第3部 第2章 学園生活編

学園・騒乱・友情

第121話 孤独なる転入生


 朝が来た。

 日はもう昇り、部屋は明るい光に満ちている。

 だが、布団から動きたくない。気持ちよすぎる。

 それでもどうにか起き上がりあくびをひとつ。

 そのとき、足の上に何かが載ってるような感覚を覚える。

 確認してみると、そこには……。

「むにゃむにゃ……ジュンヤ……くん……」

 アリスちゃんがいた。

 なんでここにいるんだ!?

 とりあえず、どうしようか。

 ……時間を確認。早速、きょうから学校だったよな。

 えっと……まだ余裕はあるな。

 じゃあ、朝食は俺が作っておくか。

 俺はアリスをベッドに移動させて布団をかぶせてから、キッチンへと移動した。

 

 それからしばらく経った、純也の部屋。

「ん……」

 アリスは目を覚ます。

 それから上体を起こし、あくびをひとつ。

 そのとき、彼女は昨夜のことを思い出した。

 純也の部屋に侵入したこと。

 彼の寝顔を凝視したこと。

 そのまま彼にキスしたこと。

 そして、彼のベッドに顔をうずめて眠ってしまったこと。

 アリスはひどく赤面した。

(えっ……昨日の私大胆すぎない!? キスなら何度かしているからともかく……一緒のベッドで眠っちゃうなんて……! でも…………ベッドに入ってたのは上半身だけだったはず……。しかも、布団もかけてなかったよね…………)

 彼女の心臓の鼓動がどんどん早くなっていく。からだが、熱くなっていく。

 そのとき、ドアをノックする音がした。

 アリスはとっさに布団をかぶる。

 入ってきたのは、純也だった。

「アリス、朝ご飯出来たし、そろそろ起きろ」

 そういって彼は布団をめくる。

「今日から学校だ。準備もしなきゃいけねーし……」

「……はーい」

 アリスは返事をして、布団から這い出る。

「あ、ありがとうね!」

「何が……ああ。どういたしまして」

 アリスが礼を言うと、純也は一瞬戸惑ってから何かを察し、照れくさそうに微笑みながら軽く頭を下げた。

「じゃあ、下に行こうか。そろそろみんないるだろうし」

「うん!」

 こうして二人は階下のリビングルームへ行った。

 

「……てなことがあったんだけど」

「ほう、それはそれは」

「いいですなぁ、青春ですなぁ」

「二人ともなんかきもいよ?」

 朝起きてからの一連の出来事をラビとチェシャに話してみた。すると、彼らは興奮した。

 アリスにきもいと言われているが、気にしていない様子だ。

 俺は話題を変えることにする。

「そういえば、制服。みんな似合ってるな」

「えっ、そうかな」

 俺が言うと、アリスは顔を赤くした。

 この学校の高等部の女子制服はセーラー服だ。

 一言で言おう。


 可愛い。


「でも、それを言うならジュンヤ君たちだってすっごく似合っててかっこいいよ!」

 そうかな。自分ではそうは思わないんだけど。まあ、いいか。

「ありがとう」

 俺はそれだけ言って微笑んだ。

「純也……もとい岩谷君、いつもより表情が柔らかくなってないかい?」

 ユウが聞いてくる。

「え? そうか? あと、学校だからって苗字呼びじゃなくてもいいぜ?」

 自覚は全くないが。あと、ラビとチェシャからの「いいぞもっとやれ」と語りかけてくるような視線がちょっと辛い。なにをやるんだ。

 さて、とりあえず学校に行くとしよう。

 

 **********


「ねぇねぇ! 今日、転入生が来てるらしいよ!」

「へ~。どんな人かなぁ……。イケメンだったらいいな~」

「それな!」

 とある二人の女子生徒の会話だ。他愛もない普通の会話である。

 しかし、その彼ら――特に、後に同じクラスになる彼――を見た瞬間、背筋が凍った。

 彼は、あまりにも、纏うオーラが暗すぎたのだ。

 

 **********

 

 どうしよう、全く誰も近寄ってこない。

 学園生活一日目、自分だけが誰にも近寄られない。むしろ、生徒たちに避けられているような気がする。

 そう、俺だけなのだ。

 チェシャとラビも同じクラスになったのだが、早くもクラスメイトにたかられている。

 二人とも、見た目はいいからな。俺とは大違い。

 もういっそ、例の公式黒歴史こと女体化薬でも買ってこようかな(←おいそれはまずいやめろ)

 作者に注釈を入れられたか。そこまでしてあそこのエピソードをなかったことにしたいんならいっそ消しちまえよ。

(ちなみに、消さないでおきますです)

 ……はっ、危ない。ちょっと飛んでた。

 某司令官がよくやってそうな、机に両肘をついて手を組んだポーズがいけないのかな。

 それとも黒髪があやしいかなぁ。

 もしかして、目つきが悪いせいで、睨んでると思われてる?

 ……実際、無意識下ではわかってたのかもしれない。それらの複合要因であることは。

 い、いいんだ……。これで……いいんだ……。

 それはそうと、ノアが心配だ。

 ノアは半魔人ハーフデビル、つまり、魔族と人間のハーフだ。

 魔族は基本的に人間とは敵対関係にあり、相互に差別しあっている。

 その二種族のハーフともなれば……。

 もしかしたら、いじめられているかもしれない。

 何かあればリリスが守るだろうけど……。

 ……まあ、心配してもしょうがない。

 俺は一人で過ごすとするか。

 

 なお、その日は本当に誰にも話しかけられなかった。

 

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