第87話 本気のBATTLE!


「スタート!」

 その掛け声が聞こえた瞬間、俺は駆け出した。

 狙いは、目の前に立つ女騎士!

 両腰に下げた二本の剣を抜き、軌跡がバツの字になるように斬る。しかし――

 ぼこっ

 気の抜けた音がする。

 見てみれば、それは――

「ボール!?」

「……セーカイ……」

 その先にはピエロが立っていた。女騎士イオタは……

「どこを狙っているんだ? 私はここだぞ?」

 クソ! 狙ったはずなのに!

 しかし。

「そこだ!」

 ラビがその女騎士を槍の先端に捕らえ、穿つ。だが。

「こっちは帽子!?」

 いつの間にか俺の前のボールは消えていて、ラビの目の前には帽子が浮かんでいた。

「ほらほら、こっちだぞ~?」

「くっ!」

 挑発してくるイオタ。それを――

爆発光矢ボム・ボルト!」

 アリスの魔法が狙う。けれども――

「え!? 魔法が消えた! あれは……わっか?」

「残念、魔法は消えてしまったようだな!」

 その光の矢をいつの間にか空中に現れていたリングが消し去っていた。ラビの前にあった帽子は、また消えてしまっていた。

 そして、

「では、こちらからいくとしよう! 行くぞ、カッパ!」

「……イエス……」

 イオタは大きめの両手剣を背中から抜く。

 そして、それを振ると……

 ずばっ

 遠く離れているはずの俺の体に、袈裟懸けの残痕が走る!

 血が吹き出し、俺は思わず、叫んだ。

 痛い! 痛い痛い痛い痛い!

 死ぬ! いやだ! 死にたくないんだ!

「ああ、あああ、あああああああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

大回復ハイ・ヒール!」

「……ッはあっ、はあ、はあ……」

 俺はチェシャに助けられた。死ぬほどの痛みで発狂しかけていたが、どうにかなったようだ。

「ありがとう、チェシャ」

「どーも。でも一撃で瀕死レベルの攻撃を……さらに遠隔で……?」

「不思議だ」

「ふしぎ~」

 わけのわからない、トリッキーな技の数々。

 それを行うのは、おそらく……

「やば、なんか攻略法が降ってきたような気がする」

「聞かせて! ください! (迫真)」

「わかった! 話すから!」

 迫真の表情で迫ってくるラビを止めると――

「背中ががら空きだ!」

「ラビ! 後ろ!」

 その背中には、イオタが!

 彼女は、上段に構えた剣を、一気に振り下ろす――!

「――――ッ!」

 ブシュッ!!

 ラビの背中から血が勢いよく吹き出る。

 目を覆ってしまいたい。正直吐いてしまいそうだが……。

回復ヒール!」

 出来ることは……

大回復ハイ・ヒール~……ちょっ、ラビ。HP回復するたびに消えて行くんですけど!?」

 チェシャが珍しく間延びしていない口調で言う。

 俺に……出来ることは……?

 …………ない……?

 いやだ! もう、失いたくない!

 思ったときだった。

回復ヒール継続回復リジェネレイト・ヒール

 その声の主は――

「ユウ!」

「もう、大丈夫。彼は死なない」

「…………」

「心配そうな顔をしないでよ。ラビ君はすぐに目覚めるさ」

「……ありがとう」

「どーいたしまして」

 やはり、チート持ちにはかなわない。俺も精進せねば。どうせ、もっと上にいる人には届かないけども……。


「さて、ちょっとだけ本気をだそうか」


 そう言って、ユウは虚空から闇の色をした両手剣を出す。


「ん……さっき、一体なにが……」

「目覚めたか。さっきあの女騎士に背中からぶった切られて死に掛けてたんだよ」

「そうですか……。それはそうと、いよいよ望んでいた展開です!」

 やっぱりか。

 ラビはユウかリリスに活躍してもらおうとたくらんでいたのか!

 確かにあの二人は誰よりも強かったからな。いや、もともと存在がチートみたいなもの(の様な気がする)からな!

「おお、この中でも特に強いやつが相手になろうと! よろしい! やるぞ、カッパ!」

「いや、待て!」

「ジュンヤ!?」

 俺は叫ぶ。

「カッパ、お前の相手は、俺たちだ!」

「……ソウカ……」

「駄目だ!」

 イオタが叫ぶが。

「何故だ?」

「ぐっ」

 俺の疑問には答えられなかった。

 不思議な術の数々。それは、見たところ、すべて大道芸で使う道具が関係していた。

 この中で一番大道芸に関係ありそうなのは、ピエロの格好をしているカッパ。

 そして、決定的だったのが、イオタの攻撃前の発言。

 確かに、「カッパ、行くぞ!」と言っていた。俺を攻撃する際も、そして、今も。

 つまり、本当に攻撃すべきは、一番強そうなイオタではなく……

「みんな、カッパを攻撃しよう!」

「……そういうことか!」

「わかったよ!」

 リリスとノアは理解してくれたようだ。

「行くぞ! あ、ラビは傷口が開くと困るから休んでてくれ!」

「了解!」

 俺は、再び走る!

 気合をいれ、一閃。

 それは、さっきと同じようにボールで防がれる。

 でも、それはお見通し!

「リリス、ノア、いまだ!」

「任せろ!」

「行くよ!」

 リリスとノアは、その道化の左右にそれぞれ肉薄していた。

 そのまま、リリスは握り締めた右拳に光のような魔力をため、ノアはその手に持った細身の模造剣を突くように構え。

『はぁぁぁぁぁっっ!』

 気合一閃! その力を一気に放つ!

 激しい力がカッパを襲った――かの様に見えた。

 そこには、一本の棒しかなかった。

 いつの間にか、俺の剣を支えていたボールはなくなり、カッパは2本の棒を持ちながらさらにその向こうにいた。

「これは……デビルスティックというやつだな」

「リリス、知っていたのか?」

「ああ。2本の棒を用いて真ん中の棒を浮かすというジャグリングの一種なのだが、こうも離れていては出来ないはずだ」

「なら、一体……」

 俺たちが考察する中、ノアが口を開く。

「……もしかして」

「なんだ?」

「彼は、超能力者なのかな?」

 超能力……か。なにを馬鹿なことを……と言おうとしたとき。

 ひとつの可能性を思い出す。


 もしかして、彼は俺と同郷のものなのでは?


 異世界に転生したものに贈られる、“チート”と呼ばれる特殊な力。

「異世界転生者……チート……それならば、あるいは……」

「……ナニカ……イッタカ……?」

 そういうカッパは、さっきの二本の棒でおわんを二つくっつけたものを操っている。

「それは?」

「……ディアボロ……コレデ、オマエラを、ヤル……」

 律儀にも答えながら、攻撃を宣言した。

「来るぞ!」

 俺は、叫び、注意を促す。

 カッパは、そのディアボロを上に飛ばした。そして、最高点に上がったものが、そのまま静止し、俺を目掛けて落ちてきた。

 勢いがいいな、まるで墜落する隕石のようだ……って、あぶなっ!

 俺はバックステップでどうにか避けた、が。

「なに、これ浮きながら追いかけてきたんですけど!?」

「……アクマハ……ドコマデモ……ヲイカケル……」

 ディアボロつながりか! ディアボロも悪魔を表す言葉だし!

 でも、これでこの男が超能力者だということは確定だ。普通の物理法則じゃありえない動きをするコマって……。

 この勝負、思いのほか難しくなってきたぞ……!

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