第119話 学園到着


「いや~、スマンね。体型も顔つきもちょっと男の子っぽくてサ」

「……」

 むすっとした顔のノアをなだめながら新交通システムの高架線下を歩いていく。

 現在、およそ歩いて15分。駅を一つ通過して、すぐ目の前には二つ目の駅がある。

 やっぱり上を走っている電車で行ったほうがよかったよね、と思いながら歩いていると。

「もうすぐだよ! ほら、あの建物」

 ルミナが指差した先には、城のような建物があった。

「場所はわかったでしょ? じゃ、縁があったらまた会おう。まったねー」

「いやちょっと待て」

 どこかへ行こうとするルミナを俺は引き止めた。

「どうして学校じゃないところに向かおうとしてるんだお前は」

「行きたくないから」

「即答だな!」

 行かなければ駄目だろう流石に。

「それはそうだよ! 何もかも強制されてばっかりじゃ将来大人の傀儡になっちゃうよ!」

 ……納得して……しまいかけたがどうにか押さえ込み反論しようとすると。

「なあ、ルミナとやらよ。行ったほうがいいと思うぞ」

 リリスが言った。

「何で!?」

 ルミナは聞くと、リリスは空いているほうの親指で後ろを指差しながら言った。

「あの女教師が猛スピードで迫ってきているんだ……」

 

 数分後。

「お前らが噂の新入生か」

「噂なんですか?」

「それはもう。何でも、アレーダンジョンラスボス討伐で生き残った奴もいるとかで」

 ラビと女教師――レニウム先生というらしい――が話しているのを横目に、ほっと息をつく。

 ちなみに、アリスは俺と一緒にボロボロになったルミナを支えながら歩き、リリスはずっとユウを米俵のように担ぎ持っている。

 ……俺の話が出てきたような気がするが。

「ああ、それならこの黒髪の……」

「冗談はよしてくれ」

 ラビは俺のほうを指差したが、嘘だと思われたようだ。

 まさかそれが本当のことだとは思うまい。

 近くを歩いている生徒たちはみな、ちらっ、ちらっとこちらの様子を伺う。だが俺のことだけは誰も見ない。

 むしろ、様子を伺ってきた学生たちが俺かレニウム先生の姿を見たとたんに真顔になって顔を背ける。

 なんでだッ! なんでそうなるんだッ!

 俺は無表情を装いながら心の底で悲しさと空しさをかみ締めた。

「……大丈夫。私がついてるからね」

 ルミナが同情したような声で言った。頬を熱いものが伝った。

 

 どうにか校舎までたどり着き、事務的な作業を終える。どうやら、探していた本部塔の機能は、今のところ暫定的にこの校舎に集約されているらしい。

 なお、校舎内は生徒が俺たちを避けて歩いていた。さながらモーセの十戒かなんかの海が割れるシーンのようであった。

 厳しい女教師と黒ずくめの怪しい男――俺は黒が好きなのだ――が目の前にいたら、そりゃみんな避けるよなぁ……。

 思いながら校舎の中を歩く俺の気持ちは切なさに満ち溢れていたのだった。

 

 ルミナたちとも別れて、校舎の外に出る。そのまま7人でなんともなしに学校をぶらつく。

「さーて、住処を定めないとなー」

「まだ決めてなかったの~!?」

 俺がつぶやくと、チェシャが突っ込んだ。そりゃそうだな。

「ユウ、どう思う……起きろよいい加減」

 そのユウはリリスにハンドスピナーみたいに遊ばれてた。幼女が指一本で高校生程度の男を回してるのってすっごいシュールだな。

「わたしはいいと思うよ?」

「……一応聞いておくけど……なに~……?」

 チェシャが恐る恐る聞くと、アリスが笑顔で言い放った。

「そのほうが、ジュンヤくんらしいじゃない」

 ……その内容は俺には聞こえなかったが、チェシャとラビは思いっきり青ざめた。一体なんだったんだ。

「シャレにならないのでッ! 早く家を探しましょう!」

 ラビは叫んだ。

 

「でも、この近くには家なくない?」

 ノアが言う。

 確かに、校舎の近辺は花畑や広場になっており、近くには校舎といくつかの関連施設があるのみ。住宅街などは見つからない。

 さっき歩いてきた中にも家らしきものはなかった。あったのは廃墟ビルと生活観満載でとても入れなさそうな集合住宅(恐らく学生寮である)が数件、後はやはり学校関連施設と新交通の建造物だけだった。

 だが、心配はご無用!

「じゃーん! さっき取ってきた貸し住宅の一覧表! これでいい家を探す……」

「残念ながら全部満員らしいぞ。さっき確認した」

 ……リリス、空気を読んでくれ。そう言いたかった。

 そんなときである。

「あっ、米俵がハンドスピナーになってる」

 さっき別れたはずのルミナがやってきた。何度目かのチャイムが鳴る。

「ルミナ、お前授業に出されてたんじゃ?」

「終わったからすぐさま抜け出して帰ろうとしたところちょうど通りかかった」

 そういうことか。

「君らのこと、すごい噂になってたよ? デストロイヤーが黒ずくめの不審者を連れてきたって」

 ひどい言われ様だな。

 そう思ってたらアリスが突然口を開く。

「黒ずくめの不審者だなんてひどい! ジュンヤくんはこんなにかっこいいのに!」

「……えっ?」

 ルミナが怪訝な顔をする。

 ……ラビがルミナに耳打ちした。

「こんな奴を好きになるとか……え……? なんで……?」

 明らかに素で何かつぶやくルミナ。ちょっと何いってるかわからないが。

「ジュンヤくんはわたしの婿! ハァハァ!」

 なんて、どこぞのオタクみたいなことを言っているアリス……の幻影が見えた気がしたが絶対に気のせい――だと信じたい――ので無視。

「……で、なに困ってたん?」

 ルミナは(見てはいけなかったものから目をそらすように)急に話題を変える。

 というか、ルミナはなんというか、洞察力に優れているような気がする。俺が異世界転生者だってわかったこともそうだし、今だって、こうして一目で俺たちが困っていたことに気がついた。

 そんなことはともかく。

「実はさ……」

 俺たちは、住処に困ってることなどを話すのであった。

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