第60話 悪魔との、戦い

 先に動き出したのは、リリスだった。走り出し、その小さな体で強力な魔力を込めた蹴りを放つ。いつもこの悪魔をふっ飛ばしていた蹴り。それは――

「何!? 効かないだと!?」

「ふふふふふ。今回は飛ばされませんよ。あの方から直接力を賜ったのです」

 効かなかった。まったく。

「今度はこちらの番です」

「みんな逃げろ!!」

「どういうことだ!? 説明してくれ!」

 リリスの言葉にやっとカイの頭が再起動したらしい。

「それは全部終わったあとに説明するから! 今は目の前の敵に集中しよう!」

「あ……そ、そうだな!」

 カイたちはよけた。その瞬間、光の弾がその場所に撃たれた。その場所にとどまっていれば全員死亡は免れなかっただろう。

 そのまま、乱戦が始まる。ラビが攻撃を受け、カイが剣で直接攻撃。ファイとアリスがそれぞれ魔法で攻撃し、チェシャとユウがそれらを支援し体力を回復させる。リリスは魔力を込めた蹴りや超強力な魔法で攻撃を行っている。

 しかし、悪魔も負けてはいない。魔法を活用した強力な攻撃。細かい魔力調整により、的確に攻撃を当ててくる。

 戦況は、人間が圧倒的に不利だった。


**********


 向こうで仲間たちが戦っている。俺も負けないようにがんばらないと。でも、もう体力が限界に近い。魔力はもう切れてるから、魔法が使えない。

 俺が斬った死体は高い山のように積み重なっている。剣は血で本来の色を見失っている。俺の体は傷だらけで、血が噴き出している。敵の一体一体は不自然なほど弱くても、それが何百何千と襲ってくれば自然と消耗する。ここは現実だから、ゲームのように延々と戦い続けられるなんてことはない。疲労だってあるし、ストレスも半端ない。

 はあ、ここまでくれば、魔法さえ使えればミッションを終えられるのに……――

 死体の山の頂上にいる純也の目の前に、剣が刺さった。白く輝くきれいな片手剣。

 どういうことだ? ――ああ、やっとできたのか。

 その直後、短い杖が同じところに落ちてくる。それには手紙がくくりつけられていた。

 

 〈ジュンヤ様。


  頼まれてた剣と杖だ。直接渡せねえから投げておいた。


  金は後できっちりいただくからとりあえず町救って帰って来い。待っているぞ。


 

  P.S.

  ポーションも数本投げておくぜ。差し入れだ。


 しがない鍛冶屋より〉


  ありがとう、鍛冶屋のおっちゃん!


 その直後、俺の頭の上にポーションが入った風呂敷包みが落ちてきた。俺はとっさによけた。危なかった。死ぬところだった。

 それはともかく、俺は杖を持った。杖の魔力が俺に流入してくる感覚。

 俺は、壊れかけた鉄の剣を死体に突き刺し、さっき落ちてきた剣を持つ。そして、そのまま死体に杖が持つ魔力で「火発生ファイア」。

 そのまま、ポーションを持ってその場を離れる。死体が燃え始める。この火がバリケードの代わりとなってしばらくあの鎧男を抑えられる。死体の山のふもとでMP回復ポーションを飲んで、魔力を回復。さらに保険として、土を作り出し、そこにファイアを付与。こうしておけば、土に込めた魔力が切れるまでは火が出続ける。

 それを死体の山にぶん投げた。これで死体の山は長く燃え続けるはずだ。

 よし、ミッション1完了。早くアリスちゃんたちのところへ行かないと!

 

 **********


 戦いは続いていた。

 しかし、いまだ勝敗がつく気配は見えてこない。このまま永遠に続くのかと思われた、そのとき。

「このままでは埒が明きません。もう飽きてきましたし、お遊びはやめましょうか」

 悪魔は動きを止めた。そして、手を上に掲げ、大きな闇の弾を作り始めた。

「――!! やばい! みんな、この場からすぐ離れろ!」

「それはわかってるわ。でも、動けない……!」

「何!? ――ああ、不可視の束縛術か!!」

 不可視の束縛術、俗的には金縛りといわれるその術は、悪魔には効かないが、人間には強力な効果を示す。一人ずつしかかかけられないが、それでも人間が意識して破ることは困難なため、とても効果的であった。

 リリスにはかかっていない。彼女はどうするべきだろう。まもなく、闇の弾は落ちてくる。リリスにも打ち消せないほど大きな魔力。受ければ全員一発で死ぬ。

「行け、悪魔の殺戮撃デモニック・ディストラクション

 デモニック・ディストラクションと称されたその弾は、その場を蹂躙すべく、堕ちてくる。その殺戮をとめるすべは、なかった。

 堕ちる闇に飲み込まれ、すべては消えうせる……その瞬間。

魔法解除ディスペル!」

 魔力は爆発した。

 魔法とは、いわゆるプログラムのようなもの。発動者が命令を下し、魔力がそれを実行する。その魔力への命令、および、それによって起こる現象こそが魔法なのだ。

 魔法が解除されれば? 答えは簡単。魔法によって保っていた形が崩れ、魔力が大気に放散されるのだ。

 つまり、それによって、闇の弾はただの魔力となって消滅したのだ。

 それを行ったのは、黒髪の少年。真新しい杖を構えて、悪魔を睨みながら、こう言った。

「よくも、仲間たちを、傷つけたな。お前を、許さない。今から、俺たちが、お前を、殺す!」

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