第63話 神様と、決断

 午後、町の再建を手伝っていた。とはいっても、幸い敵に壊された部分は少なく、もうすでにいつもの活気が戻ってきている。半日しか経っていないのに、陽気なものだ。

 俺は大工を手伝っている。実はもうすでに冬なのだが、タンクトップ一枚で汗水たらして働いた。


 夕方。俺はマッチョウさんの家に帰った。

「お帰り!」

「ああ、ただいま…」

 俺はすぐに倒れこんでしまった。

 ああ、足がパンパンだ…。少し体を酷使しすぎた……。意識が飛んでいく………。

 マッチョウさんの「大丈夫か!?」と心配する声をよそに、俺の意識は落ちていった。

 

**********


 …………教会に来い………教会に来なさい……教会に来るのです…教会に…

「はっ!?」

 何かに呼ばれるような気がして急に目が覚めた。もう周りは真っ暗。誰も俺を呼んでいない…?

『教会に来い』と頭に響く声。

 あれ?前にこんなシチュエーションあったよな。だいぶ前のことだけど。まったく同じことが数ヶ月前にあった気がする…。

 困るんですけど。今日は本当にいろいろあって疲れきったから休みたいんですけど。

 考えてもどうせ目は覚めてしまっている。仕方がないから行くことにした。


 そこにいくと、やっぱり、白いひげを長く伸ばしたおじいさんが待っていた。

「やあ、待っていたよ」

「はいはい。で、用件は何ですか?」

「無視!? ……こなれてきたもんじゃのう」

 まあ、何ヶ月もこの世界ですごしていれば、慣れてしまうもんだし。ちょうど聞きたいこともあったし。

 ハデスは話を進めた。

「無事、ひとつの運命を元に戻したようじゃから、伝えにきたのじゃ」

「そうなのですか。……ひとつ?」

「まだもういくつかあるようじゃ」

 マジか。まあ、仕方ねえ。がんばるか。

「ちなみに、俺が戻さなければどうなっていたんですか?」

「あのまま町は滅んでたようじゃの。あの悪魔幼女も連れ去られて、奴隷化されるところじゃった」

 奴隷悪魔幼女という響きにエロチックな魅力を感じつつ、同時に、これでよかったのか……と安堵する。無我夢中で動いていたので、これであっているかどうかが不安だったのだ。

「しかし、モイライさんいわく、『まだ運命が捻じ曲げられたところがあるから引き続きよろしくね』とのことじゃ。がんばりなさいな」

 はいはい。わかってますよ。めんどくせえ。

「ところで、聞きたいんですけど」

「何じゃ」

「悪魔に頼みごとをされたんですけど、聞いてもいいのでしょうか」

「ああ、ついさっきもここで同じことを聞いたものがおったのう。さて、お前さんはどうしたいのじゃ?」

「……俺は、あの人の力になってやりたいです。リリスちゃん、じゃなかった。リリスさん、とっても困っているみたいだったし。いくらなんでも俺は困っている人を無視できるような人間じゃない。後、リリスちゃん可愛かったし。好感度を上げればリリスちゃん√のラブコメ展開もあるかもな。うん、誰かとそういう展開になるのも悪くない。そろそろ俺にもラブコメが訪れてくれないものかなあ。異性の友達は何人かできたけど、俺をラブのほうの意味で好きになっている人なんて……いないはず……だから恋人作ってリア充になりてえよ。ああああ、美少女と恋愛してえええええ!」

 後半の数行は完全に願望である。しかも話が完全にずれていたし。

「ちなみに、お前をラブのほうで好きになった女ならもうすでにおるぞ。気付いていないだけでな」

「えっ! 本当ですか!? うそじゃありませんよね!? ……いや絶対うそだ。どうせ俺に魅力なんてあるわけない……。誰かに好かれる程度の能力があればいじめなんて……いじめ……あああああ」

 純也は、何かいやなことを思い出したらしく落ち込んでしまった。

「ま、まあ、それはともかくの。お前さんがやりたいようにやればいいのではないかのう」

「……はい、わかりました。リリスさんを救って、運命を元に戻してやりましょう!」

「よし、その意気じゃ! がんばれ!」

「はい!」

 それから、俺は家に帰った。


**********


 さて、翌日。俺は朝からあの森の家にいった。

 もう三回目になるので、迷うことはない。俺はだが。

 

「あの家はどこにあるのよ! そしてここはどこ!?」

「何なのこの森! 昨日来た時と道筋が変わった気がする!」

「まあ落ち着いて~。そんなに混乱しても何も始まらないよ~。お茶でも飲んで落ち着きなよ~」

「「今、遭難しているんだけど!?」」


 うん。迷わなかったのは俺とユウだけだった様で、ほかは、遭難してしまったようだ。まあ森は広いからな。その割にはみんなの声が近くで聞こえるんだけど。

「何でみんな迷っているのかな。このあたりの地形なら簡単に覚えられるはずなのに」

 ユウ、お前は記憶力まで超人的か。こうして覚えているのは俺とお前だけだと思うぞ。


 そうこうしているうちに、チェシャだけが着いた。さっきまでアリスたちと一緒にいた気がするが、どこかではぐれたのだろう。

 チェシャは、俺たちを見てなぜか微笑んだ。なんとなく意味深な気がする。チェシャのたまにしか見せない笑顔自体は可愛いし良いのだが、その笑顔に隠された邪悪な心まで見えてくる気がする。俺は心が読めるわけではないが、少しだけ寒気がした。

 ちなみにチェシャは、

(あ、ユウとジュンヤ君が一緒にいる。今まで二人だけで何してたのかな…。二人で(アーッ!)なこととか、(ピーッ!)なことや、×××なことしてたのかな…。妄想がはかどる~!ふふふ…フフフフ…腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐)

 BL的な妄想をしていた。しかも、伏字処理が行われるほどやばい妄想を。ジュンヤの勘は正しかったようだ。隠れ腐女子のチェシャさんであったのだ…。

 純也は、そんな残念な猫系美少女腐れ僧侶を放置プレイしてほかの人を待ったのだった。

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