第107話 助けられてから。

 

「まさか、お前ら、あのときの!?」

 と言う、通りすがりの最強女騎士イオタ。

 それも当然だろう。面識のある人間が短期間で変わり果てた姿になっていれば。


 いま、騎士団の詰所(と言うか、王国騎士団本部)に来ている。事情聴取である。

 あとついでに服も貸してもらった。着ていた男物の服がぶかぶかになったからな。

 そして、冗談交じりで「俺、男だよ?」とか言ってスカートの端をつまんでみたら、何人か鼻血を出して倒れていた。

 あと、「か゛わ゛い゛い゛な゛あ゛」とか言われた。

 マジか……いや、ありえるか。

 ゴスロリ服の女が俺たちのほうを見る。妙な寒気を感じた。

 だが、それに気を留めている精神的余裕はなかった。


「お前、薬で女にさせられたあとにゴリラのような女に襲われたって言ったよな」

「はい」

 そして、事情聴取中の一コマである。

「やっぱりか……」

「え?」

 やっぱり? まさか、よくあること、とかじゃねーよな。性転換なんてリアルで起こるようなことじゃないし――。

「いや、ここ最近わりとそういう事件が起こっているんだ」

 ズコーっ。起こってるんかい!

 俺は高○留○子先生のキャラクターのごとく、みごとにずっこけた。

 ちなみに、ら○ま2分の1は名作だぜ……というステマはさておいて。

「どういうことだ!?」

「いったとおりさ。ここ最近、薬で男が女に変えられた上で襲われるといった事件が多い」

「ほ、本当かよ……」

「本当だ。わたしが嘘をつくような女に見えるか?」

「見えませんよっ♪」

「……いま、“せっかく同姓になったからこの際ちょっと媚び売ってもダイジョブだよね☆”、とかいうオーラを感じたのだが」

「いえそんなことはまったく」

 とはいえ、イオタさんが嘘をつくような人間かというと断然ノーであるということは本当のことだ。ゴスロリギャルのタウならともかく。

「話を戻すぞ。聞くところによると、彼らはさらわれかけたらしい。騎士の中にも実際にさらわれかけたものや、相棒が目の前でさらわれてしまったものもいるという」

「へえ……。大変ですね」

「他人事ではないだろうが」

「ぐっ、たしかに」

 俺もその襲われかけた人のうちの一人である。

「いま、騎士の一人が追尾魔法トレーサーで奴らの隠れ家を探し出しているはずだが……」

 すると、扉が勢いよく開いた。そこから入ってきた騎士の一人とみられる男がイオタに早口で伝える。

「大変です! 失神しました!」

「誰が!?」

「ゼータ先輩です!」

「あの野郎!」

 えっ? えっ??

 俺は戸惑った。

 間髪容れずに、また扉が音を立てる。

 入ってきたのは、目つきの悪いだけのモブ……にしか見えない男だった。

「イオタ、みつけたっすよ。奴らのアジト」

「おお、でかしたぞ、ゼータ!」

 彼が、いま失神していたというゼータさんか。口ぶりから察するに、彼が追尾魔法を使ってた騎士か。

 ……あれ? さっき失神したとか言ってなかったか?

「で、どこにあった!?」

 イオタが聞くと、ゼータは答えた。

「あ~、南地域、外観は一般の建物だったっす。内部はまるで教会のようでしたね」

「おお。では、どういうところだった!? 雰囲気は!?」

 そういうところまでみられるのか。すごいな、追尾魔法。

 だが、ゼータが答えた内容は、ある意味で想像を絶するものだった。


「みんな貧乳だったっす」


「……いまは、そういうことを聞いているんじゃないんだぞ?」

 たしかにだ。みんな貧乳だからなんだというのだろうか。

「巨乳滅ぶべき、なんてことを言ってましたね。あ、ついでに置いてあった女神像も胸がまな板でした」

『どうでもいいわ!』

 俺とイオタさんのツッコミがハモった。

「あ、そういえば、そこにいるかわいい女の子って誰ですか?」

 ゼータが俺に注目して来た。

 俺は挨拶する。

「すみません、お借りしています」

「ぐはっ!」

 お辞儀をしただけで鼻血を吹いたぞ!? どういうことだ!?

「やばっ! この娘かわいいっ!」

 ああ。やっぱりそう言うことね。

「でも、俺、男ですよ?」

「俺っ娘かよ。マジか萌える…………え?」

 しめしめ。俺が男(ただし今は女になっているが)だと知って落胆したか。そのまま俺への関心を失うがいい――。

「と、いうことは……、男の娘か!」

 ちょっと待て、なんでむしろ嬉しそうにしている。あと、男の娘ではないぞ?

「ついてるのか?」

(今は)ついてないよ。何がとは言わないけど。

「ふふふふふ……」

 なんだか、そこはかとなく、しかしものすごくいやな予感がする。

「ふはははははっ!」

 うわ、なんか笑い出した。怖い。

「かわいい男の娘だあぁぁぁ! ヤりたい!」

 な、何をだ。

「この子を心の底からのメスにしてやりてえぇぇぇ! 俺のチ××をこの娘の○○ルにブっこみてェェェェ!」

 この人、まさか、ホモ!?

 ……だが。今は、今だけは、ホモには負けない。

「いや、俺、今は女ですよ?」

 どうだ! ホモなら女だとわかったとたんに興味を失うはず――

「イヤッフォォォォォォォ! TS女子じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」

 めちゃくちゃ喜んでる――!

 そうだ、この人、まさか……ッ!

「よっしゃ! そうと決まれば早速この子に女の子のABCからXYZまでぜ~んぶを教え込まないとね~。グヘヘヘヘへ。正直かわいければ男でも女でもイけるしイかせるしもうそんなのたまらねえわ!」

 バ、バ、バイだ。

「おっと、何いってるのか自分でもよくわからんがもうそんなことはどうだっていい!」

 ほもなーらば どーれーほど よーかったでーしょおー。いや、ホモもいやだけど。

「と、いうことで! さ~っそくはじめましょおね~! もっこりぃぃぃぃぃ!」

 や゛め゛て゛く゛れ゛え゛え゛え゛

 往年の某人気アニメの変態主人公キャラを彷彿とさせるような動きで襲いかかるゼータ。ただし似ているのは動きだけで、一部の言動などは似ても似つかない。

 俺は、飛びかかる変態もっこりに、あらん限りの悲鳴を上げた。

「やめんかっ!」

 直後にイオタが100tハンマー(笑)でゼータの頭を殴ってどうにかしたので、俺の貞操は守られた。

 童貞の前に処女を失うところだった、という、男としては珍しい経験である。

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