第62話 悪魔たちの真実

 その日の昼。

 俺たちはエンテの長老の家にやってきていた。そこであれば、会話の内容を誰にも知られずにすむ。

 ここにいるのは、先ほど悪魔と戦った人間(俺を含めて7人)と、ユウが従えている悪魔“死邪”、それとリリスである。ちなみに、この小屋の主であるエンテの長老は別室で昼寝をしているため、ここにはいない。

 カイが口を開く。

「説明してくれ。あんたが何者なのか、そして、なぜあんたが狙われるのかを」

「教えよう。まずは私の正体から」

 リリスは、その真実を語る。

「私は、最初の人間であり、“魔王”サタンの元妻、元“魔界幹部”のリリスだ」

 彼女が語る真実は、こんなものだった。

 昔、アダムとともに生まれた彼女は、長い時を過ごすうちに、アダムとは神からの扱いが違うことに気づく。それに怒った彼女は海に身を投げる。それは、アダムの肋骨からイヴが作られるずっと前の話だ。

 それから、彼女は神からの呪いの末に悪魔となり、ずっと前に堕天していたサタンをたぶらかし、自分の夫とした。それ以降はサタンが治めている悪魔たちの世界である魔界の事務をやりながら(たびたび地上に上がり男をたぶらかして)平和に過ごしていた。

 しかし、事の発端は18年前。悪魔のうち一体がクーデターを起こした。

 幹部悪魔が一体、その他大量の悪魔が犠牲となり、その事件の処理のことでサタンともめてしまった。ちょうど倦怠期が来ていたのかもしれない。そのことで大喧嘩をした。

 さらにその夫婦喧嘩は魔界全体を巻き込み、ついにはサタン率いる裏切り者は粛清すべきとする“粛清派”、リリス率いる命を奪うことはいけないとする“擁護派”に分かれた戦争となった。

 3年にもわたる戦争の末に、粛清派が勝利。リリスたちは死刑とされたが、執行前に脱走。10年にも渡る放浪の末にアリスの母に拾われて、そのまま今に至る。

「しかし、脱走がばれてここまで追い詰めてきたようだ。おそらく私は魔界に連れて行かれて奴隷のごとく使われるか、そのまま死刑執行か……。どちらにしろいい事は何もない。だから、頼む! 私に力を貸してくれ!」

 死邪とユウ、アリスの三人以外は驚きで固まってしまった。

 マジか。ものすごいえらい悪魔がここにいて、俺たちに頼みごとをしてきている。こんなことがありえるのか。ありえるか。神が直接頼み込んできたこともあったわけだし。でも、受けたほうがいいのか、これは。悪魔の頼みごととか聞いてしまってもいいのだろうか?

 どうにか動けるようになったファイが質問する。

「……ねえ、あなたの正体とここにいる理由はわかったけど、あんなに強ければわざわざあたしたちの力を借りる必要なんてないじゃない。どうしてあたしたちを巻き込もうとするの? その理由を教えて?」

「ああ、私は今のままじゃ悪魔たちを倒せないからだ。下級の雑魚なら倒せるけど、あいつみたいな上級悪魔は本来の力を取り戻さないと倒すことができない。世界を渡る際にどこかにおいてきたのだろう。だから、もしも私が上級悪魔に襲われそうになったら、助けてくれ。全員の力をあわせれば、倒せるはずだから」

 続いて、ラビが。

「では、今回あなたを襲ってきた禿頭の悪魔は何者なのですか? あなたやそこにいる悪魔はあいつに対して強い恨みを持っていたようでしたが」

 それには死邪が答えた。

「……あいつはハーゲンという幹部悪魔だ。サタンの秘書で、ものすごく頭が固い。俺も姫さんもあいつのことは大の苦手でよ。俺なんかよく喧嘩を吹っかけては返り討ちにされてたぜ」

「私もよくあいつと喧嘩してたな。たまに決闘と称して殺しあっていたのが懐かしい」

 そして、俺が質問した。

「どうしてこの世界で生きることにしたんですか?」

「……その意味を聞こう」

「先ほど世界を渡ったとさりげなく言っていましたよね?私は異世界の存在を知っています。あなたはいくつもの異世界をめぐったのでしょう。その上で、なぜこの世界にとどまることに決めたのですか?」

「……ただ単に居心地がよかったんだ。家族がいる平和な生活など向こうでは考えられなかったからな」

「あなたの夫は?」

「多忙すぎて子作りもあんまりできなかった。魔界を統べる王であるから仕方ないと割り切ってはいたが、家の中は私一人だけで少し寂しかったんだ。だから、少し泊まっていくだけのつもりが、気がつけば楽しくて何年も経っていたんだ」

「……」

「今の生活を守りたい。だから、私に力を貸してくれ!」

 そこで、チェシャが口を開いた。

「……それは、ちょっと考えさせて~?」

「その理由は?」

「リリスはこの町の大切な仲間。だけど、神様は基本的に悪魔に手を貸しちゃいけない。それは一応聖職者をやっているあたしもおんなじだから、ちょっと考えさせて? だめ?」

「そういうことか。なら一晩経ったら返事をくれ。待ってる」

「うん。わかった」

 そして、俺たちは町へ戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る