第108話 TSしたら可愛くなったのでコスプレパーティーをしてみた件。

 

 さて。

『ただいま~』

「だ、誰!?」

 屋敷に帰るとアリスに出迎えてもらった……が、案の定そういうリアクションである。


 その後、付き添いで来たイオタの説明で事なきを得た。

「……ほんとに、ジュンヤくん……なの?」

「ああ、残念ながら事実だ。俺はこんな姿になってしまったが、正真正銘、純也だ。現実にこんなことが起こりえるとは想像してなかったが」

 みんな、いまだに信じられないようだが。

 ――なお、アリスの本心。

(やだ、いつもかっこいいと思って見てたけど、女の子になるとかわいい……! やばい! わたし、女の子にコーフンしちゃってる……!)

 ――なにかに目覚めかけていたことなど、当然、他人が知る由もない。

「じゃあ、飯にするか!」

 今日のご飯は、俺が作ったチャーハンだ。

 この世界に来てからひそかに磨いていた料理の腕が力を振るった。

「お待たせ~。俺特製チャーハンで~す!」

 みんなは一口食べると、口々に言った。

「美味い!」

「なにこれ、美味しい!」

 どうやら喜んでもらえたようだ。

 この様子を上手く描けない作者の技量を恨みたいくらいに嬉しかった。


**********


 さて。

「女になってやることは一つ。わかるな? ラビ」

「はい。やっぱりあれですよね。女の子でないと楽しめない、お楽しみ……!」

 そう……!


『コスプレだ!』


 ということで、いま俺たちはチェシャの衣装を借りて、コスプレを楽しんでいる。

「まずは定番のメイド服ッ!」

「おお、これはいいですね! 清楚でつややかな黒髪にメイド服はやはり似合います!」

「だろ? そう言うお前さんは銀髪ミニスカナースですかい! かわいいよ~!」

「やった! 我ながらこのむっちり太ももにミニスカートは合うと思ってたんです!」

「わかるぜ、その気持ち!」

「そのまま抱き合って撮影しましょう!」

「いいな!」

 自分でもなに言ってるかわからなくなってきたが、これは後で冷静になったらものすごい黒歴史になるやつである。

 抱き合って、カメラのようなものをつけた棒を持ち、ボタンを押す。

 黒髪美少女メイドと銀髪美少女ナースが抱き合ってる百合写真の完成である。

「やったやった百合だわーい」

「じゃあ、次はこれとかどうだ?」

「水着ですか!? それも、こんなに薄くて面積も小さい……いいですねぇ!」

「よし、着替えよう……あ」

 メイド服を脱ごうとした俺の視線の先には、赤に近いピンク髪の少女が立っていた。しかも、暗黒ダークネス微笑スマイリングというべき表情を浮かべて。

「二人とも、なにしてるの~? あたしのとっておきのコスプレ衣装を着て……」

『あっ……それは……その……』

 急に冷静になり、言い訳を考える。

 今までなにやってたんだ、俺たち。というか、スカートっていまさらだけどちょっと恥ずかしいな……。

「ふ~ん、フリフリのミニスカートでちょっと興奮してるんだ~、ジュンヤちゃん?」

 俺は顔を真っ赤に染め上げた。

「ラビちゃん、せっかくの白衣からそのこぼれんばかりの大きなおっぱいが見えているわよ~?」

 ラビはあわてて胸を隠す。

「い、いつから見てたんだ?」

「決まってるでしょ~? ……最初からよ」

「さ、最初って、具体的に……」

「お着替えからよ~」

『ヒエッ』

 彼女は珍しく満面の笑みを浮かべながら答えていく。俺たちにとっては恐怖以外のなにものでもなかった。

「あと、余談だけど~、コスプレは別に女の子の専売特許ってわけじゃないから~」

「え?」

「男性コスプレイヤーだって存在するし~。もっといっちゃえば、女装だってOKだし~」

「なにこの人こわいです」

「あ、女装コスプレした男の子がオタクに逆レ……」

『やめてください、なんでもしますから!』

「いまなんでもするって……」

『なんでもするとは言ってないです、気のせいです』

「あら~、そう」

 どうにかごまかしたが、もしも「なんでもする」と言ったら男に戻ったとき何を命令されるか。想像しただけでも背筋がぞっとする。

「まあいいよ~。あたしと違ってかわいいし」

「なに言ってるんです? チェシャも十分かわいいじゃないですか」

 ラビが言うと、チェシャは顔を赤らめて。

「そ、そうかな~……」

 とっても嬉しそうだ。


 俺は隙を突いて、こっそり出ていった。

 自分の部屋に戻り、今度こそメイド服を脱いで自分の寝巻きに着替え、ベッドに入る。

「ふう、今日はいろんなことが一気に起こって大変だったぜ……」

 昼間に出かけたらいきなり女に襲われて女に変身してしまったことに始まり、警察……じゃなかった、騎士に捕まるわ、帰ったら帰ったで、コスプレを楽しんでたことがばれるわ……。

 なお、最後の奴は明らかに自業自得だというツッコミは承ります。

 疲れた……。今日は寝よう。明日の事は明日考えよう……。

 そうして目をつぶった――そのときである。ドアの開く音が聞こえたのは。

 足音を立てないように近づく小さな気配。しかし、その気配は殺し切れていない。

 息が聞こえる。床板が軋む音。わずかなその音を聞き逃すほど、警戒心はゆるくない。

 いきなり大きく、ぎしっ、と木製のものが軋むような音。わずかに揺れた。ベッドに侵入して来たようだ。

 急に恐ろしくなり、薄目を開け確認する。

 そこには、白い髪の、女児用の寝巻きを着た小さな女装少年……少女がいた。


 ノアである。

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