唇を近づけ……唇どうしを重ね合わせた。
「らいしゅきぃ……じゅんやくぅん……」
恍惚とした様子でアリスはつぶやいた。
「んっ……んぅ……」
純也が声を漏らす。アリスはそれに一瞬驚いた様子を見せる。
(起きちゃった!? 早く部屋からでなきゃ)
アリスはあわてて立とうとするが……布団に手をうずめてしまった。
彼女の手を包み込む柔らかい至福の感覚。それは即効性の睡眠薬にも似たような効果を発揮する。
すなわち。
(ふかふか……。眠い……。…………)
アリスは眠ってしまった。純也の部屋で。
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