episode08 それは、魂を磨り潰して粉々にするように。

 それから約二十四時間後。

「よっし調整完了!」

 そう宣言する魔女の大声で目が覚めた。

「おはようござ」

「よし準備が完了したぞ! さあ、早くこっちに来なさい!」

「えっ、ちょっ、まっ」

 バーン、と僕の部屋のドアを開けて侵入してくる魔女。その魔女に手を引かれ、自室からあの謎の部屋に連れ込まれる。そのまま、横に長い、人間が入るサイズの箱のようなものを持ってきて。

「さあ、これに入って!」

「ちょっと!」

「早く!」

「待って!」

「さあ!」

「落ち着きましょ! ね?」

「入れっ!」

平静サニティィィィィィィッッッッ!」

「っ……! ……はぁっ、はぁ、ふぅ」

 気合と魔力を精一杯込めた魔法でどうにか落ち着かせた。

「で、何ですか?」

「すう、はあ、はあ……。このあたしとした事が、すまねーな。ちょっと急ぎすぎてしまった」

「と、言うと?」

「ああ、やっとお前用の封印具の調整がすんだのでな。思わず深夜テンションではしゃぎすぎてしまった」

「そうなんですか……。お疲れ様です」

 調整する必要があったのか。しかも徹夜で。

「でも、そのおかげでお前の二重人格を完全に治せるかも知れねぇんだ! そうすれば……」

「僕が、これ以上新しい罪を犯すことは無くなる。これまでの罪をこの体で償える」

「そういうことだ。だが……これは確実に成功するとは言いがたい。これはあくまでまだ実験だからな。むしろ成功する確率のほうが少ない」

「そういえば、僕はその実験の被験者第一号なんでしたよね」

 この魔女の弟子(?)をしていた一週間の間にすっかり忘れていた事実だ。僕は、気になって聞いた。

「……もし失敗すれば?」

「何度も話しただろう。忘れたのか?」

「ああ、“自分にも何が起こるかわからない”でしたよね」

「よく覚えてるじゃねえか。じゃあ、そのリスクは?」

「予想されるだけでも多岐に及ぶ。記憶が飛んだり、廃人と化したり、最悪の場合死んだり」

「正解。それでも、やるのか?」

 僕の答えは決まりきっていた。

「はい」

「即答だな。して、その理由は?」

「僕は、もうこれ以上罪を犯したくない。誰かを悲しませたくない。そのためなら、どんな痛みだって受け入れるつもりです」

「……その罪を受け入れ、抱え、生きる。その覚悟が……」

「できています。その結果、苦しみながら死んだって、構いません」

「ああ、分かった――」

 それを聞いて、僕はその棺桶のようにも見える機械の中に入ろうとしたが。

「――その前に、一つだけ言いたい」

「何でしょうか」

「もしお前が生きて出てきて、またその顔をあたしに見せてくれるのであれば――」

 なんだろうか。僕はごくりとつばを飲む。

「その敬語をやめてくれるだろうか。あと、いつも笑顔で生きろ」

 少し難しい願いだ。でも――

「分かりました。がんばります」

「いつもそうしろよ」

「善処しますよ」

「ああ、約束だ。絶対、戻って来いよ」

「はい、約束、します」

 僕は微笑みながら答えた。

「じゃあ、行って来い」

「はい。必ず戻ります」

 また、棺桶のような機械のドアを開け、中に入った。そのままドアを閉めて、目をつぶる。

「お前との数日間、楽しかったぞ。だから、また、その顔を見せてくれよ」

「さっきから言っているじゃないですか。心配しないで」

「ん? 今、何か言ったか?」

 聞こえなかったなら、仕方ない。深呼吸しながら、身構える。魔女が宣言した。

「じゃあ、いくぞ!」

 僕は、頷いた。そして、呼吸を整える。

 そして、地獄の時が始まる。


 いきなり、体の中心を激しい電流のような痛みが走る!

 ビリビリと、バリバリと、殴られるように、刺されるように、撃たれるように、斬られるように、潰される様に、意識を、魂を、肉体を、弾き飛ばし、壊し、中から、爆発させる。

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 長い、永い、悲鳴。それが自分から発せられたものだと気づくのにそれほどの時間はかからなかった。

 目玉も、脳も、体全体がはじけ飛んで、体の表皮が剥げて、その中に入る筋肉も粉々になり、神経を直接潰され、内臓は磨り潰されて、骨すらも砕かれ、あとにはそのグロテスクな余りが残る。それでも終わることはない。永劫かつ究極の痛み、苦しみ、苦痛。

 そこまでの痛みが、僕の体に走っていた。

“これまでの痛みを味わうなら死んだほうがましだ”と思った時点で、ふと“これが、僕が殺してきた者たちの痛みなのか”と気付く。

 そうか、これが僕の罪の一端。これが地獄。これが罰。

 ならば、その痛みを僕は永遠に忘れない。何なら永久に受け続けたとしてもかまわない。

 誓いつつ、僕の意識は闇へ――――悪魔の住む闇へと堕ちていった。


 **********


「おぞましい爆弾球」

「何その表現」

「前回までのほのぼのストーリーは何処へ」

「さあ?」

「で、その実験は成功したのか?」

「僕がここにいる時点でわかるだろう」

「ああ、それもそうだな。成功したんだよな」

「いや、失敗だけど」

「ズコーっ」

「いや、ずっこけるときの音を口で言うそのやり方にこっちは驚きだけどね」

「あ、すまん」

「いいのいいの」

「さて、それはどういうことなんだ?」

「それは――」

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