第84話 朝・報告と叫び

 翌日。朝日が昇ってくる頃。

 教会に来い……、と頭の中で声がした。

 あ、あれですね。わかりますよ、もう三回目になれば。

 俺は教会に向かおうとして、ふと思った。

 

 教会って、どこだ!?

 

 駄目だ、行ったら絶対にまた迷子になる。俺はダウジングなんてできないし、地図なんてこの町にはないからな。

 なので、断念した。

(何故行かないのじゃ!)

「あ~、すんません(棒)」

(何じゃその謝る気のなさそうな返事は!)

 頭の中に響く声――おそらく俺を異世界に転生させた神、ハデスだ――と会話する。

「で、何の用スか?」

(……近況報告を頼む)

「異状ナッシング」

(オーケー、いまどこじゃ?)

「王都」

(どこのじゃ?)

「アレス、だっけ?」

(ちょうどよし。それならちょっと言いたい事があるから教会に……)

「だから道に迷うからとかの諸事情で無理なんだって!」

(……仕方ないのう。ここで言っておく事があるから耳の穴かっぽじってよく聞きなさい)

「……耳ほじる必要は……」

(比喩じゃ!)

「それはともかく。何ですか?」

(…………ここ数日中に運命がほつれたところがあるらしい。それを……)

「わかってますよ。例の頼みごとの続きでしょう」

(わかっておるようじゃな。じゃ、そーゆーことで……)

「放り投げるな。ここで何がどうなる?」

(ちょ、怖いからいきなり声を2オクターブも低くしないで!)

「教えろ」

(怖いから……。じゃが、わしも何がどうなるかはさっぱりなのじゃ)

「運命の女神とかからは何も聞いていないのか?」

(その運命の女神ですら予期していなかった事態なのじゃ。そういうシステムデバック……もとい、修復がお前さんの役目なのじゃ)

「システムデバック、か」

(……はあ。まあよい。とにかく身構えておきなさい。あと、しばらく前の悪魔討伐の件はよくやったのう)

「ありがとうございます」

(よい。では、今後も精進……)

「褒美くれ」

(つ、通信切りますじゃ……)

「おい、ちょっと待て! 逃げるなこのファッキンゴッド! 脳内通信切るな! 褒美――ッ!!」

「おはようございます……。一体なにと話してたんですか?」

 頭の中から声が聞こえてこなくなってから、ラビが挨拶して来た。そう言えば、もう朝だ。というか、早朝だ。

 彼とは隣部屋なんだよな。一人部屋が取れただけで嬉しかったけど。

 とりあえず、言い訳を考える。

「あ、えっと……あ、よ、よ、妖精さん!」

「……妖精語じゃありませんよね、あれって」

「あ、あは、あはははは」

「…………」

 笑ってごまかすしかなくなった。どーしよー。

 というか、あの脳内通信は俺の頭の中にしか聞こえないらしいから、俺は大声で独り言を言っているようにしか見えなかったのか! それよく考えたらキ○ガイにしか見えんわ! 見かけても話しかけたくない人種だそれ。やべー恥ずかしー。

「まあいいです。大声で独り言は流石にやめてくださいよ」

「ハイ……」

 はああああ、助かった……。

 こういうことをするときは気をつけなければ。そんなにあるわけじゃないけど。

 じゃ、もう一眠りするか……。

 

**********


「おーい、起きろー」

「もう朝ですよー」

「というか、もう昼だよね」

「さっきから起こしてるのにぜんぜん起きないな」

「お兄ちゃんすっごい寝坊」

「だ、大丈夫なのかしら?」

「大丈夫だよ~。心臓は動いてるも~ん」

「とにかく早く起きてよ~~!」

 純也の寝室である。

 今は(日本時間に換算して)大体11時ごろ。

 早朝から二度寝した事がいけなかったようで、純也はいまだにぐっすりだった。

 で。

「……うるせえんだよ……んのクソファッキンゴッド……ふぁぁ……ん? あ、おはy」

『やっと起きたか――――――――!!!!!!』

「ちょっ、待て、耳壊す気か!?」

 耳をつんざく様な叫び声ですぐさま目覚めた純也であった。


 あれ? でもなんで誰も覚醒魔法を使わなかったんだ?

『あ、忘れてた』


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