第94話 名もなき詩


 あれから、およそ10日が経った。


**********


 今日も、無意味に惰眠をむさぼる。

 だが、落ち着かない。雨のせいか?

 ならば、町をぶらつこう。意味なんてないけれど。

 俺は、しとしとと降る雨に濡れながら、町を歩いた。


 ふらふらと。ただ、ふらふらと。

 何も考えないで、散歩。

 いつもやかましいこの町も今日は少しだけ静かだ。大通りを埋め尽くす人間も少ないような気がする。

 けれど、それでも押し流されるほどの人波は変わらない。

 まあ、意味など無いのだから、いいか。

 流され、潰され、歩いた。


 そのうち、いやな思い出がある場所へやってきた。


 あの広場だ。


 俺が、怪物を殺した、あの。


 足は止まった。

 いつの間にか人はいなくなっていた。

 俺が暴走した痕跡などもう残っていない。

 だけど、背筋がびりびりするようなあのときのような感覚が、残っていた。

 ただ、さー、さー、と、雨の降る音だけが響いていた。

 

 しばらくすると、人が現れた。

 いや、あれは、人か?

 とにかく、男が現れた。

 パーカーを着ていて、やせ細っていて、目が死んでいる彼は、まるで純粋な子供のような口調で話した。

「やあ。僕らに魅入られた少年君」

「……お前は何者だ」

「いきなりタメ語なんて悪い子だなぁ。まあいいか。自己紹介もしていなかったし」

 その男は、俺に向かって大げさな身振り手振りをつけて名乗った。

「我が名はヴェルオリ! ……ええと……」

「あ、名前わかったのでもういいっす」

「こいつっ! ……あっ、思い出した。魔王復活派の一員にして……」

「だから、もういいっす」

 なんか、某こ○すばの因子を感じ取った気がする。

 とりあえず、彼が変人で、人ならざるものであることはわかった。

「で、何の用だ」

「……まあいい。単刀直入に言おう。正直、僕を犯してほし……あ、違う」

「おい」

 次はホモかよ。本当にこの小説、変態が多くて困るわ……。


「こほん。改めて。キミには、この世界を壊す手伝いをしてほしいんだ」


 ……は?

「どういうことだ?」

 何を言っているんだ?

「うん。ちょっと説明不足だったかな」

「これがちょっとだったとしたら、ちょっとって何だっけ?」

 そんな俺のツッコミを華麗に無視して、彼は続けた。

「正直、こんな世界いやでしょ?」

「唐突だな」

「毎日殺して、奪って、奪ったもので暮らす、この世界。いやでしょ?」

「話を聞け」

「いやでしょ?」

「話し聞けやダロカッケカス」

「いやだよね。だから、壊そうよ」

 どちらも話を聞いていなかった。

「とりあえず、そう言うことだから、協力して?」

「……まあ、言っていることはわかった。ただ、それを俺に頼んだ理由はなんだ?」

「君はこの世界嫌いそうだな~って」

「何故、俺に? お前は何をたくらんでいるんだ」


「……キミ、異世界転生者でしょ」


「――――っ!?」

 その不意打ちに、俺は動揺した。

「わーい、図星だ図星」

「何故、わかった」

 隠していたはずなのに。

「わかるよ。その無駄などうでもいい知識量、謎の言い回し、あと、その黒い髪も。全部、異世界から来た人の特徴じゃないか」

 言われてみればそうだ。前二つは正直わからないが、黒髪は隠すべきだった。こっちの世界の人に黒髪は少なかったし。むしろそれで気がつかなかったことにびっくりだ。

「あと、さっきの挨拶に冷静に返せたのも大きいね」

 あっ。そういえば、さっきの挨拶。あのラノベのとある赤い目の種族特有の挨拶だ! 見覚えもあったし。確かに知らなければ返すどころか引いていただろうしね。

「まあ、最後に、人一人殺しただけで簡単に発狂したので確信したね」

 …………ん?


「あんな使い捨て魔道兵器の操縦者、殺したところで何にもならないじゃん。なのにそんなことで心を痛めるとか、殺しなれていない異世界転生者しかありえないって。まあ、あれは彼が異世界人だと証明するために出したから、任務は果たしたんだけど」


 ……そうか。そう言うことなんだな?


「簡単にお仲間もろとも洗脳に引っかかってくれたのも面白かったね。その作戦は失敗しちゃったけども。あ~、あれでもう少しエネルギーが生まれてくれればな~」


 ああ、そう言うことか。


「まあ、これで彼を引きずり込めれば最高なんだけど。そうすれば、この町は壊れてくれる」


 全ての元凶だったのか。黒幕は、こいつだったのか。


「あ、話を戻すけど――」


 笑いながら話すこいつに、殺意を沸かした。

 殺す。

 殺す

「なに、どしたの?」

 殺す

 殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロス殺セ

 

 ――――――――いや、駄目だ。

 

 前のようにはならない。

 思う壺になってたまるか。

 

「いや、なんでもない。続けろ」

「あっれれ~? 声がすっごい低くなってるよ? こっわ~い」

「いいから、続けろ」

「――やっぱキミは異世界の人間なんだね」

「それがどうした?」

 

「君の異能チートは、何?」

 

 ああ、やめてくれ……。それを聞かれることを一番恐れていたんだ。

「それがどんなものであれ、それを使えば、町を壊すことも、魔王様を復活させることも、容易くなる……!」

 俺にそんなものはないんだ。


「ほう、そんなものはない、か」


「ああ……――!?」

 こいつの返しに一瞬頷いて、驚愕した。

 なんで……喋っていないことまで……。

「動かすにもその対象のことを知らなきゃ意味ないじゃん。と、ゆーことで、心読みも持ってたのでした☆」

 なんということだ。

「ふ~ん。なるほど」

「何が、なるほどだ」

「つまり、君には利用価値がないということ」

 どういうことだ。

 心の底でわかってしまった。これから彼のする行動。

「ご名答❤」

 笑顔で、残酷に、告げた。

 

 処刑宣言。


「利用価値のない君には、死んでもらいましょー」

 子供のように。だからこその、残酷さ。狂気。

 やめて。

「あ~あ。君のあれを突っ込んでもらいたかったな~。ただ、君は包茎だし。ノンケっぽいし。まあ、関係はないけど。でも、処分はしなきゃ。その後で切り落として使っても、問題ないよね。ふふふ、これで人間のお○んぽコレクションが増えるぞ……!」

 いろいろとまずいから、やめて……!

「あっ、珍しく僕が攻めてもよかったかも。案外簡単に堕ちたかも。雌の快感を刻み込んであげてもよかったかな~」

 カンゼンアウトォォォォォォォォ! これじゃ運営さんに18禁扱いつうほうされる――! 一応15禁タグつけてるけど!

「とりあえず、殺すか」

 いきなり戻った。ホント作者さんどうしたの? ここ最近病んでるの?

 ――ご明察。平成最後の2月だから吹っ切れました。

 イキスギィ! その上意味がわからんし!

 

 さて、一旦落ち着こう。

 って、落ち着ける状況でもなかった!

 

 ヴェルオリとやらが巨大な光の玉を作り出す。

 これ……前に何度か見た事がある、当たるとあからさまに大ダメージ受ける魔法のやつじゃん!

「じゃあ、名残惜しいけど、死ね☆」

「わざわざ星をつけるな」

「あ、ちゃんとおち○ぽはとっておくから」

「だからやめてくれっ!」

 俺は走って逃げようとする。しかし。

「そんなのじゃ駄目なのは、わかるよね?」

 くっ、本気か。

 確かに、その光弾は速く飛びそうだ。

 あいつは、野球の球を投げるように構える。

 そして、その細い体躯からは想像もつかない剛速球の光弾を投げた。

 それは、少しずつ、しかし、みるみるうちに巨大化し、俺の目の前に来る頃には人二人を軽く飲み込む程度のサイズになっていた。

 飲み込まれて死ぬ! ……いや、それでいいのか?

 刹那、思考する。

 俺は、やはり――。

 諦めた。けれど、誰かが俺を諦めさせなかった。

 

反射防御壁リフレクション・シールドっ!」

 

 少女の透き通った声が響いた。

 来ると思った痛みや苦しみは来ず、代わりにヴェルオリの苦悶の声が聞こえた。

 もしや……いや、ないだろう……でも……。

 恐る恐る後ろを見た。

 

 そこには、アリスがいた。

 

「ジュンヤ君、迎えに来たよ」

 

 ああ、来て、しまった、のか。

 

 しかし、今はそれどころではない。

 

「再会してすぐですまないが、逃げるぞ、アリス!」

 

「うん!」

 

 俺たちは、走った。

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