episode06 ぼくをすくうもの
僕は、あのあとしばらく放浪した。理由など無かった、と思う。
しかし、あれ以来は殺すことが少なくなったのは確かだ。飽きたから、だろうか。多少は殺していたが、それでも明らかに回数が減った。対して僕の理性が戻る回数が増えていた感じもする。
後から知ったことだが、僕が強力な大魔法を使って蹂躙したあの戦いはやはり戦争で、僕が大虐殺したことで兵士がほぼ全滅し、戦力が大幅に減った両国は戦争の継続を不可能と判断し、多少のいさかいを残しつつもひとまずの終結をしたそうだ。
つまり最終的に僕が戦争終結の立役者となったわけだが、世間は僕のことを最強のテロリストだと認識したらしい。
この地方の大体の国の、ほとんどの町の警備が強化され、捕まるのは時間の問題となった。
それから程なくして、ある人物に呼ばれた。
その頃の僕はもう今のようにしおれていた。あの頃の面影など見る影もないほどに。敬語まで操れるようになっていた。
僕を呼んだ人物は、森の奥にあったいかにも魔女がいそうな小屋でタバコをふかしていた、くたびれた30代ぐらいの女だった。
「なんですか」
「おや、だいぶしおらしくなったじゃないか。ユウ」
「あなたは――……誰ですか?」
「ははははは! あたしだよ! あたし!」
「だから、誰です?」
「ああ、まだ会ったことはあっても自己紹介はしてなかったな。あたしは魔女だよ」
「本名は?」
「……それは、明かせないねぇ。ただ一つ言えることは、あたしはあんたと同郷の者という事だけさ」
「じゃあ、かつて僕とはどこであったんですか?」
「ああ、あたしは、半年ほど前あんたが最初にいた町で少し会話をした女だよ。覚えてないかい?」
「ああ、僕に冒険者になれと助言したあの人ですか。あの時はどうも」
「いいさ。ところで、お前にちょっとやってほしい事があるんだが」
「はい。何でしょうか」
「あたしの実験に協力しろ。これは依頼という形ではあるが、ホントは強制したいところなんだ」
「どんな実験ですか?」
「知らなくてもいいことだろう?」
「いえ、知る権利ぐらいはいくら私でもさすがにあっていいと思います」
「なに遠回しに言っているのさ。知りたいといえばいいことだろうに」
「……私は、裁かれるべきものなのです……」
「何だよ急に」
「僕には、権利など存在しない。生きる権利すらも」
「裁かれるもんにもさすがに基本的人権は……」
「無い。僕は、それすらも踏みにじったのだから。もうすぐ、理性がなくなると思います。そうなれば、僕は望む望まないにかかわらず、また罪を重ねてしまうのです」
「……ああ、その罪の意識に歪み切った性格も直さねーとな」
「え? それはどういう……」
「あたしがこれから行う実験は、人格を封印するものだ。その理性がぶっ飛んだ状態とやらをどうにかするんだよ!」
「はい?」
僕は、その魔女と名乗る女に何を言われたのか全く理解できなかった。
「だ・か・ら! そのおかしい人格をどうにかするんだよ!」
「どうやって?」
「その人格をお前の中に閉じ込めて出られなくしてやる。そうすれば、万事解決だろう?」
「それができるのなら……」
「できるんだよ。今のお前の状態と、あたしの魔法の技術力があればな!」
「どうやってですか?」
「概念なら説明しただろう?」
「いや、やり方です」
「注文の多い罪人だね。まあ、心優しい魔女様はそんなものにも丁寧に手を差し伸べるのさ。どれ、説明してやろう。話が長くなるけど、いいかい?」
「ええ。僕自身はかまいません。理性が飛んであなたを襲い始めたら止めてくださると幸いでございます」
「おー、こわいこわい。くわばらくわばら」
そういって、その心優しい魔女とやらはめんどくさそうに僕に一から十まで――魔法の理論から魔法の分類まで丁寧に教えてくださったのだった。
**********
「へー。これ、変わりすぎじゃない?」
「そういうものなんだって」
「いや、いくらなんでもその変わり方は不自然じゃない?」
「そのころの僕は、それほどまでに罪の意識に歪められていた、ということさ」
「じゃあ、その罪をもう作らないようにすれば……」
「もう、その頃には自分の中の殺害衝動は人格を持つまでに成長してしまっていた。それゆえに、その衝動は抑えられなくなっていたんだ。僕が知らない間に、その手は命を奪っていく。罪を作る。自分が何よりも、こわかったあの頃さ」
「……そうなのか……」
「それに、作ってしまった罪はもう消すことはできるはずが無いのだから」
「……」
「さあ、続きを話すとしよう」
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