第86話 急すぎる宣戦布告!?

 

 階段の上から、女騎士が俺たちを指して、「お手合わせ願いたい!」と言ってきた。

「……え?」

 何事ですかね?

「なにとぼけた顔をしている? お手合わせ願いたいと言っているのだ」

「あ、それはわかるのですけど……」

 パーティーを代表して、ラビが答える。

「わかるのなら早く」

「すみません、理由をお聞きしてもよろしいですか?」

「決まってるじゃないか! 強いやつと戦いたいからだよ!」

「ブッふぉ」

 いきなりユウが吹き出した。

 なんだ? その言葉になんか因縁でもあるのか?

「カッパの戦闘力レーダーが反応するなんて、相当のことでないとありえないからな。そういうやつと戦いたいんだ」

「…………本音は?」

 カイが言うと。

「そのぐらいの強いやつに潰されて、足蹴にされたうえで、縛られ監禁され拷問されて…………くっ、殺せ! ……このような辱めを……んあっ……らめぇ……そこは……」

 この人完全に自分の世界に入った。ただのドMか。

「……オキテ……」

 その言葉とは裏腹に、ピエロは懐からジャグリングに使うボウリングのピンみたいなやつ――クラブというらしい――を取り出してその淫乱女騎士に投げた。

 ゴスッ

 鈍い音がして。

「はっ、私は一体!」

 目が覚めた。

 なんだったんだ、いまのは。

「はあ、これだからいやなんだよな……」

 カイさん、その気持ち、わかる気がします。

 心の中で同情しつつ。

「と、とりあえず! 私と戦え!」

「えっと……なら、装備を取りに行くので、しばらく待ってもらっても……」

「それはこっちで用意してある!」

 無駄に用意がいいな! と心の中で突っ込む。

「全員でかかって来い! 受けて立つぞ!」

 そういわれたラビは、一瞬考えて。

「……わかりました、受けましょう」

「おい、なに言っているんだよ!」

「この人、とっても強そうだよ!?」

 俺たちは反論する。さすがにあんなガチの現役女騎士には勝てないだろ!

「大丈夫ですよ。僕たち全員でかかれば絶対に倒せます。むしろ、あの人が粉々にならないか心配なぐらいです」

「ほおう、言ってくれるねぇ。こうなれば全力でやってやろうじゃないか!」

 なに挑発しているんだ! 

 この人やばいオーラ出し始めたぞ……

「もう一度聞きますけど、本当に全員なんですよね? 僕・た・ち・7・人・で・、いいんですよね?」

「ああ。全員まとめて、やってやるよ!」

 それを聞いたラビの顔は少し微笑んだように見えた。

「さあ、準備しましょう!」

 こうして、俺たちは(主にラビの独断で)さまざまな意味で強そうな女騎士と戦うことに決定した。


 大悪魔・リリスと、通称悪魔憑きの狂戦士デモニック・バーサーカー・ユウを伴って。


**********


 俺たちは本当に用意してあった練習用の装備に身を包み、闘技場らしき謎の地下空間で女騎士を待った。

「こ、怖い……。あの人絶対強いよう……。古より受け継がれし我が魔族の血がそう伝えてきてるよう……。お兄ちゃん……、リリスちゃん……」

「安心しろ、ノアちゃん。私のお姉ちゃんと、私の人間関係の弟子、つまり君の兄がどうにかしてくれるさ。もちろん私たちもがんばらねばならないが」

 リリス……いつから俺は君の弟子になっていたんだ。そして、何度か思うけど、ノアはいつから俺の弟――いや、妹になったんだ。

 そして、何故この二人はそのまま抱き合ってキスし始めたの。

 まあ、それは無視しておくことにして、俺はラビに聞いた。

「ところで、本当に勝てるのか? あの人、すごく強そうだけど」

「大丈夫ですよ。ふふふ。あの人ががんばってくれさえすれば、ね」

 ……なんとなくわかった気がする。

「それよりも! リリスちゃんとノアちゃんのキッス! ディープな! キッス!」

 そんな手遅れな重症患者を冷ややかな目で見ながら、俺は待ち受ける戦いに思いをはせた。


**********


 そうして、15分後。

「なんか人が集まってきたね~」

「ジュンヤくん! 観客だよ!」

「いや視線いっぱい怖い……」

 なぜか大量の観客が集まってきた。

 闘技場、というかサッカースタジアムを連想させるようなつくりになっているな。

 わりと広めのグラウンドの周りに観客席がずらーっ……とした感じ。

 俺たちはそのグラウンドの中央に立っていて、観客席に座る観客たちの視線を一身に集めていた。

 そして。いよいよ。

「すまん、いろいろと手間取ってしまってな」

 といってその女騎士、イオタが入場してきた。

 が。

「……スマン……ヲクレタ……」

 その少し後ろには片言で喋る控えめそうな、見た目がぜんぜん控えめじゃないピエロがついてきた。

 彼らが入ってきたとき、歓声が響いた。

 俺は当然戸惑う。

「うわ、なになになに! いろいろと聞きたいことだらけだよ!」

「なんだ、言ってみろ」

「まず、何でこんなにいっぱい観客がいるの! 次に、なんで二人いるの! そして、なんでさっきとほとんど変わってないのに正味三十分もかかったの!」

「まず、観客について。多分タウが宣伝したのだろう。次に、人数について。人数についての制約はなかったはずだ。そして、時間について。女にはいろいろあるのだ。以上。何かあるか」

 こう真面目に返されると、ぐうの音も出ない。

「では、前置きはその程度にして、はじめようか!」

「ちょっともう一つ! 審判は誰になるんだ!?」

「そんなの必要ないだろう! 勝敗は私たちのソウルで決めようではないか!」

「駄目じゃん!」

 俺の追加した質問の答えに、(やっぱりか!)という気持ちで突っ込んだ。

てんてんてんまる

「それ普通言うか!?」

「まあ、それは置いといて」

「置いとくんですか!」

「確かに審判がいないと勝敗がつかないな」

「最初に考えておいてくれ……」

 俺とイオタの話し合い(ほかの人から見ればただの漫才だということは充分承知済み)が続く中、新たな人物がグラウンド内に入ってきた。

「それなら、審判は俺がやろうか?」

 それは、カイであった。

「お、カイ。それは助かる」

「いろいろと俺の裁量でいいか?」

「ああ」

 これで審判は確定したらしい。

「よし! 準備はできた!」

「後で泣いて許しを乞おうとも容赦はしませんからね?」

「のぞむところだ。そっちこそ、手ェ抜くなよ?」

「はい! みんな! 行きますよ!」

 そうして、俺たち7人と、イオタとカッパの二人はそれぞれ距離をとり――

「では、試合を始めるぜ!」

 カウントダウンが始まる。

『スリー!』

 俺は深呼吸をし、

『ツー!』

 観客を巻き込んだカウントダウンがフェードアウトしていき、

『ワン!』

 対戦相手の二人に集中して……――

「スタート!」


 ――――戦闘、開始ッッッ!

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