第73話 襲い来る足音


 旅は続き、8日目。

 昨日は何事もなかったが、おとといはアリスを抱きしめて気絶した。

 今日はなにがあるだろうか。

 と、思ったら、なにやら大量の足音が近づく。

 なんだ……? まっ、まさかっ……!?

 恐る恐る馬車の荷台から後ろをのぞいて見ると、


 ウルフの群れだった。


 何この急展開っ!?

 開始直後に狼の群れに遭遇なんて、早々ないと思うぞ!

 不幸だぁぁ!

ざわ…

 ざわ…

  ざわ…

 何か聞こえる……!

ざわ… ざわ…

 ざわ… ざわ…

 

 ざわっ…! (迫真…!)


 気にしてはいけない……!

 とりあえず、仲間に伝えよう。

「おい、ウルフが来た! 迎え撃つ……ぞ……」

「え? もう知ってたけど~」

「そう言うあなたこそ早く準備してくださいよ」

 からぶった……。もうすでに気付いていたのか……。

 すぐに準備をして馬車を降りる。

「さあ、かかって来い! この馬車は……仲間たちは俺が守る!」

「あたしたちを忘れないで~」

「あ……ごめん」

 決め台詞もぶち壊しにされながら、俺たちは迫り来る脅威に立ち向かった!


 大型犬と同じサイズの狼が大量に攻めて来る。

 それを、槍と盾を使う紳士的な性格をした少年、ラビと共に捌く。

「ジュンヤくん、ラビ! 正面に大きめの行くよ!」

「おう!」

「わかりました!」

 アリスは、後ろから魔法を放つ。

風刃斬ウインド・スラッシュ!!」

 広範囲の敵を高い火力で一掃する。

「ラビ君~。 あとついでにそこの黒髪~。 支援かけるね~」

「OKです!」

「わかった! けど待遇改善を求める!」

 名前すら呼んでもらえなくなったのはさておき。

攻撃力・防御力強化ブースト・アタック・アンド・ディフェンス~」

「助かった!」

 さらに増す力。それによって殲滅の速度は上がる。さらに、俺は必殺の技をぶちかます。

「剣技! デュアル・ブレイブ・スラッシュ!」

 これは、数秒以内の攻撃二発に爆発的な威力を付与する技である。

 発動から数秒以内に二回攻撃しなければただ魔力を消費するだけの無駄になってしまうため、これを使う冒険者は少ない。だが、俺は二刀の剣士。だから、攻撃する間の隙が生まれにくく、結果、効果時間内に二回の攻撃を行うことが容易くなるのだ。

 左手に持った剣で横薙ぎに一閃。それは上昇した威力により生まれる圧倒的な膂力でもってウルフたちを切り刻む。

 間髪いれずに、走り出す。そして、その先のウルフたちに向かって右手に持つ白く光る剣でもう一回斬撃を放つ。周りの空気をも巻き込み、肉を切り刻む。切り裂いた空気があたかも飛ぶ刃のように――むしろそれそのものであるが――周りのウルフを切り刻んだ。

 あっという間に、戦闘は終了した。

「ぼ、僕の出番はっ!?」

 あ、すまん。(by作者)


**********


 脅威を退けた俺たちは、喜び合う。見たところ、その先には、何もない。

 だが、この中の誰が言ったのだろうか。

「じゃあ、そろそろ馬車に戻ろうぜ」

 ……紛れもなく俺だった。

 しかし、その一言で現実に引き戻される。

「そういえば、馬車って……」

「停まってないの……では……」

「あ~、まずくない~? この状況」

「……まずいっすよ、これ」

 後ろには、荷客合造の馬車が遠くに見えた。

 俺たち四人は悟った。

『もうだめだ、これ』

 ……どうしよう。

「とりあえず、がんばって走って追いつくか? やれば出来るぞ? ……多分」

「あれだけ離れていると~……、おそらく体力が持たない~」

「そうか、駄目か」

 …………どうしよう。

「……どうする?」

「……あたしが使い魔飛ばして伝言しようか?」

「ありがとうアリス!」

「えへへ……」

 どうにかなる算段がついた……。

「じゃあアリス、使い魔で馬車を止めるように伝言をしてください」

「了解でーす」

「さて、進みましょう!」

 ラビが、笑顔で言ってきた! どうしよう、つらい!

 その後、馬車に到着してすぐに寝たのは言うまでもないだろう。

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