第97話 真実を告げるとき
「急ですまないが……実は、俺、異世界転生者なんだ」
そう言うと、仲間たちの顔が一斉に凍りついた。
えっ。なにその反応。なになにどーゆーこと?
俺は戸惑った。
一体みんなはなにを考えてるんだ? カイさんやファイさんはともかく、もう伝えてあるはずのアリスまで驚いてる。どういうことなんだ……?
――ちなみに、その仲間たちはこう思っていたという。
ファイ (……え?(思考停止))
カイ (ち、ちょっとタンマ。理解が追いつかんわ)
アリス (ちょっ!? 今ここで言う!?)
ラビ (……昨夜、アリスから聞いたので知っていましたけど……)
チェシャ(こりゃいいことを聞いたぜ……ふふふふふ)
リリス (やはりか。まあ、私は最初から察してはいたがな)
ノア (お兄ちゃんが……。す、すごい……)
ユウ (…………ここで言うんだ。ふ~ん……)
――なお、その心が本人に伝わることはなかった。
ん? 今、ナレーションが何か言ったようだな。知らなくてもいいようなことだったらしいが。
あっ、よく見るとチェシャは驚いているように見えて悪い顔をしているな。彼女の趣味たる腐った創作のネタにされそうで怖いな……。
はっ、それはともかく。
何とかしないと!
俺はあわてていた。全員のエクトプラズムが見えそうになるのを気のせいだと思いながら。
そのうち、近くの冒険者に見つかり、かくかくしかじかでどうにか仲間たちの意識を回復させ。
改めて。
「すまん。俺は異世界転生者だったんだ」
「……え?(思考停止中)」
「ファイさん!? 大丈夫っすか!?」
もう一度言い直していた。
一歩間違えばSAN値が減るのね。そうでなければ茫然自失的に口からエクトプラズムなんてありえなもの。
気をつけよう。
「なんで今まで黙っていたんだ?」
「……」
カイさんの質問に黙秘で返すが。
「黙秘権はないぞ?」
「えっ……。あっ、ハイ」
仕方がないから答えよう。
「実は……俺には……チート能力がないんです……」
「……ファァァァッ!?」
「ちょっ、カイさんっ!」
漫画みたいな目玉が飛び出る驚き方しないでくださいよ!
俺はツッコミを入れようとするのを抑えながら続けた。今は真面目な話をしているんだ。それゆえにツッコミを入れられない。今は笑わせてはいけない場面なんだよ……!
「……。それゆえに、転生者であることを知られると、とたんに失望されてしまう。それが怖かったんです。そもそも異世界転生の事実を知られても信じてもらえずに笑い話になりそうだったというのもありますが……」
「アイエエエエ!! ニホンジン! ニホンジンナンデ!?」
「ノアっ!?」
ノアは奥ゆかしくしめやかに失禁した! カワイイヤッ……ゲフンゲフン。
……
でも、まずいな。どんどん被害者が増えていってる。アリスには大丈夫だったが……。早く話を終わらせないと……。
急いで話を続ける。
「…………。自分一人だけ、マイナスの意味で特別だったので、それを知られたくなかった。だから、俺が異世界転生者だと言うことを教えなかったのです」
「うふぇふぇふぇふぇくぁwせdrftgy腐事故lp;@:」
「チェシャ――っ!?」
チェシャ! 白目剥いてにやけながらその緩み切った口から泡を垂れ流すとかやめて! ちょっと心臓に悪い! あと謎の当て字が出てきているのも怖いよ! なんだよ“腐事故”って!
やべえ……。自我を保っているのがあと……ユウ、アリス、ラビ、リリスの四人しかいないや。あとは変死……もとい、謎の力によりおかしくなっている。本当になんなんだ……。
「………………。じ、じゃあ、ほかに質問はあるかい?」
「は~イ」
「ラビ。なんか顔がおかしくなっているように見えるが、どうぞ」
「ばなな」
「ラビ――っ! 帰って来――いっ!」
あからさまに大丈夫じゃなくなってるし! デッサンが狂っているようにしか見えない顔で、白くて禿げた、いわゆる“あたまのわるいひと”みたいになっているんじゃねーよ! いつもと正反対過ぎて戸惑うどころじゃなく一周まわってこっちの頭までおかしくなるわ! あ、関係者にはご迷惑おかけします(元ネタ製作者さんはもちろんこの頭の悪い白ハゲの製作者さんにも。無許可ですみません! いつもいつも笑わせてもらってますっ! by作者)
すぅ……はぁ。ひとまず冷静になろう。
――なんだ? このカオスな状況。
もう説明するまでもないだろう。というか、余りにも収拾がつかなさ過ぎて、説明さえも出来ない。
「え?(思考停止)」「ヒョエェェェェェ!」「ニホンジンナンデ!?」「あzsxdcfvgbhんjmk、l。;・:¥」「ばなな」
どうだろう、このおかしい台詞たち。同じ空間で話されていることだとはとても思いたくない。
正気の沙汰じゃない。というか、狂気の沙汰である。狂気の沙汰ほど面白いとかいわれているらしいが、こちらから見ると……あれ、面白いかもな。
そして、誰も注目してない。まあ、ゲーセンと同じ位うるさい中じゃ、人が叫んだところでそんな騒ぎにはならないからな(※普通はなります)
とりあえず。
「ユウっ、サニティかけて! みんなに!」
「
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ』
「おいっ!」
ユウがショッキングウェイブなる魔法を放つと、真っ黒い波動が広がり、それに当たった、混沌の極みのような有様で叫んでいたみんなが、急に断末魔のごとき悲鳴を上げて倒れ伏した。
当然俺は注意しようとする。だが、ユウは完全無視。さらに、それどころか――
「
ユウはあからさまに危ない魔法を唱える。
「なにやってんだよっ!」
俺はつい叫んだ。しかし、彼はそれに律儀にも答えた。
「君が異世界人だって言う記憶を消しているんだよ」
「ハァ!? 一体何のために!?」
「こっちの人間にはある意味世界の真理みたいなこと、らしいからね」
なんのこっちゃ。わけがわからん。
「もっとわかりやすく説明してくれ」
「うむ、では、私が引き継ごう」
リリスが話す。
「つまり、本来は神と接するということは正気が削られることなのだ。むしろ、その存在の確認……いや、実在することを知っただけで発狂しかねないものなのだ」
リリスの話を要約する。
つまり、異世界転生者が“自分は異世界から来た”と話すと、こっちの人の正気度……つまりはSAN値が減少し、発狂、あるいはそれと似たような状況になる、ということだ。
同じく、神様の存在をべらべらしゃべってもいけない、らしい。
「と、そういうことだから、ユウの処置はいたって正常なのだ。あ、あと、お前のいままでの決断も正解だったぞ。確か、初手で異世界人であることをばらした結果、最期まで独りぼっちだったやつもいたらしいからな」
何だその重すぎるエピソードは……。ほとんど成り行きとはいえ、ばらさなくてよかった……。
ふと、気になったことがあったので聞いた。
「そういえば、アリスはどうして平気だったんだ?」
アリスも(俺の記憶が正しければ)生粋なこの世界の住人だったはずだ。
「はじめて聞いたときは平気じゃなかったよ。あの魔族の人の話が聞こえたとき、ちょっと血を吐いちゃった」
確かにぜんぜん平気じゃねーな!
「でも、ジュンヤくんのことを追いかけなきゃいけないから、気合と根性でどうにかしたよ」
すげーな!
なお、悪魔はある意味この世界の管理者的存在の仲間とも言えるため、その悪魔であるリリスは平気だったということらしい。
そうこうしているうちにユウの記憶改竄も終わったようだ。
「じゃあ……
そうすると、失神していた仲間たちが次々と目覚めていった。
「あれ? いま一体なにを……」
ラビがつぶやいた。それに、チェシャが答える。
「いきなり椅子が吹っ飛んでみんないっせいに気を失ったんだよ」
「ああ、そうでしたね。不思議ですが、よくあることですもんね」
いや、ねーだろ。突っ込んだら(さっき言われた禁則事項的な意味で)負けだろうから、黙っておく。
そうして、おれは真実を話すのをあきらめた。
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