第65話 ”悪魔”は闘い、”狂気”は嗤う
悪魔・ハーゲンは狭い土地をも気にせず、魔法で弾幕を作ってきた。立体弾幕である。
弾幕シューティングゲームとは違う、現実でしか成し得ない緊張感あふれる戦い。被弾してもすぐには死なないが、その代わりに襲ってくる痛み。前の世界では絶対に無かった、命のやり取り。
そんなものをかわしつつ、正気を保ちながら、俺は突進して悪魔に接近。勢いそのままに、悪魔に剣を突き立てる。しかし、はじかれ、飛ばされる。それでも壊れることの無いこの剣は、やはりとても強く作られているようだ。その剣を今度は真後ろに突きたて、勢いを殺す。
しかし、その剣が突きたてられたところは、床ではなく地面。よく見ると、周りは壁ではなく木漏れ日の気持ちいい森の中の開けた場所。一瞬、違うところに飛ばされたのかと思ったが、それは違う。かろうじてすぐ近くに、家の土台と思われる木切れが刺さっていた。そして、森の中にはまだ眠っている老人が見える。つまり、場所は変わっていない。家が丸ごと破壊されつくしただけのことであった。
まあ……当然の結果だな。家の中で戦闘すれば。家の中での戦闘はやめましょう。
とは言っても壊れてしまったのはしょうがない。後で弁償しよう。金なら冗談みたいにあるし。
……と、それはともかく。それほどの力を持つ生き物。本当に現実のことなのだろうか。約四ヶ月前の俺なら絶対信じられなかっただろう。しかし、今目の前に広がる光景は紛れも無い現実。痛みも、苦しみも。
剣を振るいながら、そんな物思いに耽る……暇すらも無い。考える隙も無くなる。
魔法は俺の体に当たる。俺は打ち返す。しかし、効いていないかのようだ。対して俺は、生命力をどんどん削られていく。絶体絶命だ。――仲間がいなければ、の話だが。
次の瞬間。ハーゲンの首は爆発した。アリスの魔法である。
そのおかげで彼の視界はふさがれ、少しの間、身を隠し休むことができる。
「ありがとう!」
俺が礼を言うと、
「当たり前でしょ! 仲間なんだから!」
と、返事をくれる。
――だよな。あたりまえ、だよな!
少し経つと煙は消え、視界は開けていく。
開けた場所には、俺ひとりしかいない。剣を打ち合う俺と悪魔。悪魔の背後には、笑顔の悪魔がいた。ユウである。いや、正確に言うと、悪魔である死邪を取り付かせたユウである。
ユウは、ハーゲンを悪魔妖剣と化した死邪で斬る。悪魔の、黒に果てしなく近い赤の血が飛び散る。不意打ち成功。
「何っ!?」
「言っただろ。――俺は一人ではないと!」
仲間がいるんだ。だから、まだ、戦える!
ユウは闇のオーラを噴き出しながら言う。悪魔は振り返る。
「君の命、狩らせていただくよ。ふふ、これはいい魂だ。殺しがいがある……。ふっひひいっへっはっはっは…………」
おっと、
「殺すぜぇ……❤」
やっぱりやべーやつであることに変わりは無いが。
「やっと本領を発揮しましたか、
「うるさいさっさと消えやがれ」
ズバッ
ユウ――いや違う――
それはしゃべっていたハーゲンにクリーンヒット。彼はまたもや血を飛ばす。
「ちょっとは空気読め……」
ハーゲンはさすがに耐え切れなくなったのか、タメ口で突っ込んでいた。
「あ、惨殺の
舌なめずりをしながら
あれ? どんどん雲行きが怪しくなっていったぞ?
……って、周りには誰もいないって言っていなかったかこいつ!? 仲間はどうした! どこ行った! いや確かにこれ見たら逃げたくなる気持ちもわかるし、こっちの命の危険もやばい気がするし! ああああ、俺も逃げ……
「こいつは傍観者だ……。ふふっ。せいぜい愉しめ。俺たちの、拷問をなぁ……❤ くっふっふっふっふっふっふ……くぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
闇のオーラがまとわりついてくる。いやっ! 気持ち悪い! 穢れちゃうっ! あっ…! いやぁぁぁぁぁぁ!!!
誰か、俺をここから逃がしてぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!!!!!
そんな俺の魂の叫びを無視するかのように、
――このやべーやつが来れば、狂気は自然とついて来る。純也は、グロいほうのR18規制相当の事案を生で見せられながら、こう思っていたそうだ。
ちなみに、純也はまだ16歳であった。
**********
――数時間後。エンテ町長の家。
先に断っておくが、三人称になっているのには突っ込まないでほしい。理由は、肝心の語り手が……
「あはははは。もう駄目だ。あはっはは」
こうだからである。やべーやつにやべーものを見せつけられたことで、精神が一時的にやべーことになってしまったと推測できる。
ちなみに、ユウは森の中で放置プレイである。リリスたちは
純也が正気を取り戻したのは、あれからおよそ12時間後のことであった。彼は、後にこう語ったという……。
「あのときのことは思い出したくない。ああ、あの狂気の拷問。肉片と内臓の……おっ、思い出しただけでっ……――! ――……あははははははは」
このことは彼の脳裏に深く深く刻まれることとなった……。
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