第81話 光と闇はいまだ平行線

 ふう。

 もう王都は目前だ。

 この町ではどんなことが俺を待ち受けているのか、楽しみだ。

 しかし。

「あと半日か……」

「近くなりましたね」

「カイさんたちとの別れも近いな」

「そうですね」

 馬車の中で話している。近くには敵もいないようなので、特に警戒していない。

 アリスがこんなことを聞いてきた。

「そういえば、ジュンヤ君ってどこ出身なの?」

「っ!? ……ああ、すっごく遠くの村だよ」

「いま動揺したよね」

「どっ、どどどどッドウヨウシテナイヨ?」

「明らかに動揺丸出しだね……」

 まずい、疑われてる!

 軽く忘れかけてた設定だけど、俺はいまだに異世界人であることを隠しているんだった!

 異世界人だってばれたら……からかわれるかもしれん。

 異世界から転生した人間は何らかの特別な能力チートを有していることから、それを持たない俺は期待はずれだと言われるかもしれない。というか、異世界人だというだけで文化の違いや先述のチートなどのせいで嫌われる傾向があるのにここ最近気がついた。だから、何の能力も持たない俺が“異世界から来た”と告げることはリスクでしかないのだ。

 そんな俺の辛い考えを全く知らないアリスはまだ聞いてくる。

「じゃあ、なんて名前の村から来たの?」

「すまん、それは言えない」

「え? スマンソレワイエナイ村?」

「違うから。でも、村の名前は言えない」

「何で?」

「いろいろあってな」

「……あえて聞かないことにするよ」

「そうしてくれ」

「せめて、どの地方から来たかは教えてくれない?」

「……東のほう。というか、東の果て」

「と、いうことは、アレスのさらに東にあるペルセウス王国かな」

「知らんなそんな国」

 アリスの頭にクエスチョンマークがいくつか飛んでいる気がする。推測しないでくれ。

 しかし、そんな逡巡もすぐに終わり。

「まあ、ジュンヤくんかっこいいからいいや」

「そんなこと言うな、照れるだろ……」

 そんな可愛いこと言って推測をやめた。はあ、助かった。

「相変わらずラブラブだね~、お二人さん」

『ち、違うから!』

「それならそれでいいけど~」

 チェシャ、お前は何を言っているんだ。俺とアリスがそんな関係なわけないだろ。あえて言うとすれば、ただの冒険仲間で、ただの友達だ。……そこで「それはガールフレンドじゃん。ヒューヒュー」とか言ってからかわないでくれ。

 ――ちなみに、アリスはこう思っていた。

(やだっ! 恋人同士だと思われたの!? ああ、何で否定しちゃったの、私。でも本当にどこで生まれ育ったのか気になるな。ジュンヤくんのお父さんお母さんにご挨拶したいな。そしてゆくゆくは結婚……えへへへへ)

 ――そのことを純也は知らない。

 ん? いまナレーションが聞こえたような。俺が何を知らないって? まあいいか。

 何はともあれ、目的地はすぐそばであった。

 その目的地に見えざる闇が忍び寄っていたことは、まだ知らなかった。


**********


「いまこそ、魔王を復活させる時――」

「それはまだ早いんじゃないの?」

「――しかし、新たな魔王は頼りなさ過ぎる。人を殺さぬ魔族など、魔族ではない」

「まあ、それには同意するね。でも、まだ5年だよ? 時間が圧倒的に足りなさ過ぎるんじゃない?」

「ああ、現実的ではあるよな。だが、魔王様の意思はまだ我らの心の中に……」

「現実を見ようよ」

「話の途中で口を出すでない。さて、魔王様の意思は我らの心に残るゆえ、それを実行するのだ。いつか、魔王様が復活なされたとき、たいそうお喜びになるだろう」

「つまり、人類を滅亡させ、魔族の蔓延る大地を作り出すってこと?」

「そうだ」

「でも、魔王様はあの忌々しい勇者どもに殺された。もう復活することは……」

「甘いな。魔王様は死んだが、その因子はどこかに存在するのだ」

「それが?」

「その魔王様の因子――言うなれば魔王因子にしかるべき処置をすれば、魔王様は再びこの世に復活なさる。現に、魔王様はいままでこうして人類を何度も滅亡に追い込んだ。いや、その野望を決める以前から数々の野望をかなえてきたのだ」

「へえ、それは初耳」

「今の魔王は信用ならん。だから、いまの生温い魔王を暗殺し、新たな、我らの魔王様を復活させようぞ」

「できるの?」

「ああ、きっと、できるさ。まずは、手始めにこの町を壊滅に導こうぞ」

「あ、それはすごく現実的。乗った!」

「それでいい。実行は――」

「そこら辺は任せて。そういうのは得意だから」

「――……わかった。任せよう」

「へーい」

「すべては、我らが魔王様のために。魔族の栄光のために!」

「魔王復活プロジェクト、第一弾、始動!」


 とある魔族たちの会話の一部始終である。その魔の手は着々と忍び寄っていた――。

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