第76話 市街戦闘、出会い


攻撃力強化ブースト・アタック防御力強化ブースト・ディフェンス

 手の握力と体の耐久力、つまり攻撃力と防御力を魔法によって底上げ。

 すぐに、チンピラたちが襲って来る。

 右拳を俺の身に放とうとするチンピラ。それを、身をくねらせてかわすと、

火花スパーク

 その相手の動きを止める魔法を放つ。

 そして、そのまま、避けた先にいたチンピラに体当たり。彼がバランスを崩したところで肘鉄を放つ。俺のひじは彼の顔面に当たり、彼は倒れる。

 だが、背後には別のチンピラが角材を振りかぶっていた!

 それを振り下ろす前に、俺は振り向き、振り下ろされた瞬間にそれをかわす。そして、間合いを詰めて右拳を握り締めてみぞおちに放つ。しかしそれで屈強な男がたじろぐはずもない。だから。

火花スパーク

 もう一度、この魔法。便利すぎる。

 動かなくなったその男を一瞥すると。

「やめて!」

 そんな、少年の声が聞こえた。

 振り向けば、そこには先ほどのローブの少年がチンピラの男に捕まっているではないか!

 ナイフを持ち、それを少年の首元に近づける。

 チンピラは、少年がかぶっていたローブを無理矢理脱がせる。

 その中から現れたのは、青白い肌を持つ中性的な少年だった。

「さっさと死にな。半魔」

『チッ!』

 それは誰の声か。俺の声でもあり、その少年の声でもあったのだろう。

 俺は、先ほどのチンピラが持っていた角材を持って、少年の下に駆け出し、そのチンピラの男に角材を叩きつけた。

「ぐはっ!」

 吐血して倒れる男。死んでいないよな。

「よくやるようだな。その腕前は評価してやるぞ、コラァ」

 さっき俺と話していたチンピラが俺に話しかける。

「ずいぶんと上から目線だな。それより、これで最後か?」

「チッ! じゃあ、俺様がじきじきに相手してやるぜ! コラァ!」

 いよいよラスボス戦か。望むところだ!

「受けて立つぜ! 俺は必ずこの少年を守りきる!」


**********


 純也がそんな少年漫画のようなバトルを繰り広げている間。

 アリスは町の中を散策していた。

 石畳で舗装された階段を下りながら、

(あ、このカフェ、ジュンヤくんといってみたいな~。喫茶店といえば、あのときのあ~んはちょっと恥ずかしかったけど……)

 過去のことを思い出し、顔を赤くするアリス。しかし、その後ろには怪しい影が……。

「アリスちゃんっ! おはよう!」

 さわやか過ぎるほどの(胡散臭い)笑顔で後ろから話しかけてきたのは、ユウだった。

「なにっ!?」

 びっくりして飛びのくアリス。

「あはははは、びっくりした~?」

「なんだ、ユウか~。びっくりした~」

「あははのは~」

 どこまでも軽薄そうな少年である。

「で、どうしたの?」

「なんでもないよ。ただ、近くにいたから挨拶しただけさ」

「へえ……」

 やっぱり何を考えているか分からない。このユウという男は、そういう男なのだ。

「そういえば、君の恋人……あ、失礼。友人はどうしたの?」

「こっ……恋人って!?」

「純也のこと」

「ジュンヤくんのこと……って、えっ!?」

 また一気に顔を赤くするアリス。しかし、それもすぐに収まる。

「……ジュンヤくんなら、一人で出かけちゃった。どこにいるか、わかんない」

「そうか。なら、いいんだ」

「…………ねえ、あなたって、一体……」

「それはそうと、向こうでドンパチ聞こえるよ! 喧嘩でもしてるのかなぁ。ちょっと見に行こうよ!」

「あ、うん……」

 ユウは、先の四つ角から戦闘の気配を感じ取ったようだ。その先には……


**********


「死ねやコラァァァァァァ!」

「くっ! 死なせるかよ!」

 激しい攻防!

 さっきのチンピラが持っていたナイフを使って鉄のパイプと打ち合う。

 かわして、かわして、間合いを詰める。

 どうしてこんな立ち回りができるのか正直自分でも分からない。それほどに激しい一進一退の攻防が繰り広げられている。

 そして、ナイフ、ではなく、それを握り締めた拳でその男を殴るが。

「そんな拳、効くわけねえだろ、コラァ」

 しかし、それでいい!

火花スパークッ!」

 これで何度も命を救われてきた。そして、今回も……

「クソッ! 何故動けねぇ! コラァ!」

 この状態で、頭をぶん殴る! こうすれば、当然……

「クソ……覚えてろよコラァ……」

 相手は気絶した。

「大丈夫だったか!」

 俺は少年に話しかける。

「うん。助けてくれて、ありがとう……」

「どういたしまして。君、名前は?」

「ノアだよ。家名はない。ただの、ノア」

 その声を聞いて少しほっとする。

「でも、どうして助けたの?」

「どうしてって、逆に助けない理由があるか?」

「僕は……半魔人ハーフデビルだよ?」

「いや、そのハーフデビルとやらを知らないのだが。なんだよそれ」

「……僕は穢れた人間、人ならざるもの、しかし魔族でもない半端者……」

「それが何だ! お前は、穢れてなんかいない!」

 初対面の人物へのお前呼ばわりも気にせず、俺は続けた。

「お前の、どこが穢れているというんだ! 穢れ穢れって言うんなら、あのチンピラのほうがよっぽど穢れてる! お前は、充分に、きれいなんだよ」

 少年は一瞬顔を赤くした。だが、すぐに弱気になって言い返す。

「でも、種族が……」

「種族がなんだ! ハーフデビルがなんだ! そんなこと、関係ねぇだろ」

「何で、そう思うの?」

「……“人の価値は心の価値だ”って、思うことにしているからだよ」

 少年は目を見開き、驚いた。俺は話を続ける。

「……俺も、むかしからいじめられてたんだ。そりゃお前とは違うかもしれないが。何度も考えた。“俺は果たしてこの世界に生きていていいのだろうか”と。そんな、いま思い返して見ても哀しくなるような自問を繰り返した末に、人の価値はその人格にあるのではないかと思いついたんだ」

「それなら、僕の価値って、なんなの?」

「……それは、自分で考えていけばいい。まあ、難しいんだけどな」

 そう言って、俺は笑う。

「少なくとも、俺はお前の心はとてもいいと思う」

「ありがとう、お兄ちゃん」

 そう言った少年の顔は満面の笑みを浮かべていた。


 そのとき、急に少女の声がした。

「ジュンヤくん、男の子を口説いてる」

「アリス! なんでこんなところに!? あと口説いてないよ!?」

 いらん勘違いをされたようだ。やれやれ。

「それじゃ、帰ろうか」

「そうだね」

 俺たちは、そう言ってもと来た道をひきかえ――そうとして、ふと気付く。

『そう言えば、帰り道ってどっちだろう』

 なにも考えてませんでした。

 そもそも迷子になって偶然ここに来たわけだから、わからないのも当然だった。

 どうしようかと戸惑うと。

「それなら、僕が大通りまで案内しようか?」

『ありがとう!』

 こうして俺たちはノアに案内してもらい、無事に旅館にたどり着けたのだった。


**********


 ――そのあと、その路地。


 そこには、黒髪の男がいた。まぶしさと奇妙さと胡散臭さが同居した笑顔の男である。無論、ユウで ある。

 チンピラたちが目を覚ます。

「ん? なんすか……って! なんじゃこりゃ! キャプテン、起きてくだせぇ!」

「なんだよコラァ……コラァ!?」

 次々と起きるチンピラたち。

「やあ、お目覚めかい?」

 微笑む彼の顔には狂気が巧妙に隠されていた。

 それには気付かないチンピラたちが、ユウに詰め寄り話しかける。

「お、いいターゲット発見だぜ! コラァ! ようよう、早速だが、おまえに頼みてぇことが……ヒイィッ!」

 チンピラのリーダー格の男――あの、「コラァ」が口癖のチンピラである――が、あからさまにおびえた表情で身を引く。

「なんだい?」

「おっ、お前はっ……」

「ふふふ、君は気付いてしまったようだね」

 そのリーダー格の男以外は何も気付いていないようだ。だが、次の瞬間、空気が変わった。

 圧倒的威圧感。ボスの風格と凶暴性。それは、ひしひしとチンピラたちの間に伝わる。

「ふふ、これで、ちょっとはいうことを聞く気になったかな」

 彼らの足はがたがたと震えが止まらない。恐怖が彼らを蝕んでいく!

 それが、目の前に立つ、笑顔を浮かべた男から発せられたものと気付いたとき、彼らはさらに戦慄した。

 彼らは理解する。この黒髪の少年は、自分たちよりも圧倒的に強いと!

「よくも仲間を傷つけたな、と言いたいけど、元同業者のよしみで許してあげよう。その代わり――」

 そうして、ユウは提案する。

「僕の傘下に入れ。今日から、お前らは俺の舎弟パシリだ」

 その笑顔から想像も出来ないほどの、低く威圧感を伴った声で。一人称を変えて。

 チンピラたちは、首を縦に振るしか出来なかったのだった。


 ユウ は チンピラたち を なかまに つけた!

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