第75話 町探検

 翌日。

「ふぁ~、よく寝た……あれ? まだ暗い?」

 俺は急いで時間の確認をする。

 ちなみに、この世界にも時計はある。時間の表し方は多少違うらしいが、見方は変わらないためそんなに気にしていない。この旅館にも各部屋に掛け時計が設置してある。

 ……知れば知るほど前にいた世界と似ているな。まあ、それはともかく。

 え~と、なになに? 今の時間は……向こうの世界換算で大体午前四時!? まだ明るくもなってない時間帯じゃねーか!

 しかも、いま寝たら絶対寝過ごすし……。これは微妙な時間に起きてしまったな。

 そういうことは一度死ぬ前――向こうの世界で高校生をしていた頃にもよくあった。

 そういう時はいつもこうする。

 オ○……いややはりこういう場では言ってはいけないだろう。下ネタはなるべく控える方針で。え? 前回の腐った何か? なんでしょうかそれは。

 とりあえず、それからしばらく布団の中でもぞもぞしていたようだ。一人称なのにこんな言い方をしていいのだろうか……。


――――――――――。


 ふう……。

 いまの俺は賢者。

 さて。いつの間にか時間が飛び朝日が出てきた。俺は思わず伸びをする。

「あ~、気持ちいい(意味深)!」

 あ、ちょっと作者。俺のいまの台詞に(意味深)とか付けるな! 誤解されるだろ!

 とにかく、その朝日は妙に新鮮だった――しかし、その横にあった雲には気がつかなかった。


**********


 今日は自由散策である。

 リリスの「せっかくの観光地だし、ついでにいっぱい観光してこーぜ」という提案にみんなが乗った形になる。

 一人で街中を歩く。

 実はアリスから誘いを受けていたものの、「今日は一人でいたい気分だ」と断った。なぜか心配そうな顔をされたが、それでも一人になりたかった。特に深い意味はない。ただ、俺は元来、一人でいることが好きなだけなんだ。

 つまり、完全に自由行動である。

 お、あそこに温泉卵が売ってる! 少し寄っていこう!


**********


 一方、こちらは好きな人にデートを断られて少し悲しいアリスです。

 でも、さっきのジュンヤくん少しヘンだったな……。いつものスケベそうな気持ちがないというか……。しかも、一人になりたいって……。何かの病気かな?

 あ~、ジュンヤくんとデートしたかったよ~~~!

 まあ、でも、そんなふうに駄々こねてても仕方ないし、お散歩でもしよう。チェシャ誘って、昨日見かけた喫茶店で女子会だ!

 そんなふうに思い立って、チェシャを誘おうとしたら。

「ち、チェシャさんっ! 僕と……一緒に……おっ、お散歩でも……どうですか……」

「うん、いいよ~」

「ありがとうございます!」

 ラビがチェシャを散歩――いや、本人はデートのつもりみたい――に誘ってた。

 うん、やめよう。

 カイさんとファイさんは色々と忙しいみたいだし、リリスは一人で出かけちゃったし……。

 ……一人で町を散歩しよう。

 私はすごく寂しい気持ちになった……。


**********


 こちら、純也だ。

 早速だが、俺は迷子になった。

 この町はエンテの町同様に……いや、それ以上に入り組んだ構造をした街だ。

 狭いものの、いや、その狭い土地を有効に活用するためか。ひとたびメインストリートを外れると、立体構造をした巨大迷路に迷い込んだような気分になる。

 と、言うわけで。ここはどこ状態になっている俺です。

 おっと、四つ角に当たった。

 一瞬考えて、直感で右に進む。根拠は何もない。

 仲間と一緒だとこんなことはできないよな……と、少しだけ苦笑しながら進んでいく。

 何もない住宅街のようだ。

 石畳の階段を下りながら、こういうのも情緒があっていい、と思う。

 観光地のようにぎらぎらに磨かれたところではなくとも、ちょっとしたところに良さが隠れている。目だたずともきらりと光るものはある。そういうものに惹かれてしまうんだよなぁ。ちょうど、こんな観光地に隠れた住宅街のようなものに。

 また四つ角が現れた。今度は――左!

 曲がると、すぐに下り階段。しかし、さっきのような舗装とは少し雰囲気が異なっていた。まるで、ちょうどいい形の石を組み合わせたような……。

 少しいやな予感がするが、どうせ何の用事も無いわけだし。

 なので、その階段を下りてみることにした。


**********


 ――数分後。

 俺は舗装もされていない道でチンピラに絡まれていた。

「オラぁ、向かって来いよぉ! びびってんのか!? コラァ!」

 俺が昔なんかの挑発に使った気もする台詞を吐くチンピラA。

 残念だが、俺はこう見えても人を傷つける度胸はない。人を傷つけるものにならば容赦ないのだが。

 冷えた目で黙っておくことにする。

「なに睨んでんだよ! 何かしゃべれよ! コラァ!」

 なるほど、彼は「コラァ!」が口癖なのか。しかし、睨んではいないはずなのに何故そう言われたんだろう。

「うんでもすんでも良いから喋れや! コラァ!」

 ……仕方ない。

「すん」

「何なんだよオメーはよォ! コラァ!」

 うんでもすんでもいいといったのはそちらだろう。何故逆切れする。

 まあ、教えられなくとも分かる事がある。それは、“こういうやつらとはかかわらないほうがいい”ということである。

「仕方ねぇ! 野郎ども、やっちまえ! コラァ!」

「ヘイ!」

 その声を聞き襲ってくるチンピラたち。仕方ない!

 ため息をついて拳を構えた。

 そのとき。


「そこまでにしておきなよ、おじさんたち」


『誰だ!』

 チンピラたち全員と、ついでに俺が叫ぶ。

 その声は、子供のような高い声だった。

 振り向くと、ローブを深くかぶった少年が立っていた。

 彼は、チンピラと俺の疑問を無視して、呆れた様子で続ける。

「おじさんたち、いつもこうしてるよね。全く、何をしているんだか……」

「だからお前は誰だコラァ……あ、お前は!」

「そうだよ……」

 さっきから俺と喋っていた「コラァ」が口癖のチンピラAは、彼のことを知っていたようで……。

「クソ! こんなところで出くわしちまうとは最悪だコラァ! 野郎ども! ターゲット変更だ! この半魔のクソガキをぶち殺すぞ! コラァ!」

「ヘェェイ!」

 チンピラたちが彼を殺すために走る。だが。

 俺は、それを許せなかった!

 俺の脇をすり抜けようとする大柄なチンピラ。その足に自分の足を絡めて、転ばせる。

 もう一人走ってくるチンピラ。そちらはやせた体型だ。俺はその肉の少ないみぞおちに拳を放つ。

 チンピラたちはあせる。チンピラAが話しかける。

「お? ようやくやる気になったのか? コラァ」

 俺は、それに答えた。

「ああ。さっき言ったよな? ――人を傷つける者に、容赦はしないと」

「言ってねぇよなコラァ」

「あ、モノローグだったわ」

「オイコラァ」

「だが、俺は元来いじめが大嫌いなんだ!」

 それは、昔自分が受けていたから。その痛みは、誰よりも分かっている。少なくとも自分ではそのつもりだ。

「もういい! 全員かかりやがれコラァァァァ!」

「ヘェェェェイ!」

 そして、奪う者と護る者の戦いけんかが幕を開けた。

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