第77話 ホット・スプリング・パニック!? おかしくなりそうなニュー・フェロー
旅館。
「そんなこんなでやっと旅館に着いたはいいんだけど……」
「ノア、なんでお前がここにいるんだ!?」
ここは俺の部屋。俺とアリスと、前回俺が助けた少年ノアの三人で向かい合って床に座っていた。
「えへへ。ついて来ちゃった」
そう言って笑うノアに、俺は軽く頭を抱えた。
「えへへじゃない……。第一、ご両親はどうした?」
「だいぶ前に死んだよ。いまは一人で路上生活だ」
「……今、何歳なんだ?」
「10歳」
「……壮絶だな」
俺の子供時代よりはるかに苦しい生活してるじゃねぇか。
「で、お兄ちゃんにひとつ頼みたいことがあるんだけど」
「なんだ? あと、何故いつの間にか俺がお前のお兄ちゃんになっているんだ?」
ノアは、俺の後半の質問は華麗に無視した上で答えた。
「僕を強くしてほしいんだ」
その言葉を咀嚼し、飲み込み、理解し、その上で聞いた。
「…………どういうことだ?」
「僕に戦いのこととか、人生のこととか、いっぱい教えて?」
少年よ、その上目遣いはちょっと反則だぞ。
と言うか、彼は男だよね? 彼は……男の子……の筈だよ? 何でちょっとドキッとしちゃったんだろう。一瞬かわいいとか思っちゃった自分にどうぞ天罰を下されにゃ(ちょっとなに言ってるのかわからない)!
「と、とりあえず、お風呂にでも行こうか」
『一緒に行く!』
アリスとノアが同時に言ってきた。
「……。わかった、風呂の前までは一緒に行こう……」
『一緒に入る!』
「ノアはともかくアリス、それはやめような? 流石に女の子と入浴して耐え切れるほど俺の精神は強くないんだから」
「……けち」
「……すまん」
アリスは拗ねてしまったようだ。
「じ、じゃあ、行こうか」
『わーい!』
一気に機嫌が元通りになるアリス。
ノアとアリスはそれぞれ俺の片方の腕にしがみつく。そうなると、両腕が重くなって……
「すまん、歩きづらいから離れてくれると助かるのだが……」
『えー、駄目なの?』
「駄目じゃないから。わかったからそんな顔するなって」
そんなふうにして風呂の前まで行った。
だが、アリスはともかく、ノアは男の子だろう。何でこんなに俺に(肉体的に)接触したがる!?
その真相がわかるのは、そのわずか一分後のことであった……。
**********
「さて、服を脱ぎな」
「脱ぐってつまり……えっち?」
「何でそうなるの? さてはお前ホモなの?」
「違うって。逆に何で?」
「……。服を脱がなきゃ風呂に入れないだろ?」
「なんだ。そういうことなら、そう言ってくれればいいのに」
「言わなくてもわかるだろ……。ほら、脱ぎな」
俺は優しい笑顔で言った。
「仕方ないなぁ。後悔しても、知らないよ?」
その中性的なかわいい顔を赤くしながらノアは服を脱ぎ始めた。
その下には、小さく膨らみ始めた胸が……って、あれっ!?
ノアって、男の子のはずだよねっ!? 何で胸が膨らんで……
それを気にせず、ノアはなおも脱ぎ続けた。そう、ズボンを脱ぐと、そこには……
女の子用のおぱんつが!
それを脱ぐと……いやもう駄目だ。これ以上見てたら理性が……。
「なあ、一応聞くけど……、ノアくん、お前の性別って……もしかして……」
「ばれちゃったみたいだね。そう、僕の性別は……女の子……だよ?」
浅黒い肌の少年……いや、少女……というか、幼女がそう言った。
少年だと思ってたら幼女だったとは!
思い返して見れば、この子が女の子だと気付いてもおかしくない場面がいくらでもあったではないか。何故気付けなかった、俺。
後悔しても、もう遅い。
「じゃあ、お風呂入ろうか。一緒に」
「いや駄目だ」
「何で?」
「駄目だ、理性がそれを許さない」
「一緒に……」
「いや、女湯に行きなさい」
「……はぁい」
こうして、俺はノアちゃんを送り出し、一人で風呂に入った。
はぁ……、妹か……。
**********
僕は今日運命的な出会いを果たした。
いつものチンピラたちが黒髪のお兄さんに絡んで、それを止めようとしたら、そのお兄さんは僕をかばってくれたんだ!
「どうして助けたの?」って聞くと、「逆に助けない理由がないだろ」なんてこと言って。
「自分は生きていていい?」って聞くと、「いいよ、君は生きる価値があるんだ」って言ってくれた。
優しくて、かっこよかった。
この人の妹にならなりたいなって思ったんだ。
でも、そのお兄ちゃんとお風呂に入ろうとしたら、なぜか断られちゃった。何でだろ。
僕のことを男の子だと思ってたみたい。女の子だって言ったら驚かれちゃった。
さて。いま僕はお風呂に入っている。さっきの、お兄ちゃんの横にいたお姉さん――アリスさん、だったっけ――と一緒に。
「まさか君が女の子だったとは。世の中には不思議なこともいっぱいあるものだね~」
「ちょ、アリスさん、僕ってそんなに男っぽいですか!?」
「うん。最初に会った時は完璧に男の子だと思ったよ。少し女々しさはあったけど」
「そうですか……」
僕はどちらかと言うと男の子っぽいと周りの人から言われていた。何も言わなければ、こんなふうに男の子だと思われてしまう。それがちょっとコンプレックスだった。
「でも、それもいいと思うけどね」
「ありがとうございます」
心優しい人(とか、ものすごい変態さんとか)はこんなふうに言ってくれる。まあ、ありがたいことだ。しかし、少し気になったことがあって、聞いて見た。
「そういえば、アリスさんって、お兄ちゃんとあったときものすごく嬉しそうでしたよね」
「あ、あたしのことは呼び捨てでいいよ。敬語も使わなくていいし」
「……ありがとう。で、話を続けるけど、アリスってお兄ちゃんにがんばって好かれようとしていない?」
「……。つまり?」
「アリスって、お兄ちゃんのこと、好きなの?」
僕が聞くと、アリスさん……アリスは、顔を真っ赤にした。
その直後。
「よっ! お姉ちゃん。先に入ってたの……その少女は?」
「あ、リリス。この子はノア。ジュンヤくんが拾ってきたの……って、ノア? どうしたの?」
今度は僕が顔を赤くする番だった。
何この子、かわいい!
浴室に入ってきた女の子を見て、僕はそう思った。
僕より少しだけ小さな白い身体。くりっとした目。つやつやした肌。そのすべてが最高に輝いて見えた。
つまり、一目ぼれだった。
今日、僕は運命の女の子と運命的な出会いを果たした。
**********
「なんだかヒロイン候補が寝取られたようなすっごく不穏な予感がする」
「なに言ってるです?」
今日もラビと風呂である。ユウはまだ帰ってこないし、カイさんは今日も仕事とかで一緒には風呂に入れないそうだ。
「それより、ここに穴があったんだけど……どうしよう」
仕切りのほうを見ると、そこには小さな穴が。まあ、この手のシーンにはよくあるやつだな。何故昨日のうちに見つからなかったのかが少し不思議だ。
――彼らは知らない。女湯には
そんなよく聞こえなかった天の声はともかく。
「覗こうぜ!」
「言うと思いました。まあ、一緒に覗かせてください」
「ああ! ……そういえば、ノアってどうなったんだ?」
早速覗き穴を覗くと、そこでは……
ノアちゃんとリリスちゃんがキャッキャうふふといちゃいちゃいちゃいちゃ…………。
うわ、マジか! まさか、ノアが攻めてるなんて! そして、リリスもまんざらでもなさそうな顔してるし!
これは新たなカップリング! ノアリリ!
って、何故俺はこんな百合オタみたいになっている。まあ、女の子同士がいちゃついているところが見れて少しうれしかったのはホントだけど。
「ちょっと、僕にも見せてください!」
「うわっ、ちょっと! まあいいけど!」
ラビが俺を押しのけて覗き穴を見る。そんなことをするなんて、珍しいな。
そして、ラビがそれを見始めると……
「尊い……」
「え?」
「女の子同士……尊い……」
もしや……!
「女の子同士の恋愛……これが……百合…………尊いッ……!」
目覚めた! ラビが百合に! 目覚めてしまったのかッ!
ラビが鼻血を垂れ流し始める。これは拙い気がする!
それだけならいいか、と安堵してはいけない。
うちのパーティーにはもう一人、ヤバスな人物がいたではないか。薄々気がついていた。
チェシャが、実は腐りきっていることに。
実は腐っていることをひた隠しにしている美少女のことを思い浮かべながら、俺は頭を抱えた。
そう言えば、この話のタイトルはフルメタからもじっていることに気がついた読者は何人いたんだろう。というか、本当におかしくなりそうだ……。
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