第80話 狂気! 腐りし乙女!
さて、旅立ちからもう19日である。
そろそろ王都に着く。ただ。
「俺思ったんだけどさ」
「なんだい?」
「王都、遠すぎないか!?」
「王都はでかいからね」
ユウに愚痴を言う。
「あとどのくらいで王都に着く?」
「このスピードだと一日ぐらいかな。明日の夕方には着く……と思うよ」
「と思うって……」
王都のでかさが分かる話だ。
ちなみに今は温泉の町を出てから七日目。その夜である。
同じテントに泊まる俺たちは、同郷の者同士で話すことがもはや日課になりつつある。今日もその日課(?)をこなしている最中だった。
ちなみに、もう一人同じテントのラビはもう寝た。というか、ユウが魔法で強制的に寝かせた。
「ユウ、そういえば、チェシャのおっぱいってたまに揉みたくならない?」
「気持ちはなんとなく分かる気がするよ。僕だって真ん前に座っているファイさんの胸を揉みたくならないと言ったら嘘になる」
「やっぱり。巨乳には本能的に惹かれるよな」
「確かに。でも、僕は膨らみかけのもいいと思うんだよ」
「お、それはどういうことだ? ユウ君よ」
「12歳ぐらいの膨らみかけの胸に圧倒的フェティシズムを感じる」
「分かる。実は俺もアリスの裸を見た事があるんだけど、それはもう……一言で言うと、最高でした」
「うん。僕も少年ジャ○プのマンガを見て何度か思った。“ああ、おっぱいっていいな”って」
「それ具体的には?」
「と○ぶるとか……」
「わかる」
そんな感じでおっぱいトークを繰り広げたり、現代ネタで笑ったりなんかして。
いつもの胡散臭そうな笑顔とは別の素顔を垣間見れるような気がする。
そんな俺たちには腐りきった影が忍び寄っていたなんて、このときは予想だにしていなかった。
**********
「ねえねえ、ラビ。少年ジャン○って何だろうね」
「さあ、わからないです」
「でもさ、こういう光景が間近で見られるのはとってもうれしい!」
「ちょっと、声を潜めてくださいよ。こっそり見ている事がばれてしまいます」
「あ、そうだね~。ありがとう、ラビ」
「どういたしまして、チェシャ」
僕たちは今、ジュンヤとユウさんの会話を盗み聞きしています。
どうしてこんなことになったのでしょうか。事の発端は一日前までさかのぼります。
――昨日。
ジュンヤたちが釣りをしに出かけた後、馬車の中に残った僕は、チェシャとお互いの趣味を語り合いました。
「ラビって、こういうのも好きだったのね~。いが~い」
「女の子同士のラブに目覚めたのはつい最近のことですが。でも、そういうチェシャこそこんな趣味があったとは……」
「黙っていたからね~。男同士のラブとかエロスとかはもう昔から大好きだったから~」
「……どれだけか聞いてみてもいいですか?」
「男同士が会話しているだけでそれはもう濃厚なシーンが思い浮かぶ程度には~」
以前の僕なら引いていたかもしれません。ですが……
「おお、それは奇遇ですね。僕も女の子同士で会話しているのを目撃しただけでエロいシーンが脳内再生されますです!」
「それはすごいね~! 目覚めて数日でもうそれほどの境地に達するとは~!」
控えめに言っていろいろうれしい展開です! まさかこんなふうに同調してくれる仲間がすぐそばにいたなんて!
そういう喜びをかみしめつつ、僕たちは話し続けます。
「僕らって、何か運命的なものがあるんじゃないですか!?」
「そうかもね~。ゼウス様と運命の女神様と腐女神様に感謝~」
「もしかしたら、僕たちが手を組めば最高の作品が作れるかもしれないですね」
「もしかしたら、じゃなくて絶対だよ! 私とあなたの変態力を合わせれば、きっとすごいものができる!」
「そうですね!」
チェシャはいつもの間延びした口調を忘れて、今思うとすごい恐ろしげな発言をしました。僕もそれに同調しました。さらにチェシャはこんなことを言います。
「こうなったら、一緒に同人作家目指しちゃおうか! 君の発想力はすさまじいからね! 私の男のあれも克明に描写できる画力と合わせれば……」
「絶対にいいものができる! です!」
「よく言った! 私たちの覇道は、今はじまる! 目指せ! R-18作家の頂点ッ!」
「さあはじめましょう! 新たなる伝説を!」
こうして僕たちは(半ばその場の勢いで)手を組みました。そして、取材のためにこうして男同士の怪しい会話を盗聴することになりました。回想終わり。
そういうことで盗聴しているわけですが。
「普段こういう話をしているのですか……。そして僕はいつもこうして眠らされていたわけですか……」
「こういうことをするのに、ほかの人に知られちゃったらさすがに社会的にアウトでしょ。ね、変わり身の術をしておいてよかったじゃない?」
「そうですね! 変わり身の術の伝授ありがとうございます」
「うふふ~。ありがとー」
僕はいつも眠らされる時間の前にこっそり寝袋を抜け出し、代わりに割っていない薪を入れておいたのです。これこそ変わり身の術……らしいです。
とにかく、それを活用してテントを抜け出し、チェシャと合流。そのあと彼らが油断している隙を見計らってこっそりと盗聴しに来たということです。
チェシャは完全に入っているようです。
「腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐……」
隣から腐りきった笑い声が聞こえてきます。ある意味ゾンビもびっくりの腐り具合です。
「ほら、ちゃんと中の会話を聞かないとです」
「腐腐腐……。会話を聞いているだけでもう最高よ~」
もう駄目だこの人早く何とかしないと……と、言おうとするのをこらえつつ、僕は中の会話に耳を傾けます。
『じゃあ、もう寝ようか』
『まあ、もう遅いしな』
『だね。おや
『おやすm……ぐう』
どうやら寝たようです……が。
「うひょぉぉぉぉぉ! 寝るって! 寝る(意味深)って!」
「しー、静かにしましょうよ」
「あ……」
昂ったチェシャをなだめるのに一苦労でした。
しかし、次の瞬間。
『ところで、そこにいるのは誰だい?』
ばれかけました。
「逃げましょう! ここにいてはそれこそ社会的にまずいです!」
「そうだね~! あ、私のテントに来る~? みんな寝てるからばれないよ~」
「そうします!」
こうして、僕はその晩、チェシャのテントに泊まりました。
あ、もちろんやましいことは何もしてませんよ?
**********
翌日。
俺たちは薪が入っている寝袋を見て何かを察しました。しかし、俺たちは優しいので何も言いませんでした。
きっと、どこかで大人の一線を踏み切ったんだね。おめでとう、ラビ。
変わらない態度で接するから。ちょっと苛立っていても許してね(多少恐ろしげな笑みを浮かべながら)。
以上、純也でした。
(このあと誤解を解くのに5時間ぐらいかかりましたとさ)
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