旅路の日常・後半戦! ~アレな表現あります~

第78話 初めて出来た弟子?

 翌朝。カイがノアの事を聞いてきた。

「その少女は?」

「僕はノア。……ちょっと、下がスースーする」

「仕方ないだろ、スカートなんだから」

「まあ、仕方ないや。今日からよろしく! 師匠兼お兄ちゃん」

「あ、ああ、よろしくな」

 昨日は薄汚れたシャツとズボンだったから少年に見えたが、こうして衣装を変えただけで可愛い女の子にも見えるのだから、不思議なものである。

 だが。

「じゃあ、リリスちゃん、一緒に御者しよう」

「ああ。そういう約束だったし」

「お前らいつの間にそんな約束してたんだよ」

 というか、何かがずれているような気もするが。……一緒に御者って……。いろいろとわけが分からん。何はともあれ、この二人が仲良くなってくれてこっちもうれしい。

 俺たちは馬車に乗り込み、町を出た。これからまた数日間の旅である。

 まあ、半分は超えていたとのことだが。その発言から察するに、少なくとも10日はかかるまい。

 旅はまだ終わらない。

 新たな仲間……自称妹の少女を加えて、旅は続いていく――。


 **********


「お兄ちゃん、早速……」

「ああ、剣術の鍛錬、だよな」

「うん! お願い」

「ああ、まずは剣の持ち方だ――」

 あるときは剣を教えた。

 

「お兄ちゃん、今日も……」

「ああ、今日は……魔法にするか」

「わーい!」

「はじめるぞ。まずは身体の中にある……何かの力的なものを感じ取るんだ――」

 あるときは魔法を教えた。

 

「お兄ちゃん、いつもの!」

「もういつものになってやがるな。まあいい。今日はちょっと志向を変えて哲学としようか」

「え?」

「何故人間は存在すると思う――」

「うわぁぁぁぁぁ!」

 あるときは一般教養を教えた。哲学が一般的かはさておき。


 そんな日々が続き、四日目。

 ウルフの遠吠えが聞こえた。すぐ近くだ。

「お兄ちゃん、やる?」

「おう、やっちまえ。俺は後ろから見守ってやるから」

「分かった!」

 ノアはそう言って、ウルフの前に躍り出た。

 あの町で練習用に買った安物の細身の剣。それを持つ少女はとてもさまになっていた。

 襲ってくる獣。それをノアはかわし。

「やぁぁぁぁッッッ!」

 気合を込めて突き攻撃を放つ。

 それを、ウルフはかわす。そして、反撃に出る獣。

 ウルフは突進し、ノアに体当たりする。だが、ノアはとっさに盾を出し、防いだ。

「よし! ナイスだノア! そのまま……」

「うん、分かってる!」

 そのウルフには隙ができる。その隙を狙い……突く!

 威力一点集中の必殺の威力を込めた刃はその皮を破った!

 肉を裂き、血を吹き出させる。

 そうして、ウルフは絶命した。

「……ちょっとグロい…………吐きそう……おrrrrrr」

「ここで吐かないの。気持ちは分かるけど。でも、ひとまずおめでとう」

「……ありがとう」

「今日はこの肉でステーキにでもしようか」

「うん!」

 こうして(二人して吐きそうになるのを我慢しながら)死骸を解体して、肉を入手して馬車に戻った。

 その日の夕食は美味しいステーキとなった。



**********


「ねえ、お兄ちゃん! 今日も!」

「はいはい、じゃあ、今日は……」

「ちょっと待った」

 五日目になる今日もノアに勉強を教えようとした、そのとき。アリスが待ったをかけてきた。

「ここ最近、ノアちゃんばっかりジュンヤくんと一緒にいてずるい」

「そうかな。お兄ちゃんと一緒にいるのは妹の特権だと思うけど」

「第一、お兄ちゃんってなに!?」

「お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ!」

「そこまでにしてくれ……」

 よくわからない口げんかをしているノアとアリスを一旦止める。まあ、こういうことかな?

「分かった。今日は二人に教えよう」

『わーい』

 なんなんだこの子達は。

 そんなふうに思いつつ、とりあえずそこに座ってもらう。

「よ~し、今日はたっぷり算数だ」

「えっ? ちょっと、本気ですかお兄ちゃん」

「なんかよくわからないけど、いやな予感がする……」

「今日は本気で算数を教えまくってやろう。さ~て、まずは一次方程式からだな~」

『いやぁぁぁぁぁ……』

 二人は抱き合って震えた。

 さあ、中一の数学の範囲だ。分かるかな……?


 結論。

「ふう。やっと終わった……」

「思いのほか分かりやすくて助かった……」

「そうだった!?」

 喧嘩どころじゃなくなる程度には疲れさせた。ついでにちゃんと勉強してもらった。

 しかし、教えるとむしろ教えたほうが身に付くってのはホントのことかもな……。ここ最近は少し俺の脳みそも復活してきた気がする。

 高校で学年7位だった俺の頭はどんどん活性化してきている気がするぜ。

「さて、次は剣術の鍛錬だ。その棒を持って」

「はい! お兄ちゃん」

「え、まだやるの!?」

『うん。当然』

 師弟で異口同音にそんなことを言う。

 これで終わりだとは思うなよ?

「さあ、素振り50回からはじめよう!」

「はい! お兄ちゃん」

「分かりましたジュンヤくん……」

「それでよし! はじめるぞ! いーち、にー、さーん……」

 俺ももちろん混ざり、三人で素振りの練習。その他剣術などの鍛錬。こういうのは毎日欠かさないことが強さの秘訣ともいえる。

「さーんじゅきゅ、よんじゅう、よーんじゅいち……」

「まだ続くの――――!?」

 星空の下、俺のカウントの声が響き渡っていた。

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