第106話 女の子になっちゃった!?

 

 ここは魔道王国アレスの王都。狂気ひしめく混沌の町である――。

 本編最新部分から時をさかのぼることおよそ2週間。純也たちが目覚めてからおよそ一週間。

 彼女らは、動き出していた――。


**********


「ふう……。ラビ、ここらで休憩しようぜ……」

「ですね。買出しも楽じゃありませんね……」

 いま、俺、岩谷純也と友人のラビは買い物に行かされている。

 理由は簡単。俺たちが男だから、である。なんて理不尽な。

 まあ、うちのパーティーは少し女が多めだからな。それでも普通の異世界転生者よりかはぜんぜんましだろうが。

 本当はもう何人かいるはずなのだが……。

「カイさんは会議があるからしょうがないとして、何でユウは来ないんでしょうか……」

「さあ。あいつ、ここ最近精神が不安定みたいだし、そっとしておいたほうがいいんじゃない?」

 そうなのだ。

 ユウは数日前からどんどんおかしくなっていた。

 支離滅裂な思考・発言が目立つようになり、ひどいときには仲間を殺そうとする。昨日も殴りあいの喧嘩をした。死ぬかと思った。ちゃんと回復してくれるあたり、理性はあるはずなのだが。

 本編でまったく描写がなかったのもこれが原因だ……というのは作者の言い訳である。

 それはともかく。

「じゃあ、そろそろ行こうぜ」

「はい。……荷物重いです」

「仕方ねえよ。男に任せた理由がそれなんだから……よっ」

 台車でも持ってくればよかったなと少しだけ後悔しつつ立ち上がる。

 すると。

「お、こんなところに男が!」

「ウホッ、イイオトコ」

 謎の女が立ちふさがった。

 天パでパツキンガングロのナウい(?)ギャルと……女物の服を着たゴリラのような何か。二人はビンに入った怪しい錠剤を持っている。

「おい、そこのおにーさん方。ちょっとこの薬を飲んでくださらないかい?」

「すみません、断ります」

 ギャルに言われる。

 俺が断ると。

「そういわずに~」

「やめてください警察呼びますよ」

 そのギャルは腕を絡めて来た。

 対する俺は無表情無感情棒読みである。実のところ軽く怒っている。

「タダデスヨ」

「信用できません!」

 ゴリラ女に絡まれたラビも抵抗している。

「でも、飲んでくれたらイイコトしてあげるよ?」

 その誘いには乗らぬ。なぜなら、そのギャル女は両方の胸が平坦だからだ。顔もそんなにタイプじゃない。よってまったくその気にならない。同じ貧乳ならアリスちゃんのほうがよっぽどましだ。いや、アリスちゃんはむしろ至高の極みなので比べ物にはならないか。

 そろそろ無理やり振り切って走って逃げようと思った。

「おい、逃げるぞっ!」

「そうしましょうっ!」

 だが。

『えいっ』

 しゃべるときに、女がビンから取り出したものを口に放り込まれてしまった。

 すぐに吐き出せばよかったはずだが、俺たちは条件反射で飲み込んでしまった。


 吐き気がする。

 視界が真っ白に染まって……。


 数秒後にはすっかり元に戻っていた。

 だが、心なしか視点が少し下がったような気がする。服も大きくなっているような……。

 あと、気のせいだろうか、胸に多少の重力を感じる。

「なんだ……。いままで仕掛けた奴のなかで……一番……」

 目の前の女が驚いたように言う。

 俺は声を出す。

「おい、どういうことなんだ!」

 …………これ、ほんとうに自分の声なのか?

 聞こえた声は、明らかに別人の声だ。と言うか、女の子の声だ。……それも、「鈴の鳴るような」と形容される、可愛らしい声。

「ラビ! 大丈夫……か……」

 俺は絶句した。

 そこには、白髪美少女がいたからだ。

 でも、彼女が着ている服は明らかに、ラビのものだった。

 俺は悟った。

 と、同時に、自身の異変の辻褄が会う。いや、認めたくはない、だが……。

 目の前の女が手鏡を向けてくる。

 そこに映る顔は、余りに衝撃的であった。


 黒髪をショートボブにした美少女が、そこにはいた。


 彼女は、驚いた顔をしてこちらを見返している。

「どういう、ことなんだ……」

 鏡に映る彼女は、俺。

 念のため、服の上からからだを触って見る。

 胸には、やわらかい二つの物体がくっついていた。

 代わりに、股間についていたはずの、いままで16年間を共にした相棒が姿を消していた。

 もう、認めざるを得ないだろう。


 そう、俺たちは女体化してしまったのだ……!


 うん、信じられない。

「……なんだよ……あたしよりも……と言うか……たいていの女よりも……」

「……マジか……俺……」

 俺の声と、俺に錠剤を飲ませたギャル女の声が重なった。

『ものすごくかわいいじゃん……!』

 そうなのだ。見た目がとんでもなく愛らしいのだ。

 正直、これが自分でなかったら惚れていたかも知れないってレベルでかわいい。いや、もうすでにこの時点でちょっと自分に惚れてる。

 主人公補正なら元の姿にも適用してほしかった。


 一瞬忘れそうになったが、俺たちは買出しから帰っている最中だった。

「じゃあ、帰ろうぜ、ラビ」

「帰ろうぜ、じゃないですよ! 性転換しちゃったのに……」

 ま、まあ、そういう漫画ならいくつか見たことあったし……。異世界に来てから自分の中の常識はあまり信じてないし……。

「ぶっちゃけそういうことも普通にあっておかしくないとか思ってた」

 ラビ(銀髪美少女)は無言で頭を抱えていた。

「まあ、お前もかわいいぜ?」

 そう言うと、彼――いまは彼女か――は顔を赤くしながらこちらを見た。

「ほ、本当ですか……? ぼく……かわいい?」

「ああ。かわいい」

 俺とラビは見つめあった――。

「おい、ホモホモしくレズレズしてるとこ悪いが、とりあえず捕まってもらうぜ」

 その言葉を聞いた瞬間、俺たちは後ろに下がり、目の前にいるギャル女を睨みつける――が。

「ツカマエタ」

 そこには、ゴリラ女がいた。さっきラビと話していた奴だ。

 服のおかげでかろうじて女だとわかるような化け物のごとき風貌の彼女は、ラビの首をつかんだ。

「グフフフフ……モウ、ハナサナイ……」

「や、やめてください!」

 ラビがクンカクンカされたりハスハスされたりしてる。……うわぁ、あのゴリラ気持ちわりぃ……。

「グフェヘヘヘ……ツギハ……」

 ゴリラ女がこちらを見つめだした。そして――。


「――オマエダ!」


 処刑宣言。

 それにも等しいような一言と共に、ラビを抱えたまま俺に向かってくるゴリラ女。

 その荒ぶる物理的女子力は地面を揺らし、凶暴な風を起こす。

 俺は向かってくるその化け物に生理的嫌悪感を抱いた。

 心の底から湧き上がってくるような気持ち悪さに、俺は思わず悲鳴を上げた!


「キャ――――――――――ッッ!!!!」


 しかし、悲鳴ごときで止まるゴリラではなかった。

 無慈悲なクレイジーサイコレズゴリラは逃げようと抗う俺を無理やり捕まえて、そのまま体臭を嗅ぎだす。

「グフフフフフェヘヘヘヘヘ…………ハスハスッ! クンカクンカッ!」

「やめろ! そんなに嗅ぐなぁぁ! いや! ……ひぎぃ! みゃっ! き、気持ち悪いよぅ……やっ! ひゃっ! そこは……ら、らっ、らめぇぇぇぇぇぇ!」

 とても自分で発したとは思えない。

 だが、そこに人が現れる。

「いまの悲鳴はなんだ!?」

 女騎士だ。

 彼女は襲われている俺を見て叫んだ。

「わたしは王国騎士団二十四騎士が一人、イオタだ! そこの二人を、公序良俗に則り署に連行する!」

 俺たちを襲った女は、彼女を見るや否や

「まずい! 逃げるぞ!」

「ウホッ!」

 と言って俺たちをそっと置きつつ逃げていった。

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