第103話 事情――精霊少女は語った
ノアという少女は、おしゃれというものに興味を持っていない。
いや、おしゃれしているところを見た事がないだけなのかもしれない。
少なくとも、そう思っていた。
だが、今目の前にいるこの少女は、全く違った。
フリルいっぱいの服を着て、リボンなんかで髪をくくり……。
今、目の前にいる少女は、完全に“女の子”だった。
ど、どういうことだ!?
髪の毛の色からする行動、纏う雰囲気まで、何もかもがノアとは違う! ここにいるのはノア……とリリスだけのはずでリリスはこんなに髪の毛が短くないから絶対にノアのはずなんだけど!
そこで、ノア(?)が俺に気付いて口を開く。
「あ、いらっしゃい。ジュンヤさん」
これでようやくわかった。
口調まで違う、さらに俺の呼び方までぜんぜん違う。心なしか、声まで違うように思える。
ここまで性格が変わるなんてことは……。
「……お前は、誰だ?」
彼女は、別人だ。
「正真正銘、私はノアよ?」
「いや、違う。本人だったら、むしろ不自然だぜ。そんな風にノアが普通の女の子のように振舞っているのは」
俺を「お兄ちゃん」として慕ってきたノアはどこに行ったんだ……ッ。
「……私は、ノアよ」
「うそだ――」
「――身体は、正真正銘、あの子のもの」
これがノアの身体であっているんだな。ノアの身体は無事なようだ。だが……!
「じゃあ、魂はどこにやった」
ノアの心は、無事なのだろうか。あの魂は、生きているのだろうか!?
「私の中で、眠っているわ。心配しないで。ただ、いまは眠っているだけだから」
……それを聞いて、俺は一旦落ち着いた。
生きていたのなら、よかった。
それから数十分後。
「そんなこんなでカイとファイ以外全員が起きたところで、第25回・パーティー会議を開始しよう」
リリスの司会で始まった、パーティー会議という謎会議。第一回を旅に出る前のやつと考えてもあとの23回はやった覚えがない。どこ行った。
ちなみに、ファイさんとカイさんも起きているらしいが、呼ばなかったらしい。
「いつの間に全員起きていたんだ?」
そう聞くと、みんなが口々に答えた。
「三日ぐらい前ですかね……」
「五日前~」
「私は、一週間くらい前かな」
「みんな早いんだね!」
結局一番寝ていたのは俺であった。
「そういえば、ノアちゃん。君って一体何なの?」
アリスが聞く。
「あ、そういえばあなたには見られてたんだよね。じゃあ、私のことを教えてあげる!」
ノア(仮)はアニメやマンガのヒロインのような感じで言った。俺たちはそれを冷えた目で見た。
「み、みんな引かないで~」
ちょっとかわいいと思ってしまった。どうやっても(元の顔がショタっぽいだけの)美少女だから仕方ないのだが。
さて。このノア(のようなもの)の話を要約した。
彼女の正体は、風の精霊シルフで、ノアの「みんなを助けたい」という思いに答えて彼女と契約した、とのこと。
ノア(もどき)――もとい、シルフはノアに宿る才能に惹かれた、らしい。
で、風魔法の力で俺たちの身体を運んできて、およそ九日。そして今に至る、というわけだ。
「シルフ……。四大精霊の一体ですか……」
「その四大精霊って何だ?」
俺の場合、まずそこからである。
「四大精霊は精霊の中でも、強力な四体の精霊のことですよ」
「私のほかに、水の精霊“ウンディーネ”、土精霊の“ノーム”、さらにクソッタレ脳筋火精霊の“サラマンダー”がいるわよ」
「シルフ、補足ありがとう。そしてサラマンダーだけすっごい言われようだな」
彼女はその精霊に何の恨みがあるのやら。
さて。
「じゃあ、次はどこに行こうか」
リリスが言った。
そういえば、いま旅の途中だったな。
しばらく忘れていたが、リリスはいま強い悪魔に追われていて、それから逃げるために旅をしているのだった。その中でノアを仲間にしたり王都でいろいろあったりしたが、それでもまだまだ終わりなき旅の中間地点に過ぎないのだ。
さて、次はどこに行こうか――と思ったとき、ユウがこう言う。
「そういえば、学校行くとか言ってなかったっけ?」
「ああ、その話ならたぶん使者の男が死んだことによりなかったことになっているぞ。あくまで希望的観測だが」
いやそうはならんやろ。そう思ったそのとき。
ドアがノックされる。
「はーい」
俺が出ると、ドアの前には、モブ顔の男が立っていた。
「どうも、アレス王国国王の使いでございます。冒険者パーティーのワンダーランド御一行でよろしいでしょうか?」
「あ、ハイ」
リリスに目配せ。
(とりあえずカイとファイを呼べ)と言われたような気がしたため、(じゃあとりあえずもてなしておいてくれ)と心の中で伝える。伝わっているかどうかは知らないが。
数分後。
カイとファイをつれてきたついでにティーセットを持ってきて、お茶を入れた。
「粗茶ですが」
「ありがとうございます」
お礼を言われた。この人はまだましかもしれない。
「で、何のようですか?」
ファイが問うと、モブ顔の使者は答えた。
「国王があなたたちのことを今一度お目にかかりたいとおっしゃりましたのでお呼びいたしました次第です」
どういうことだろう。
いや、言葉自体は理解できるのだ。できていない人もいるが。今度敬語の授業でもしてあげようかな。それはともかく。
どうして俺たちを呼んだのだろうか。
……もしかしたら、俺たちが寝込む前にあった例の戦闘のことかな。
そうに違いないだろうな。
そんなこんなで、再び王宮に行くことになった。
**********
そんなこんなで王宮に行く準備をするために部屋に向かおうとした、そのとき。
「うっ……」
シルフがいきなり呻き出した。
「どうしたんだ!?」
「あの子が起きたみたい……。後は……よろしく……」
「えっ、ちょっまっ」
彼女はそのまま倒れてしまったのだった。
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