旅路の日常!

第71話 旅の日常風景

 俺は、チートレス転生冒険者、改め旅人になった純也。今、馬車で旅をしている。

 実は仲間である、俺が世話になっていた町の町長が馬車を手配してくれたんだ。

 町長の護衛として王都まで一緒に旅をする、という名目である。

 俺たちの仲間は自分含め全部で8人。

 俺が世話になっていたエンテの町の町長、カイ。その親友であり幼馴染でもあるというファイ。

 冒険者パーティー“ワンダーランド”のメンバーであるラビ、チェシャ、そしてアリス。

 凄腕回復師ヒーラーかつさまざまな伝説を打ち立てた異世界転生冒険者、ユウ(本名:血臭 憂)

 恐らく世界最強の幼女、そして大悪魔でもある、リリス。

 そして俺の合計8人である。

 いざとなればユウが従えている悪魔の死邪がいるため合計9人であるとも言える。

 さて、今は王都に向かっているわけだが、その経由地の町に向かうまでがまず長かった。

 約10日である。

 今はその5日目である。今は正式に護衛ということになっているワンダーランドのメンバーと俺が数時間交替で監視している。ちなみにユウやリリスは護衛ではなく同乗者ということになっているらしく、馬車でゆっくりしている。

 今は俺が監視。俺が馬車の横を着いて歩き、周囲に危険が無いか探る。何もないはずだから、大丈夫……

 ワオォォォォォン

 あれは、ウルヴェンの遠吠え!

 ウルヴェンとは、よく草原にいる野生動物。巨大な犬、というか狼のような体を持つ。人の体を丸呑みにする程度の能力を持つ。

 どこだ? 問題が無いところでなければ大丈夫……よく目を凝らすと、進行方向正面に大きい犬のようなシルエットが!

 あれは間違いなくウルヴェンだ! しかも、あのまま待ち伏せてきた人間をその日の晩御飯にするつもりだこいつ!

 危ない。俺がどうにかしなくては!

 俺は急いで駆け出す。腰にぶら下げた二本の剣を抜きながら。

 そして、ゆっくりと歩く馬を追い越し、目の前の脅威に立ち向かう。

 対峙するウルヴェンと俺。俺が先に動き出す。

 威嚇する魔獣の横に回りこみ、両手に持った二本の剣で、その魔獣の胴を斬る。

 ブシャッ

 それは防がれず、ヒット。血が飛び散る。

 しかし、次の瞬間、魔獣は反撃に出る。

 魔獣は後ろに飛びのき、俺に向かって突進する。それなら……っ!

 俺は片方の剣を鞘にしまい、もう一つの、白く輝く剣を両手で構える。

 そして、突進する魔獣に向かって走る。

 向こうの速度は見た感じ、40km/h。

 こちらはせいぜい……15km/hかな。

 つまり、相対速度は55km/h。いける!

 体当たりするその魔獣を頭から切り裂いた。すれ違うときの速さがとても早いので、あっさりと切れた。

 振り向くと、そこには魔獣の死体があった。それを退けたところで、馬車がやってきた。

 そこに乗っていたリリスが降りてきて、俺に話しかける。

「どうしたんだ?」

「ちょっと、目の前に敵がいたから排除してきた」

「うわ、恐ろしいな」

「冒険者とはそういうもの。俺も慣れるまで大変でした」

「冒険者すごい」

「排除しちゃうぞ~」

「うわ――!」

「あはははは」

 遊んでやった。可愛い。

「ほれほれ~」

「やめてぇぇぇ」

 あっ、これ遊びすぎて危ないやつだ!

 ――純也は殴られた。鋭い右ストレート、明らかに桁の違う威力のパンチに軽く飛ばされた。

「ひでぶっ」

「うわー、しろめむいてるー! って、なにやってるんだあたしたちは」

 リリスは急に正気に戻った。この幼女の正体は長く生きている悪魔。見た目は子供、中身はババア。つまりロリババア――

「おい、地の文。なに言っているんだよ。貴様ぶっ殺されたいんか?」

 ひぃ! すっ、すみません! なんでもしますから許して! 可愛くて美しくてかっこよくて最高で頭もいいリリス様!

「それでいい。ババアとか言うな」

 ほっ。ありがとうございます……。

 と、いうことで純也は気絶したのだった。


 理由:幼女に殴られた


**********


 およそ三十分経った頃。

「覚醒アウェイクン~」

 馬車の荷台に寝てた。そばでは短髪の少女がしゃがんで俺の顔を覗き込む。

「はっ! 俺はいま何を! あ、ここは現実か。さっきのは夢だったのか」

「どんな夢~?」

 その短髪の少女――けだるけな雰囲気を持つ猫系僧侶、チェシャが興味本位で聞いてくるが。

「……すまん。女の子には教えられないんだ」

「ふ~ん。別に、あたしはあたしの胸をまさぐっている夢でも~、あたし相手にエッチなことしてる夢でも~、ぜんぜんかまわないんだからね~」

「そんなことは考えてませんよ!?」

「うふふふふ~。まあ、夢だからね~」

「含みのある言い方だね! なんかこわいよ!」

 まあ、この環境でハーレムの夢を見ていたと知ればみんな引くだろうからね。絶対教えられない、男の秘密なのだ。

「ハーレムとかはさすがに引くけど~」

「うわうわうわそんなこと、みじんもっ、これぽっちも! 考えてませんからっ! 考えてませんからねっ!?」

「必死~。つまり図星~」

 心を読む能力者なのかなこの人。こわい。

「まあ、夢だからいいけど~。そんなことを考えていたって、みんなキミには興味ないよ、きっと」

「やめて、そんなこと言われると俺の心がつらい」

「本当のことだよ~? 多分」

「やめてよ……」

 この少女には遠慮という言葉を知ってもらいたい。

「アリスはともかく~、リリスちゃんは色恋とか興味なさそうだし~、ファイさんも相手はいるわけだし~。あ、あたしは論外で。興味もないし」

「やめて……。特に最後のは鋭めに突き刺さったから。ガチトーンでそんなこといわないで」

「あ、仲間としては頼りにしてるからね~。多少は」

「一言多いよ……」

 そんな感じで時間は過ぎていった。

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