温泉騒乱(ホット・スプリング・パニック)!?

第74話 到着! 温泉の町

「お~。見えてきたな」

 旅に出てから10日目。

 ようやく中間地点に到着である。

 この町の名は、温泉の町カワネ。

 なんだか聞き覚えがあるが、某静岡県大井川鉄道沿線の温泉地とは関係ない。

 その入り口で、なぜか止められた。

「おい、そこの馬車、停まれ」

 御者をしているリリスが反論する。

「おい、どういうことだ? 説明を求める」

「色々と問い質したいことがあるんだ」

「なんだ、言ってみろ」

「まず、なぜ幼女が御者をしている」

 あ。

 今まで誰も突っ込まないから忘れていた。

 幼女が馬を操っていること自体がそもそもおかしかったことを!

 それに当の本人、リリスはどう反論するのだろうか。


「私以外、御者を勤められる人間がいないのだ」


 こう来たか。

 俺たちを止めた兵士は呆れている。それはそうだよな……。

「……そうか……。……次に、その積荷のチェックをしていいか?」

「ああ。ちなみに、中身は各種旅行用品と人間四人だ」

「そうです……ん? 人間四人?」

「そうだ。護衛の冒険者たちがいる」

「あ、ハイ」

 リリスが話していたのとは別の兵士が荷台を覗く。

「あ、どうも」

「こんにちは」

「お世話になります」

「よろしく~」

 こちらが挨拶すると、彼は「あ、こちらこそ~」と言って戻っていった。彼の「問題ありませんでした」と言う声を聞いて少しだけ安堵したのはここだけの秘密である。

「……で、では、最後に、その乗客を確認し……」

「街道の町エンテの町長とその友人だ」

「それは失礼しましたどうぞお入りください」

「やった!」

 どうにか入ることが出来たようだ。一定の地位を持つ友人は持っておいても損はないようだ。本人は知らないが。


**********


 温泉の町に入ることが出来た。

 ここら辺は観光地のような雰囲気だ。

 そこら中から土産を売る声が聞こえる。

 しかし、それには目もくれず、まずは宿を探す。

「でも、いまから取れる宿なんて……」

「それなら心配しなくてもいい。もうすでに予約は済ませてあるぜ」

 なんて手回しのいい町長。

「しかもこの町では最高級の温泉宿だ。その宿のご厚意でだいぶ安くしてもらった」

「……地位というのは、もっておくべきですね」

「そうだ。苦労もあるが、得もする。ふふふ……」

「ふふふふふ……」

 俺たちは意味深に笑った。


 ふう……。

 宿に着いて、早速温泉である。

 やはりこういう風呂は落ち着く。癒される……。

 無論、混浴ではない。だが、そんなのはもはや関係ない。

 いま、この風呂は俺一人しかいない――

 がらがらっ

「お~。この風呂は広いですね~」

「そうだねー。とっても気持ちよさそう……って、純也君先に入ってたんだ」

 ――入ってきたのは、紳士的なラビと、いつも笑顔なユウ。風呂の独占は終了した。

「ああ、もう入ってた。気持ちいいぜ、この風呂は」

 そんなふうに言っておく。

 仕切りの向こう側から聞きなれた少女たちの声が聞こえる。女性陣もお風呂タイムらしい。

 なんとなく、「あ~、覗きてぇな~」という気持ちがこみ上げてくる。

「なに言ってるんです? 覗きはやめときましょうよ」

「あ、声出てた? メンゴメンゴ」

「あなたねぇ……」

 呆れたように笑うラビ。正常な思春期男子はこんなもんだ。

「そう言う君も覗きたいんでしょ? ラビ」

 ユウが聞いた。

「えっ!? そんなことはっ! ないですよ! 決して! チェシャのおっぱいに顔うずめたいとか! チェシャにぱふぱふされたいとか! 断じて! 思ってませんからっ!!」

「思っているのか……」

「あっ」

 自爆乙www

 しかも聞いてないとこまで勝手にしゃべりだしたし。どれだけ性欲がたまっているんだ。しかも相手があのチェシャとか……マジかよ。確かに顔とか身体だけならエロかわいいと言うか、なんと言うか最高なんだけれども!

 そんな紳士的会話ジェントルメンズ・トークはともかく。

 俺たちは旅の疲れを癒したのだった。


**********


 その仕切りの向こうでは。

「ふふふふふ。なんてサービス心旺盛な旅館なのでしょう……」

「なに言ってるのチェシャ。口調も変わってるみたいだけど」

「ふふふふふ。そして、なんてサービス心旺盛なボーイズなのでしょう……」

「……お姉ちゃん、この手の女子はちょっと厄介だから、あまり関わらないことをお勧めするぞ」

「ふふふ……腐腐腐腐腐腐! この鏡が実はマジックミラーだったなんて、誰も知らないでしょう! ああっ! なにも知らずに絡み合う男たち! 最高……! 役得……! 尊いっ……!」

 チェシャが浴室の鏡の一つを見て昂っていた。腐った女神、ここにあり。なお、なぜこの世界にマジックミラーがあるとかそういうところは突っ込んではいけない。

 そのときちょうど先述の女風呂覗きたいトークが炸裂していたところだったので。

「おほ――ッ! これが伝説のっ……! 思春期あるあるのひとつ! “女の子のお風呂覗きたいっ”だ……! マジか! ここで聞けるとは! あ~ここで逝ってもいいっ! というかイっちゃうっ!」

 そんな、エクスタシーがビンビン(意味不明)のチェシャの気迫に、アリスとリリスの姉妹は引き気味で身を寄せ合っていた。

「もう駄目だ……。おしまいだ。姉妹だけに」

「なに意味不明なボケかましてるの!?」

「この年齢でここまで負の……いや、腐のオーラを蓄えた少女は、いまだかつて見たことがないっ!」

「何千年も生きているはずの悪魔でさえっ!?」

「この少女は、どれだけ腐っているんだ……!?」

「うちの妹が何やら意味のわからないことを口走っているんですけどっ!?」

 そして、夫婦めおと……ではなく姉妹漫才をしていた。

「腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐! これは最高だわ~! もっともっといちゃつけ――! 男同士の青春っ! 昂るっ……! 脳が震えるっ……! もっともっともっとあたしを愉しませてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 その姉妹は色々とイっちゃっている少女を残念なものを見る目で見ていたのだった。


**********


 さて。

 町長カイたちの部屋。

「なあ、なんで俺たちがひとつの部屋なんだ?」

「さあ。それは運命の女神にでも聞いて見ることね」

 カイとファイが同じ部屋で話し合っていた。

「布団も……ひとつしかないし」

「一緒の布団で寝る?」

「いやいやいや、流石にそうするわけないだろう! もうひとつ布団を持って来てもらう!」

 そして、ラブコメ的状況であった。

「第一、万が一間違いが起こったらどうする!」

「私は起こってもいいわよ。そういうこと」

「えっ……」

「というか、昔は何度もそういうことあったでしょ?」

「……いや……いまは…………その……なんというか……大人だから」

「そんな理由? 私はそれでも一緒がいいけど」

「こっ、子供と大人ではっ……」

「そんなに違う?」

 誘うようなファイ。顔を赤くして常識と理性を振りかざし断ろうとするカイ。

「ち、違う……」

「こう見えて昔からそうだったわよね。カイは」

「……そうだったってどういう意味だ?」

「エッチなことには耐性なかったわよね。たとえば、うっかりあたしの裸見ちゃったときだったりとか……」

「お、思い出させるな! さっさと色々終わらせて寝るぞ!」

 そのあとどうしたかはご想像にお任せするとしよう。


 そうして、彼らの夜は更けていった。

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