episode07 魔女との日常

 自称心優しい魔女様の懇切丁寧で分かりやすいマンツーマンな連続三日三晩の魔法学の授業が終わり。

「そーれ、じゃあやっと本題に入ろうか」

「疲れました寝かしてください」

「あ~、あたしと寝たいのかね。童貞じゃなさそうだけど、若い精気は大歓迎だよ」

「そんなことじゃないですよ! 普通に……ねむ…………ぐう」

「覚醒(アウェイクン)」

「んあ? ……はっ」

「目が覚めたか」

「いや、寝たのは一瞬じゃないですか……」

「まだ寝るなよ。まあ、寝れないと思うがな!」

「はあ……」

 そんなふうな感じでまた数日間みっちりとその実験について教えられたのだった。


 そして、これまた鬼魔女にしごかれつつ勉強して数日後。

「もう……駄目……」

「よし! これで全部叩き込めたぞ!」

「やっと、眠れる……疲れた……」

「よし、そう言うお前におよそ一週間ぶりの睡眠をやろう! 存分に寝るがいい!」

「ありがとう……ございま……すう……」

「覚醒(アウェイクン)」

「はっ……何故ですか~?」

「ここじゃなくて、布団で寝ろ。お前の部屋にあるから」

「それってどこですか?」

「自分で探せ」

「分かるはずがないじゃないですか。教えてください」

「言うようになったじゃないか。ならば、特別に教えてやろう。付いてきな!」

「はい、ありがとうございます」

 僕はそれから数日間眠り続けた。その間に目覚めたかどうかは知らないが、少なくともその数日間の記憶はない。


 数日後、のはず。少なくとも朝ではあった。

「おはようございま……あれ?」

 小屋の中はいろいろと散乱していた。何体かの動く人影のようなものが動き回って片付けている。

「な、なにごとっ!?」

「ヒエッ……! あ、ああ、おはよう……。とりあえず、片づけを手伝ってくれ」

 魔女は、一瞬おびえた表情で僕を見てから、ほっとした様子で僕に手伝いを求める。少しやつれているようにも見える。

「分かりました……。でも、いったい何があったんですか?」

 僕は片づけを手伝いつつ、聞く。

「何って、まさか何も覚えてないのか!? あの三日間の魔法バトルを!」

「……何ですか? それ」

「あ……うん。覚えてないんだったらいいか」

「本当に何があったんですか……」

 その寝ていた時のことは本当に覚えていない。その時のことはいまだに何も聞いていない。

「ちなみに、その動き回っている人影みたいなのって、何ですか?」

「それは式神。魔力固めて人の体のような……まあ、人形みたいなのを作って、それを魔法で動かしているんだ。なあ、簡単だろう?」

「確かに(今までの魔法の授業に比べれば)」

 常人に言っても理解できるはずがあるまい。理解できたとしても、彼らは驚きを通り越して呆れると思う。これはとんでもない精神力と魔力を使うからだ。

 これを製作するのにはいくつかの魔法を何重にも重ねた上で大量の魔力を固めなければいけないのだ。さらに動かすことにも同じことが言える。そのため使える人間はわずかに限られてしまうのだ。さらにこれを何体も同時に動かしているとなれば……「本当に大丈夫なのかな、おばさん。いろいろと」と思ってしまう。

「聞こえてるぞ。失礼な。私の体はまだ30代だぞ。ギリギリだが」

「すみません……。……実年齢は?」

「にひゃ……いや言わせるな恥ずかしい!」

 30代って、充分おばさんじゃないのかなぁ? 実年齢は聞き逃したけど。

 とにかく、これほどに規格外な魔女から魔法のことを学んだ僕はさまざまな意味で強くなっていたのだった。主に知識的な意味で。


 数時間後。

「やっと片付いたな。ありがとう」

「大丈夫ですよ」

「にしても、その“闇の人格”とやらがあんなに強かったのは予想以上だったな」

「どういうことです?」

「体力も魔力も格段に増していた」

「はい?」

「もしかしたら、この人格だと無意識に力を抑えていて、あの体の全力を出せないのかな。だとしたら、無意識下でのあの体の出力は……」

「それはどういう……」

「……拙いな。いろいろ改良しねーと」

「え~と、つまり?」

「よし! ちょっと待っててくれ!」

「え?」

 そういって彼女は奥の部屋に引きこもってしまった。


**********


「なんというか、ほのぼのストーリーが続くな」

「気が抜けてくるかも。まあ、そんなに平和な日常を送っていたんだよ」

「でも、その魔女ってすごいやつだったんだな」

「それはもう」

「どれくらい?」

「国のトップ魔術師の称号を持ってるって言ってたような」

「すげぇな!」

「そーなの」

「……改めて、すごいやつだな」

「さて、続きを話そう」

「このあとってどうなったんだ?」

「そうだな。なるべく思い出したくはないんだけど――」

「無理はしないでネ?」

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