第57話 帰還、そして期待

 それから二日たち、純也たちは帰還した。行きよりも早く到着した。

 町は大盛況。お祭り騒ぎだった。彼はもはや町の人気者と化していた。

 そんな大歓迎もそこそこに、純也は鍛冶屋へと向かった。

「久しぶりっす、鍛冶屋のおっちゃん」

「お、その声は。何ヶ月ぶりだ? とにかくお疲れさん。とりあえず、茶でも飲んで行きな」

「ありがとうございます」

「まあ、ゆっくりしてけや、黒い剣士さんよ」

 二つ名呼びはもう気にしない純也である。

「で、用事は何だ?」

「ああ、例の杖のこと」

「あれか。あの、装備した人の魔力が跳ね上がる短杖か。そのためにアレーに行ったんだもんな」

「そうっす。作者ですらしばらく忘れてた解説ありがとう。ちゃんと世界樹の葉とかミスリルのインゴットとかも(金に物言わせて)買ってきたから、素材もそろった」

「あ~。それが……素材はもう少し少なくてもよかったみたいなんだ」

 鍛冶屋のおっさんが申し訳なさそうに言った。

「……は!?」

「すまねえな。よくよく調べて見ると、数字がおかしくなっていたみたいなんだ」

 じゃあ、今までの苦労の日々はいったい……。なんだか悲しくなってきた。余りの素材はどうしようか。金はもうすでに大量にあるし、売る必要はないな。……いや、今後の生活のことも考えて売っても良いのか? そもそも売らなければこの大量の素材は? ああ、わからなくなってきた!

 しかし、それも取り越し苦労だったようだ。

「ああ、でも心配するな。余りの素材で剣も作れるようだ。今まで二本目は安物の剣を使ってただろ? これだったら性能がものすごく良いから長持ちする。今ならまけとくぜ。どうする?」

 よし。

「じゃあ、それでお願いします!」

「へい、まいど! よっし、今から作るからちょっと待ってろ!」

 そういって、鍛冶屋のおっさんは工房の奥に行った。あのいろいろとすごいひとのことだ。きっと良いものが出来上がる。

 やっと安物の切れ味が悪い剣じゃなくてすごく性能のいい剣×2で戦える……! しかも魔力も上がる……!

 期待しながら、待っていた。


 **********


 そして、3時間たった。

 その間はしばらく街中をぶらぶらと散歩していた。冒険者ギルドの酒場に顔を出したり、そこで酒宴を開いたり。気づけばもう夕方である。

 もうできたかなと工房に行くと、まだおっさんは居らず、代わりにバイトらしい青年が店番をしていた。奥から金属をたたく音がする。まだ作業中らしい。バイトの青年が話しかけてくる。

「あ、いらっしゃいませ――あ、あなたはあのジュンヤさんですか!?」

「うん、いかにもそうですけど……」

「握手してください! あなたのファンなんです!!」

「え!? あ、いいけど……」

「ありがとうございますっ!」

 彼は強引に俺に握手して来た。なんか腕がぶんぶんと上下に振られる。よくわからないが、俺のファンらしいな。増えてきたな、俺のファン。

「いつも噂をよく聞いていたのですが、こうして会うのは初めてですねっ! ああ、神よ! われに聖なる出会いを与えてくださりありがとうございますっ……! 感謝いたしますっ……!!」

 涙を流して神に祈りをささげている……。俺ってこんな、会えた事で神に感謝されるような人間じゃないよ? どちらかというと、友達に「ああ、何だ、お前か」って言われる程度の男だよ!?

 盛大に戸惑う俺。涙を流しひざまずき神に感謝する青年。鍛冶屋の店内はカオスな空気が流れた。

 こんな空気を壊してくれたのは、青年のほうだった。彼はひとしきり神に感謝し終えたのか、立ち上がり、顔を上げて、こう言う。

「そういえば、親方からこんな伝言を預かっていたんでした。『完成は明日の朝になるだろう。それまでゆっくりしていな。フウウッ! ノってキタァァァァァ!』とのことです。うっかり忘れるとこでした」

「ああ、ありがとう。じゃあな」

 そういって、俺は鍛冶屋を後にした。

 さて、早く帰って寝よう。旅の疲れで足がパンパンなんだ。

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