第102話 覚醒――新たなる目覚め


(ここは……、どこだ……?)

 俺が目を覚ますと、そこは白い部屋だった。

「あ、あ~」

 しゃべれる。

 ためしに頬をつねってみる。いたいいたい。

 よし、今度はちゃんと生きているようだ。


 って! なんで俺は生きているんだ!?

 

 あんな目(前々回参照)にあったのに! 奇跡的に一命とりとめてたのか!

 主人公補正ってすげーな。

 

 そんなこんなで、話を戻そう。

「ここはどこだ?」

 口に出してなにが変わるわけでもないが、とりあえず口に出した。

 よくよく考えたら、前にもこの部屋を使ったことがあったような気がする。いつかの病室だ。

 ベッドがあって、窓があって、机がある。非常にシンプルな部屋だ。

 立ち上がり、窓の外を見てみると、花壇の前で誰かが話していた。

 ローブを羽織った、見るからに怪しい人影。少しだけ漏れてくる声はどこかで聞いたことがあるような気がする。

 そこで、聞き耳を立てて見ることにした。

「……失敗したのか」

「まーね。思った以上に手ごわくてさ。三段構えの作戦は全部破られちゃったよ」

「いきなり暗礁に乗り上げてしまったわけだな。われらが魔王様復活計画は」

 ま、魔王復活計画!? ということは、彼らは悪魔……いや、その魔王は今もぴんぴんしているらしいし……。

「僕たち魔族が人と共存するなんてアホらしいもんね」

 魔族……。というか、魔族の王も魔王って言うんだね。紛らわしいな。

 でも……ん……? 魔族でこの声は……まさか……。

「ヴェルオリよ、それだから現魔王を暗殺して我らが魔王――ドナルド様を復活させようとしているのだろう」

 やっぱり! この前俺と話したヤバい魔族だ!

 なんでこんなところにいるんだ!? そして何故こんなところですっごい不穏な作戦会議してるの!?

 彼らはまだ話を続けていたが……。

「すみません、失礼しまーす……あ、起きていたのですね」

「ア、ハイ」

 看護士らしき人が部屋に入ってきた。なるべく自然な動きを意識してカーテンを閉める。面倒事に巻き込まれるのはもうごめんだ。

 

**********

 

 純也がカーテンを閉じたあと。そもそも誰かに会話を盗み聞きされていたとは思わなかった彼らは、会話を続けていた。

「5年前はあんなに闘気にあふれてた魔族軍も今ではただの腑抜け集団だもんね」

「ああ、そうだな。あのクソ勇者にはなんとしてでも復讐しなければなるまい」

「その前に封印したはずの四大精霊も復活しているようだったし」

「そうか、それはしらなかっ――ウェッホン」

「知らなかったんすね、ヴァヴァコンガーさん」

 咳払いをする、尊大な態度の男がこのヴァヴァコンガーだ。

 彼はヴェルオリのツッコミを無視して続けた。

「四大精霊がよみがえったとは、一体?」

「あ、やっぱ知らなかったんですねー」

「いいから教えろ」

「……まあ、教えよう」

 ヴェルオリは急に真剣な顔をして、話し出した。

「四大精霊のシルフが人間の娘……娘? ……いや、性別不詳の子供に憑依して、強力な精霊魔法を行使。うちらの派遣した巨人型魔道兵器・改がやられた」

「なんだと!? あれを……生身で……。うわさには聞いていたが、やはり四大精霊とは……」

「ついでに。そいつ、ほかの作戦をことごとく破壊した集団の一員なんすよ」

「なっ……!? 彼らは、まさか……」

「あ、勇者一行なわけはないですよ。別人でしたし、第一、彼らはドナルド様と相討ちで死んだじゃないっすか」

「そ、そうか……。たった5年で転生するわけないからな……」

 しかし……と、ヴァヴァコンガーは考え込んだ。

(彼らは、後に我らの障害になるやも知れぬ。聞けば聞くほど、あの馬鹿みたいな英雄譚を思い出してしまう……)

「そうだね。怪しい芽は早めに摘んでおくべきだもの」

「ヴェルオリよ。むやみに他人の心を読むでないわ」

 言われた本人は華麗にスルー。

 そんな時だ。謎の男が現れたのは。


「ふむ、シルフか」


「何奴!」

 その男は余りに胡散臭くて、ついでに頭には何もなかった。ただひとつ、大きな一本の角を除いて。

 そして、禍々しい雰囲気を放っていた。

(彼は、もしかして……いや、ありえぬだろうが……)

 ヴァヴァコンガーは彼の正体を考察する――いや、薄々気がついてそれを心の中で否定するが、男の次の言葉で否定しようとしたことが真実だったことを知った。


「わたしは、上級悪魔のハーゲンといいます。以後、お見知りおきを」


 上級悪魔。それは、強大な存在。害悪の中の害悪、ゆえに、魔族たちは恐れ、畏れ、また、狂喜するのだ。

 だが、今はそうもいかない。冷静に話さなければいけない。

「は、ハーゲン様……ですか。よろしくお願いします」

「ああ。しかし、先ほど、四大精霊の話が聞こえたのだが」

「その話でございますね! 実はかくかくしかじかで……」

 ヴァヴァコンガーはそのことに関する自分の知りえる情報を洗いざらい話した。


「ほう、シルフが復活したのか」

「その様なのです」

「彼らの仲間はどのような様子だった」

「はっ。シルフの憑依者が銀色の髪を持つ半魔人で……」

「はい、新聞に掲載されていたリアルカイガっす」

 なお、リアルカイガとは現代語で言う写真である。

 その写真は、純也たちがイオタと戦っているときの記録である。

「……ほう」

 ハーゲンは頷いた。

(なるほど。あの弱いくせに主人公面していた雑魚とリリス様が写っている。このものたちが彼らを狙うならば……)

「あんたも奴らにやられたんすか。互いに苦労するっすね」

「……何も言っていないはずだが?」

「ああ~、すみませんすみませんこいつ人の心が読めるからっててめーまた余計なことしやがったなゴラーザッケンナコラースッゾオラー」

「では、協力するとしよう」

「すみませんすみません協力ですか協力――え?」

 ヴァヴァコンガーは唖然とした表情でハーゲンを見る。

「だから、協力しようといっておるのだ。どうだ、この誘いは受けるか?」

 ハーゲンが手を差し出す。

 これは、悪魔の契約だ。

 だが、一介の魔族であるヴァヴァコンガーにそれを跳ね除けると言う選択肢があるわけなかった。

「はい、わかりました」

 ヴァヴァコンガーは差し出された手を取った。


 悪魔と魔族、二人の魔王の配下は手を組んだ。神託は成されてしまった。

 このままでは、世界は滅ぼされてしまう――。

 

**********

 

 俺はそんなことも露知らず、ある病室に向かっていた。

 まだ時々足がふらつき、正直走ることなどできない状態だが、生きているだけまだぜんぜんましだ。自分の足で立って歩いている時点で「よかった!」と思えてくる。部位欠損しないで奇跡的生還を果たせてものすごくうれしい。

 あんな事が起こって生きていられた時点で奇跡としか言いようがない……と後から医者に言われた。数分前の出来事である。

 おかげでこれまで使ってきたナイトソードは壊れてしまったが、つけていた軽装鎧も、いろいろなものが入っていたポーチも――あと、仲間も。何も失わずに生きてこれたのだ。

 まあ、自分自身は負けてたんだけど。

 俺は声を出さずに、そっと笑った。

 

 さて、俺はノアの病室に向かっていた。

 聞いた話によると、彼女が俺を含めた仲間たち全員の身体を運んできたという。

 どういうことなのか聞きに、こうして彼女の病室に向かっているのだ。

 あんな小さな少女……もとい男の子っぽいだけの幼女に俺たち全員を運ぶだけの力があるわけない。全員どころか俺を運ぶだけの筋力もないだろう。

 

 俺はさっきの看護士に聞いた、ノアの病室の引き戸を開けた。なるべく何もない風を装いながら。

「お~い、ノア、元気……か……」

 そして、絶句した。

 

 そこでは、薄緑色の髪の少女がおしゃれを楽しんでいた。

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